あ~~~~~目ん玉取り出して丸洗いしたい。
君の虹彩は魔法をかける。
本当だよ。ずっと見据えてきたから間違いない、自信をもって断言できる。
青みがかったグレーの虹彩は、凍てつく冬の海のよう。凍った水面は冷ややかに艶めいて強さと揺るぎなさに満ちる。彩度は低く目立たないパーツが何よりも強烈で。のぞけば誘惑する深淵のように吸い込まれそうだった。何度も這い上がれない場所まで「堕ちる」と錯覚した。
ただ、二粒の黒真珠にのぞきこまれるのは、得意ではなかった。灰青のスクリーンに映るに自分は取るに足らない存在と本心から信じている。反面、その眼にふれる何もかもが羨ましくもあった。ピントを調節され眼窩の水晶にもぐりこみ、視神経を通って脳に認識される。それはその眼の持ち主に選ばれたと同義だ。
段々、見つめたいのか見つめられたいのか、欲求の境目があやふやになっていく。惹かれているのは、眼そのものなのか、所有者なのか。喉から手が出るほど欲しがったとき、どちらがより恒久的に手に入るのか思案したら、文字通り衝動、衝き動かされた。
ホメロスは、若く気高い乙女アテネを「グラウコーピス」と讃えた。意味は「ブルーグレーの瞳を持った者」。
今、目の前に横たわるのは首を切られ血塗れのアテネ。太い血管を斧で勢いよく切断したので、凶器が通過した後の血飛沫は盛大だった。断面から絶え間なく血は流れ、赤い水溜まりはどんどん大きくなる。果ては転がった頭部にまで鮮血の腕を伸ばした。強く握った斧を足元に落とし、慌てて俯せの顔を拾い上げる。切り方が悪いのか、少し間に合わなかったのか、顔面は血で汚れてしまった。くぼみに溜まるように血が付着し、見開いた眼はいつもの色を失い白目の部分まで赤色に覆われている。
ああ、早く取り出して洗わねば。
花粉症についての一文が多く、いくら自分が罹ってるからってそんなに書くネタないよ! と知恵を絞った結果、こういう路線になりました。
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