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第1章−4.彼女のいた場所

 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 

・・・。

 



 さっきまでのことがよく思い出せない。

 


 いや、正確には学校が終わってから駅まで友達と歩き、電車に乗ったのまでは覚えている。それから、確か昨日はいつも通ってる塾の日で・・・確かに電車を降りてから向かったような気がする。


 

 でも、ここはどこ?


 

 見慣れない部屋だった。


 人の生活感は確実にある。散らかってはいない。ベッドに小学生用の学習机があるが、明らかに置かれている小物類は、小学生のものではない。本棚に「高校物理」とか「数学B」などの参考書があるから、この机の主は高校生なのだろうか?

 

 そう言えば、部屋の雰囲気も何となくそんな感じだ。

 

 しかし暗くてそれ程よくは見えない。私は電気を付けようかと思った。でも、主がわからない部屋で果たしてそんなことをしてみて良いものだろうか? それに、女性のものにしては地味過ぎるような気もする。暗いのでぱっと見ただけでは判断できないが、ファンシーな小物やコスメなどは皆無のようだ。もちろん、そういう硬派な女子も世の中いる7だろうが、これはどうも男の子の部屋と考えた方が良さそうだ。

 

 私はそう考えて電気のスイッチを探すのをやめた。自分がどんな状況にいるのかわからない以上、下手をすれば命の危険性にまで及ぶ可能性も無いとは言い切れない。


 命・・・?ふと何かが私の頭の中でよぎった。

 

 そう言えば、確か最近、本気で命の危険を感じたような記憶がある。それもかなり最近2、3日前などでもなくもっとごく数時間前・・・、そう、ついさっき・・・!

 

 思い出した。そう、電車を降りてからの出来事だ。

 

 私は、一緒に電車に乗っていた親友の由紀に別れを告げ、とある市内の巨大なターミナル駅で降りた。今日は塾のある日だった。

 いつもの塾へ行く日と同じように、普段電車を乗り換える東口の方へは行かずそのまま階段を上がって西口を出て、人の多い大通りをしばらくまっすぐ進んだ。

 そして、塾の校舎があるちょと狭い路地へ入ったとき・・・、

 突然後ろに人の気配がしたかと思うと、強い力で腕を押さえ込まれたんだ。

 

 持っていた学校の鞄を捨て、必死で振りほどこうとした。しかし、向こうの力は強く少しも抜けない。昔経験した、似たような感覚が瞬時に蘇った。


 そう、あれは確か・・・あのときは・・・。


 はっとした。


 まさか・・・私、誘拐される?!

 

 あの時はまだ幼稚園だった。やはり今と同じように何の前触れもなく外で強大な力に束縛され、その後は・・・、

 

 後はどうだったっけ? とりあえず当時のことも、さっきまでのことも何だかはっきりと思い出せない・・・。体の自由を奪われたまま車に乗せられ、行き先もわからないまましばらくそのまま乗っていたような覚えがある。


 しかしその後はあまりにも恐怖を感じたこしか記憶に残っていない。

 

 今日までこうして学校に通い、無事ここにいたということは私はその誘拐犯から命を落とすことなく解放されたのだろが、どうやってそれが解決したのか、身代金が払われたのか機動隊の突撃でもあったのか、あまつさえ結局車でどんな所に連れて行かれたのかさえも覚えていない。まあ、その辺りの事情はパニックを起こした幼稚園児の頭では到底理解できるものではなかったのかも知れないが、とにかく保護されて父と母の顔を見たときは、今までの人生で最大の安堵を覚え、最後に思わず泣き喚いたことだけは確かだ。

 

 

 そして、直感的に今の状況は当時の感覚にごく近い。

 


 まさか高校生になってまた誘拐なんて・・・と頭の片隅で考えるが、ではどうしたらこの状況が説明できるというのだろう。

 

 必死で記憶を辿る。段々と思い出してきた。とっさに助けを呼ぼうとしたが、声が出てこなかった。記憶の断片を辿って行く。


 そうだ!ようやく話をするときの要領を思い出し、声を出す準備が出来たその瞬間、ハンカチのようなものを口に当てられたのを思い出した。

 

 私が精一杯出した声は、とても悲鳴にはならなかった。

 

 何とか押し付けられているハンカチをどかそうとしたか、何せ腕の自由が効かず、なす術が無かった。

 

 これがよくドラマとかで見る「くろろほるむ」というものなのだろうか?ツンとくる薬品の匂いが鼻に付く。

 

 だが、ドラマなんかと違って実際には即効性はないようだ。よーし、この間に何とかしなきゃ! でもせめて誰かに気付いて貰わないとどうにもならない。


 まずい、眠くなってきた。


 ここは塾の関係者しか通らない路地なので元々人通りがない。しかし塾に行く人が誰かいれば・・・。


 しかしこういうときに限って誰もいない。少し早く来てしまったか?


 何とか・・・なんとか誰か来るまでは持ちこたえないと!


 でも・・・もうダメ、意識が・・・。 そのとき、


 

 誰かが来た。


 

 しかも知ってる人だった。ほら、あのカバンうちの学校の・・・。

 

 私はそこで精一杯その人に気付いて貰おうとした。しかし、私ももう限界だった。私は、一瞬体が宙に浮くような感覚に捕らわれた。


 

 ・・・そして、そこからはどうしても覚えていなかった。


 

 ただ、今はひどく疲れていた。何か視点が通常じゃありないような違和感を覚える。体もひどく硬いような。

 

 これはおそらくさっきのことが原因だろう。それより私はまた最初に考えていたことに戻る。


 

 一体ここはどこなのだろう。


 

 どの位時間が経ったのだろう?ふいに部屋のドアが開き、誰か入ってきた。いよいよ部屋の主の登場か。私にあんなことした犯人だろうか?それとも・・・。

 

 その人物によって部屋の明かりが点された。

 

 そして明かりによってその人物の正体がはっきりしたとき・・・、それはまったく思いがけない人物だった。




と同時に私は、自分がどうにも理解し難い状況にあったことに気付いた。

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