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いまはどこに ボタンの行方。

「俺、宇宙人だけどいいの?」


 付き合って、と告白した相手の第一声がこれだった。

 何を言っているのかまるで意味不明だったけど、ここでノーと返せば失敗は明白だったので「大丈夫!」と自信満々に頷いた。かくして、自称宇宙人との交際がスタートした。


***


 宇宙人こと星真(しょうま)との恋人生活は、すこぶる順調だった。そもそもあれは、星真の妄言なのだ。日本語で喋れる、同じ料理を食べる、睡眠も排泄もする。あの一言以外、星真を宇宙人たらしめる根拠は見当たらない。

 そんなわけで、今日は初デートだ。

 行き先は遊園地にした。

 アトラクションを順々に乗り回し、パレードにうっとりとため息をついていると日も暮れ、園内が色とりどりの光の洪水に飲みこまれる。デートも終わりに差しかかり、歩き疲れたので飲み物を買ってベンチで休むことにした。冷えたコーラ片手に座っているだけでも、夢のようなきらめきと恋人のおかげで退屈しない。

「大事な話があるんだけど」

 突然隣でジンジャーエールを飲み干した星真が切り出してきた。やけに重々しい前置きに顔を横に向けても、真正面ばかりを見つめている。

美衣(みい)に受け取ってほしいものがあって」

 言いながら上着のポケットを探る。

 大事な話……受け取ってほしい……ここではたと気づいてしまった。星真が渡そうとしているもの、それは指輪なのでは? 行き着いた結論に一気に顔がゆだってしまった。

 いや、一回目のデートで渡すはずはないとこれまでの経験を振り返って冷静なわたしと、それだけ星真は本気でわたしのことを好きなんだと期待するわたしがせめぎ合う。

 そしていよいよ星真はそれを取り出した。

「このボタンを持ってほしい」

 ようやく向かい合って差し出されたのは、ボタンだった。

 マンガでも映画でもおなじみの、灰色の土台に赤いボタンがくっついた、いかにも押したらヤバいことが起きますよ、の雰囲気が出ているやつ。

「これは、非常時脱出ボタンなんだけど」

 すっかり気分がしらけて受け取らないわたしをどう思ったのか、真摯な表情で星真が説明を始める。

「俺達は、何かあったときすぐ星に帰れるよう、地球に偵察に来た際は必ず持つよう義務づけられている。ボタンを押せば、即刻星にワープできるようになってるからだ」

 しっかり話を聞こうと気遣って飲みかけのコーラを手離し、膝の上に置いたわたしの手を取り星真はボタンを握らせる。

「でも俺は美衣のことが好きだから、自分から帰るつもりはない。任務の期限が終わっても、ここに残ろうと思っている」

 そこで区切ってから、一際真面目な顔をした。

「だから、俺と美衣の信頼の証として持っていてほしい」

 こうして、マスコットキャラクターのぬいぐるみと一緒に自宅に持ち帰ったボタン。星真の口ぶりでは重要なアイテムらしいが、その管理は結構ずさんだ。本棚の天板に、ぬいぐるみやフォトフレームなどと飾られている……と言えば聞こえはいいが、実際は放置だ。まあ、おもちゃの扱いなんてこんなものだ。


***


 星真とケンカした。それはこっぴどく。「別れてやる!」の最後通牒は喉元で飲みこんだだけ偉かった。

 一人暮らしの星真の部屋でいい雰囲気になったから、それとなく誘導してみた。時期としても、早くも遅くもないはずだ。

 そしたら、「不純異性交遊は、星にいる親の許可を取らないと」。ファンタジー要素に騙されそうになったけど、それってつまりマザコンじゃん(ファザコンの可能性にも気付いたのは帰宅してからだけど、この際どうでもいい)!

 どうして二人の関係に親が口出すことを是とするのか問い質すけど、種族や耐性がどうのこうの、ぱきっとした答えが得られずそのまま部屋を飛び出した。家に着いたらメイクも落とさず布団になだれこみ、うつ伏せでジタバタする。そんなに親の意見が大事か! 恋人との関係を深めるよりも! 

 ゴロンと仰向けになれば、いつもは気にしないボタンが不意に目についた。苛々が増長され乱暴に手に取り床に叩きつけるも下がカーペットだからか壊れない。余計に苛立ちが募り、拾い上げてボタンを連打する。そんなにお母さんお父さんが好きなら、さっさと星に帰って親孝行でもすればいい!


***


 翌日から、星真には会えなくなった。

 電話は不通、メールは送れず、ならばと足を運んだ部屋は空室。ここまでなら徹底的に避けられてると思えなくもないけど、極め付けにわたし以外星真を覚えてる人がおらず、明らかに事態は異常だった。星真との仲を知ってる英梨にケンカを愚痴ったら、「星真って誰?」と聞き返されたのだ。

「え、だからわたしの彼氏の……」

「それって裕也じゃないっけ。アレ、弘志?」

 今まで英梨に報告した星真との付き合いは、全部とっくの昔に別れた元カレとの出来事にすり替わっていた。

 わたしは、今までずっと長い白昼夢を見ていたんだろうか。それとも、本当に星真は宇宙人だったの?

 星真の存在を裏付けるボタンは、今も行方知れずのまま。

星真「不純異星交遊、ダメ、絶対。」

宇宙人が書きたい!まだ書いたことない!とわぁわぁしながら書きました。


評価、ブックマークありがとうございます。


4/7

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