出会いと別れの季節って、勝手に決めないで。
「この国の隅々にまで不老不死の薬を見つけるよう布告した。きっと、今度こそ大丈夫だ。だから私の后となれ、十八の君」
決してもう若くはないが、然し年老いたと言うにはまだ早い男が、この国で一番高貴な椅子の上で宣う。
「君はまだそんなものを探しているのか。この前も部下に裏切られたというのに」
痛いところを突かれた男が顔を顰める。東の大国の皇帝とは思えない愚かさ。
「その話は何度も断ったはずだ。私には将来を誓った男がいる」
なんてことない風を取り繕ってはいるが、胸がかすかに痛む。
なぜなら。
「私も何度も言っているはずだ。その男はとっくの昔に死んだのだろう。なら私を選べ。お前の長い生の、たかだか十数年の間の話ではないか」
男の生まれるずっとずっと前から私は生きている。然し見目は、明らかに私の方が若い。
恐らく、年をとらぬ訳ではない。赤子から暫くは実際、至って普通に成長し、そしていつしか年齢と姿が合致しなくなった。不死でもないだろう。傷や病を得れば痛み人並みに快癒に時間はかかる。ただ、若々しい身体で持て余す程の時を過ごした私を不老長寿と人は見做す。それで正解だろう。
皺の刻まれていない顔、艶めいて波打つ黒髪、豊満な乳房。
取柄と言う程のものでもないし、これまで幾人もの佳人を見知ってきたのでさして己を美しいとも思わない。とは言え物珍しさという付加価値が、数多の異性を引き寄せた。この男も然り。
何千もの美姫と異なり、私は正式にはこの宮殿に迎え入れられていない。最大の理由は、子を望まれていないからだろう。この国を統べる男が私に一番に求めるは、どの博士よりも積み重なった歴史の智慧。そうしてあわよくば、不老不死の手掛かりを。だから手元には置いておきたいが、存在が知られれば混乱の種になるのも明らかなので、有職の者として出入りしている。
「それでも……約束した。だから」
皇帝の申し出を、このような物言いで足蹴にする不届き者など、とうの昔に死を賜っても可笑しくない。
けれど。
齢を重ねない私がいつしか畏怖や憧憬を込め「十八の君」と呼びならわされるようになったとて。唯一人私の名前を声に出して忘れないでいたくれたあの人を、自分から手離す真似は出来ないのだ。
松の日。
構想は練ってるのでこれは続けて完成させたい。
取り入れた小ネタ
・十八の君→松の異名
・松と待つ
・松から想起される不老長寿
あと後々知ったのですが、松のこと洒落て「始皇帝」と言うそうです。なんという偶然の一致。
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