第2章−11.食事時の話
「・・・ちょっと、腹減ったな。」
寄り道のせいか、駅に戻る途中三月は軽い空腹を覚えた。
「そう言えば、左田は腹減らないのか?」
いまだに到底常識では納得出来ない状態の左田だが、そういう生理的欲求はどうなっているんだろうか?
―うーん・・・そうだね・・・そう言えばこうなってからお腹空かないね。―
・・・らしい。
「そうか・・・ならまあ、悪いんだけど、ちょっとどっか寄ってっていいか?」
空腹に加え、まさか探偵に遭遇するとは予想もしていなかったので、少し気を落ち着かせるためにどこかで軽く一服したかった。
―うん、別に構わないよ。―
左田のお許しが出たのでとりあえず近くのファーストクラスフード店に入ることにする。
「・・・ダブルチーズバーガーのセット、飲み物はファンタで。」
食べるものをさっさと注文し、ポテトやらドリンクやらが乗ったトレイを持って2階へと上がる。この店は、一階はすべてオーダースペースで、席は2階か3階にしか無い。
「悪いな、なんか俺だけ・・・。」
階段を登りながら三月は言った
―いや・・・気にしないで。どうせこんなんじゃ食べられないし・・・―
それは解っているのだが、どうも女子を差し置いて一人だけ食事をするのが後ろめたい気になる。
―みつきくんって、よくこういう所来るの?―
そんな三月の気持ちを察してか、それともただの偶然か、左田が話し掛けてくる。
「いや、よくって程じゃないけどたまに塾のときとか使うかな。」
―そうなんだあ。実は私ファーストフードのお店って来たこと無くて・・・―
「一度も?!」
―うん・・・。―
ある意味驚愕の事実だ。よく、マンガや小説なんかで「お嬢様」キャラが出てくると、よくハンバーガーやカップラーメンの、いわゆる「庶民的食べ物」というかジャンクフードの食べ方を知らなかったりするが、まさか本当にそういう人種が身近にいたとは・・・!
そういうのを聞くと、改めて左田が本当に「お嬢様」なんだな・・・と思う。
そもそも自分のうちは一応両親共働きであるし、「貧しい」とは言わないが、ごく平凡な一般家庭であり、決して旧家の名家でも無ければセレブな家柄でも無い。本来ならそんな上流階級のお嬢様と知り合える機会は普通に考えて無い。
しかしそんな自分が何の因果か、そのお嬢様とクラスメイトであるばかりか、今こうして少々おかしなことになりながらも一緒にいることが不思議だった。
その時である。
三月がポテトを数本まとめて口に放り込もうとしたとき、不意に隣の席からこんな声が聞こえてきた。
「なあ・・・あれ知ってるか?いわゆる、『闇オークション』のウワサ・・・。」
「急になんだ?臓器売買とかの話か?」
「闇オークション」、そんな都市伝説的な話を三月も聞いたことが無い訳ではない。何でもあまりの貧しさや借金の為に売られた臓器やあまつさえ生きている人間そのものや幼い子供などを、金を持て余した成金連中が札束に物言わせて、密かに取り引きしている・・・とか多少脚色はあるかも知れないが、大体そんな感じであったと思う。
いずれにせよ、聞いていてあまり気持ちの良い話ではない。
「いや、その手のウワサが載っているオカルト系のサイトがあるんだがな・・・それによると、最近『眠り姫』なんつー出品物があるそうなんだよ。」
「なんだ?それ・・・。」
「いや、まあ何だ・・・その、言うとどうも女性の生体標本みたいなものかな・・・。詰まりだな・・・」
三月はそのまま聞き流すつもりだったが、次の言葉を聞いた途端、思わずそちらの方を振り返ってしまった。
「ぶっちゃけ、植物状態になった女子高生がそのまま出品されるらしい。」
「おい!!」
三月は思わずその話をしていたどこかの男子高校生に掴みかかりそうなる。
―みつきくん、ストーップ!―
それを何とか止めようとする左田の声ではっ、と我に返った。
とりあえず一回目を閉じて深呼吸をする。
「何すんだよ、いきなり!つーか、お前誰だよ!!」
話をしていた男子高校生が抗議の声を上げる。
「・・・いや、その、申し訳ない・・・。」
とりあえずこちらが一方的に悪いので素直に詫びておく。
「ちょっと、ある事情があって、今のその話詳しく教えてくれませんか?」
そして、一応謝罪の意も兼ねて敬語で・・・と言うか基本、素生のわからぬ初対面の相手にはとりあえず敬語が三月の基本スタイルであるが・・・冷静さを取り戻したところで尋ねてみる。もしかしたら左田に関係あるかも知れない。
「・・・いや、俺も詳しくは知らないんすよ。」
相手も三月に連られたのか、はたまた三月と同じスタイルなのかやはり敬語口調で返してくる。
「詳しいことは直接サイト見た方が早いと思いますよ。ケータイ、赤外線出来ます?本来はPC用のサイトですけど、良かったら送りますよ。」
それじゃあ・・・、と同意して三月は自分のケータイにサイトのURLを送って貰った。