ららららら~るるるる~ららららら~るるるる~。
「緑子と結婚したい~~~~」
「すればいいじゃん」
ジョッキの取っ手を握ったままテーブルに撃沈し願望をのたまう大星に、一志と千歌は異口同音に返した。大星と緑子は付き合って十分経つ。二人ともいい年なんだからしたければすればいい。何の問題があるのかと、面白味もないつむじを視界に入れながら一志と千歌もビールを呷った。
「指輪のサイズが分かんないんだよ……」
「アラ、それは意外と大問題」
下らない事で呼び出されたと辟易していた本心を隠す千歌の建前の表情が変わった。面識の無い一志と違って、千歌は緑子と長い付き合いがある。枝豆に伸びかけた手をさっと引っこめ話を聞く意思表示をすれば、大星はノロノロと顔を上げこの世の終わりのような表情を晒した。
「どうすりゃ、緑子にバレずに指のサイズが測れると思う?」
収集の理由はこれか、と二人は顔を見合わせた。
「こういうのはどうだ? スーパーウルトラスペシャルアルティメットプランA」
片腕をテーブルに置き、身を乗り出して一志が提案した。
「占い師?」
「そう、だから緑子も占ってもらえば?」
デートの最後に寄ったカフェで偶然再会した――――風を装った一志を、大星は占い師だと紹介した。手相を見るのが趣味なので、真っ赤な嘘をつくよりはうまくいくだろうとは一志の言だ。
遠慮無く大星の隣に着席して、一志は正面の緑子を見据える。ニコニコ人の好い笑顔も忘れない。
「大星、席外してくれる?」
「うん? じゃあトイレ行ってくるわ」
どうやら緑子の琴線に触れたらしい。
近しい者に相談や悩みが打ち明けにくいタイプの人もいる。退席を促された大星は、顔見知りではない一志だけにした方がスムーズに吐露できるだろうとその場を後にした。
「じゃあ、手相が専門なんで、手貸してもらっていいですか。何占います?」
一志の作戦は、占いに乗じて手に触れ指の太さを見積もろうというものだった。自分の彼女より太い・細いか分かれば、彼女のサイズを基準に緑子のサイズも見込めるだろうという筋書きに、大星はゴーサインを出して今日に至る。
「じゃあ、大星とのことで、このまま付き合っていいものかどうかって分かります?」
「え゛、そりゃまたどうして」
思わず焦った。別れたいという話なら、現在進行形で結婚したくてどたばたしている大星が哀れすぎる。
「付き合って長いんですけど、でも一向に関係が変わんないというか、結婚のけの字も出てこなくて……。現状維持を望むならまだ私も色々考える余地があるけど、最近コソコソしてるし友達と飲んでくるって外出も増えて。今まで仕事の電話だって私の前でしてたのに、話聞かれたくないのかベランダで電話するようになったのも怪しいし」
一志には思い当たる節があったが、迂闊にそれは……なんて説明もできない。
「浮気とは思ってないんですけど」
「え、今のだとかなり黒に聞こえるけど」
大星の無実は誰よりも知っているが、予想だにしない一言につい反応してしまう。
「浮気の定義は人によるって事で、私はまだ、大星が隠れて他に関係を持っているようには思えないって意味です。大星、素直だしあからさまだし」
「あー分かるー」
今回、指輪のサプライズを企んだものの自分一人で実行しなかったのもその分かりやすい性格を自覚してのことだろう。
「露骨な感じじゃないにしても、心移りはしつつあるのかな……って。もし他に好きな人がいるなら、黙って別れた方がいいんでしょうか。私はまだ、好きなんですけど」
「いやいや、違う違う違う!」
「え、もう手相の結果が出たんですか?」
「それも違う!」
大星の友人として一志は力強く否定する。
「大星は小野さんのことめっちゃ好きだ。その証拠に――――」
そうして昔のことから最近のことまで、大星が緑子をどれほど好きか分かるエピソードを滔々と披露した。
トイレにしてはやや長く、頼んだ飲み物も温くなり始める頃。これだけ時間があれば十分だっただろうと大星はテーブルに戻った。そこには異様な光景が広がっていた。
「あいつ、小野さんのお土産探しに熱中しすぎてバスの時間に間に合わなくて、でもこれで土産話が一つ増えたって笑ってて」
「そんな事が? 知りませんでした」
「あの野郎、最終的にかっこつける方を選んだな。でもとにかく俺が言いたいのは、大星は小野さんのためなら苦労も失敗も厭わないってことで……」
「知ってます。大星には、いつもしてもらってばっかりで。なのに私は何もできなくて、挙句疑ったりして……」
「ぐすっ、ぐすっ。思いやりばっかりのいい子だな゛~~あっ大星、何小野さん不安にさせてんだよぉ゛~~~」
「えっ、大島さんそんな泣かないでください~ちょっと大星~~~」
「いや指のサ……占いは?」
スーパーウルトラスペシャルアルティメットプランA、あえなく失敗。
中学の時、東京のファミレスで偶然見かけた新●の母に占ってもらって以降手相を趣味にしている社会の先生に占ってもらったら、一緒にいた子が「三回結婚する」と言われた一方私は「浮気のうの字もない。気持ち悪い」と言われたことがあります。
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