とりあえず、全部花粉のせい。
「す、好きです! 付き合ってくだぶえっくしょんッッッ」
春は、心機一転と恋の季節である。そこで私、松川由美は17年の人生で一番の勇気を出した。そう、「告白」を決行したのだ。
相手はクラスの人気者、水口君。背が高くてサッカー部の副部長で、とってもかっこいい男子だ。
3年生になって、水口君とは初めて同じクラスになった。1年のとき、かっこいい人がいるな、と顔を見かけてからずっと同じクラス、それがだめならせめて同じ委員会になりたいと願っていた私には、これがラストチャンスだった。
神様がくれたチャンスを逃したくないと意気込んだときには、部活終わりの水口君を呼び止めていた。夕暮れ時、誰もいない校門前でつかまえられたのは幸運だった。
春の夕方は、はっきりしない。太陽が低い位置で赤やオレンジに燃え盛る文字どおりの秋の夕焼け空ではなく、かといって早々に日が沈み辺りの影を濃くする青や紫の冬の空に近いわけでもない。薄いピンク色の時間帯は、春の恋にお似合いだ。
シチュエーションは無問題な一方、思わぬ伏兵がいた。花粉だ。おかげで告白の語尾が少し乱れてしまった。
ちゃんと気持ちは届いただろうか。顔を直視して言い切れる自信を持ち合わせていなかったのでうつむいていたが、心配になりゆるゆる目線をあげる。西日に照らされ陰影のくっきりした顔が徐々に視界を占めていく。最終的に目が合ったとたん、ゆっくりと水口君が視線を逸らした。
「あー、松川さんには悪いけど、おれ彼女が……」
はっくしょーーーん!
うっすらとした筋のような雲が浮かぶ空の向こうまでひびきそうなくしゃみをしてしまった。
「ごごごごめんなさい! よく聞こえなかったからもう1回……」
「だから、もう彼女が」
「くしゅんっ」
「……」
「……」
「くしゃみが大きい女子って好きじゃないんだよね」
私の告白が失敗したのも、全部花粉のせいだ。
被害者は誰。
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