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prologue
どこからか花火のような音が微かに聞こえてくる。
手に持ったスマートフォンから目を離し、音の聞こえた
方角を見るが、マンションに遮られ見ることはできなかった。
そういえば今日は町内の河川敷で夏祭りがあって
いたのだっけ。
そんなことを思いつつ、僕は帰路につく足を止め空を見上げた。
日はとっくに沈んでおり、代わりに妖しくも優しい光を放つ満月が、夜闇を照らしている。
目を閉じ耳を傾けると花火の音に交じり、虫たちの音色が
聞こえてくる。
シャツの隙間から入ってきた、ひんやりとした心地良い風が
汗ばんだ身体を優しく撫ぜ、通り抜けていった。
目をゆっくりと開き夜闇に輝く月を再び見つめなおした。
「あれからもう15年もたつのか……」
こんな月の綺麗な夏の夜にはいつも思い出す。
15年前、まだ僕が10歳だった頃に体験した、おとぎ話の
ような不思議な一夜の出来事を……