ああ、もう四日。
壁かけカレンダーの赤い「3」が収められたマスに斜線を引いて憂うつになる。ああ、もう四日。
明日、五月五日は誕生日である。私ではなく、西山の。
西山はクラスメイトで、その前に義務教育一年目から同じクラス歴をずっと更新している腐れ縁で……要約すれば私の好きな人である。
「好きな人」には二種類のタイプがある。片思いの相手か、両思いの相手か、だ。西山は前者だ。
なので、今年は距離を詰めたいと、文化祭やクリスマスなどの主要恋愛イベントより前にやってくる誕生日に手を打つことにした。
……はずなのだが、そこから先へ計画は進まず、早い段階から行き詰まりを覚えていた。まず、プレゼントが決まらない。
王道なのはケーキだが、生ものだからと公園に呼び出しその場で食べてもらうのは違う気がした。これじゃどんな有名店のおいしいケーキも浮かばれない。落ち着いて食べてもらうには自宅が一番だが、直接届けるとなると西山の家族に目撃されるかもしれず恥ずかしい。
消えもの以外にも形として残る何かを贈りたく、西山の好きなバンドのCDがアイデアとして浮かんだ。邦楽には興味のない私も知っているメジャーなグループだ。最新のアルバムはと調べたら、数年前に出たきりだった。CDが売れない、とはこういうことなのだろうか。そもそも、西山が時間をつぶすときは動画サイトで音楽を再生してる。手軽に購入してダウンロードしたり、サブスクに加入したりしているんだろう。音楽に疎すぎて、うかつだった。
こうなってくると、もうノートやペンぐらいしか選択肢が残っていないが、それはあまりにも味気ない。
こうして贈るものの中身が決まらず、そして会う約束をしないかぎり当日プレゼントを渡せないというのが目下の悩みの種だった。まさかゴールデンウィークを恨めしく思う日がくるなんて。
結局問題が解決しないまま誕生日前日を迎え、24:00ぴったりにおめでとうメールを送ることにした。ありきたりすぎて情けなくなってくる。
『誕生日おめでとう。何か欲しいものとかある?』
文面、これで大丈夫だよね? 変じゃないよね? これで西山が好きだってこと、ばれたりしない?
プレゼントも、相手が望む品を直接聞き出して決めるという失敗はしないけど無難な展開になってしまった。ため息。
少しでも好転するよういろいろ考えていられるのも23:59までだった。どうしようもなくなって送信した短文を、未練がましく見つめてもしょうがないとケータイをテーブルに置く。もう寝てしまおう。
時間が時間なので眠る準備は済んでいる。ベッドの掛布団をめくったところで、電話のコール音がした。こんなに短時間でレスポンスがあるとは期待もしていなかったので、画面に表示された名前を確認するまで西山とは夢にも思わなかった。
「も、もしもし」
「もしもし」
「どうしました?」
「なんで敬語……メールあんがと」
「見たの?」
「見たけど。え、だめだった?」
明らかにおかしい切り返しに会話が続くほど恥ずかしさが募る。せっかくお礼の電話をくれたのに、切りたくて仕方ない。
「で、プレゼントだけど」
「高いものはムリだかんね」
「分かってるって」
そこからしばしの間。なぜ急に沈黙が生まれるのか分からず、緊張してしまう。落ち着かないあまり何かして気を紛らわせようと意味もなくケータイを持ち替え、反対の耳に当て無言の時間をやりすごす。
「もっかいさ、今度はちゃんとおめでとうって言ってくんね? 連休明け、学校で」
「は?」
「じゃ、ちゃんとリクエストしたから」
一方的に連絡を断ったのに腹を立てるいとまもない。急上昇した恋の予感。
まさかゴールデンウィークが早く終われと思う日がくるなんて!
恋昇。
5/4




