第1章−7.彼女の声?!
三月は、まだ火照っている体を倒れこむようにしてベッドに横たえた。
「ふうーっ・・・。」
風呂に入っても疲れはほとんど取れなかった。
一体彼女はどこに行ったのか?
それだけが頭の中を駆け巡っていた。
身近なクラスメートが突然いなくなるというのは、まるでサスペンスドラマのようでまったく現実感が持てない。左沢に特別な感情はまったく無い筈なのに、何なんだろう、この気持ちは・・・。
ちっちっちっ・・・、
枕元の時計の音が今日に限ってやたらと耳に付く。普段ならこ夕食を食べて風呂に入った後の夜の時間は、パソコンをつけたり音楽を聴いたりする、三月のリフレッシュタイムの筈だが、何もする気が起きない。
ふと、最近聴いていなかったお気に入りのCDを掛けてみたが、やたらとイントロが長く感じイライラして、すぐに止めてしまった。
しかし・・・、
人間もやはり生物であり、夜になれば本能的に段々と眠くなる。それは不眠症などに陥らない限り、例え悩みなどがあったとしても基本的に変わることはない。
三月は、いつの間にか意識を失いかけていた。
その時である。
みつきくん!
誰かに呼ばれたような気がした。
三月は、がばっ、と起き上がった。辺りを見回しても誰もいない。いや、ここは自分の家で自分の部屋であり、自分のことを、苗字で呼ぶ者などいる筈も無いのだ。
空耳かと思い再び身を横たえた。ひょっとして、いなくなったクラスメートのことを考えすぎたのだろうか? そう言えば、何となく左沢の声に似ていなくもなかったような・・・。
やっぱり気のせいか。もしかしたら、夢を見ていたのかも知れない。確か夢は、眠りに落ちる直前に頭に思い描いていた事項がよく題材になりやすい、と前に聞いたことがある。
いくら失踪中とは言え、それほど親しい訳でも無いクラスの女子を夢に見るなんて、いくらなんでもヤバいんじゃないか、俺? いろんな意味で。
三月は内心ちょっとばかし自虐的に笑いながら、のどが渇いていることに気が付いた。
眠気はそれ程無くなっていたので、ゆっくりベッドから起き上がり部屋の明かりをつける。そして、台所に向かうため部屋を出て行こうとしたときだった。 ――
みつきくん!
今度ははっきりと名前を呼ばれた。反射的に声の方向を振り返った。
しかし、やはりそこには誰もいなかった。三月は背筋が寒くなるのを感じたが、次の瞬間
もっと下見て・・・
と、その声は言った。声に従うままに足下を見てみる。
そこにあったのはただの通学鞄だった。いや、正確に言えば鞄とそれに付いているマスコットだった。
普通ならばまったく気にも留めない物だが、何故かそれに呼ばれたような気がして、なんとなくじーっと見つめた。すると今度は、はっきりと声が聞こえた。
みつきくん! わたしだよ。わかる? あてらだしおりだよ。――・・・。
その人形は確かにそう言った。
三月は、しばらく何が起こったのか信じられず、我を忘れて人形を見続けていた。
「・・・左田・・・なのか?!」
三月は、人形に向かって思わずそう叫んでいた。