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ゆるんだ空気に深呼吸。
テストが好きだ。
テストそのものもだけど、もっと言えば、テストが終わった瞬間が。
ピアノの弦のようにピンと張りつめていた空気が、タイムアップを告げるチャイムと同時にぶつんと断ち切られた瞬間。クラスの全員が控えていた呼吸をやっと再開して、息を吐き出すような解放感が好きだった。
キーンコーン……。
今日最後のチャイムが鳴る。途端にそれまでの緊張感を失い、ざわめきの波紋が広がる教室。雑音だらけになって先程までがどれだけ静かだったのか身に染みる。
コトンと手元にシャーペンを置く硬質な響き、紙をめくるざらついたノイズ、テストを回収しようと席を立つ最後列の生徒。それらがかもす、ゆるんだ空気に深呼吸。
机と机の間を通って解答用紙を受け取りに来たクラスメイトに渡そうと、裏面のままだったそれをひっくり返し差し出す。
その時、目に入ったのは――――無記名の氏名欄。
一転、弛緩した空気が凍りついたのは言うまでもない。
例えばクラスに同じようにやらかしたのが二人いた場合、先生はどうやって判別するんでしょう。
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