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第1章−1.日々の遑に

どうも初めまして。私めの作品を目に止めてくださりありがとうございます。今回小説を初めて書かせていただきましたのでもしかしたら内容でどこか辻褄の合わない点、読み苦しい点などもあるかもしれませんが、どうかヒマ潰しだと思って暖かい目で見てやって下さいませ。

空が青い。

 

 どこまでも突き抜けるような空の青さが眩しい。こんな日は何も考えず、どっか遠くにでも旅立ちたい・・・。


 「おーい、三月!ほら応仁の乱は何年だ?」


そう、青空には応仁の乱がよく似う


・・・・・・・・・・・・・ってそんなもん似合うかあ!!!!!!!!!!!!!!!


 はっ、と三月慎太朗みつきしんたろうは我に返った。そう言えば今は日本史の授業中であったのをすっかり忘れていた。

 前を見ると、担当の平田教諭が黒板に描かれた「応仁の乱」を指していた。えーと、確か

「人の世むなし」だから・・・。


「1467年です!」


三月はまだ完全に授業へ戻っていない頭で答えた。


「はい、そうですね。」


 平田教諭は、黒板の方へ向き直ると今まで指していた「応仁の乱」の隣に1467年とチョークで書き加え、そこで、


キーンコーンカーンコーン・・・。


とチャイムが鳴った。


「では、次は応仁の乱から説明します。日直!」


「気を付け。礼!」


そして、三月がついに完全に授業へと頭が戻ることなく授業は終了した。


 (ったく平田のやろう、あんな終わる直前で当てやがって!)


三月は、さっき平田教諭に当てられたことを不満に思いながら、自分の教室へと戻ってきた。

 この時間、つまり社会は選択だった。日本史・地理・世界史があるが、日本史の選択者は、三月を含めても学年で9人と極端に少なかった。しかも三月のように理系コースで、となるとなおさらだ。

 その上、担当になったのは何を言ってるのか聞こえないと、評判の良くない平田教諭。 三月は学年の初めに「日本史は中学でも多少やったから。」という理由で選択希望の用紙の「日本史」にマルを付けたことを初っ端の授業から後悔することになった。

 そんな訳でいつも日本史の時間はほとんど授業に参加する気が起きず、さっきも平田教諭が何かしゃべってるのをBGMに、晴れ渡った空をぼんやりと眺めていたのである。

 

 質問が簡単なので良かった、と三月は思った。

 

 こうして、たまに当てられそうなときだけ話を聞き、いかにも授業聞いてますという振りをして何とか今まで切り抜けていたのだが、たまに平田教諭はこうして不意を付いて当てることがあるので油断は出来ない。

 三月は席につき、ふぅー、と一息ついた。

 しかし、それは束の間の安堵に過ぎなかった。どこからか、


「みつき〜!」


と言う声が聞こえた。

 いや、これはきっと目の錯覚・・・もとい、空耳に違いない。


「おーい、三月ってばあ!」


でもなんかさっきより大きくなってないか?否!そんなことはない!そうだ!それも気のせいに決まってる。これはきっと空耳に違いないんだあ〜・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!

 精一杯の現実逃避も空しく、三月はその声をついに現実のものとして受け入れねばならなかった。

 ついに、すぐ背中越しに名前を呼ばれ、三月は振り向いた。すると、案の定、伊折南いおりみなみが数IIの教科書とルーズリーフの紙を持ってつっ立っていた。


「またか?」


 だいたいこいつの用件は判っている。


「お前な、たまには自分でやってこいよな。」


 要は、次の授業で当たるので、宿題で出ていた個所を写させてくれ、ということである。

 伊折とは小学校時代からの付き合いだが、こいつははまともに宿題なり課題なりやってきたことがない。少なくとも三月の記憶にはない。きっかけがなんだったか知らないが、塾に行くようになってからやたら小学校の授業を軽く見出したのがその予兆だったのかも知れない。

 時間割はまともに揃えなくなってたし、置き勉しまくりだったし・・・。

 実を言うと、三月もかつては似たような状況であったが、中高と学年が上がるに連れて、さすがに改善されていた。

 しかし、こいつは相変わらずだった。

 ・・・などと言ってしまえば、伊折がすっかり落ちこぼれ組のようだが、実は学年で常にテストの順位トップテンをキープするくらい成績が良い。

 まあ何だかんだ言いつつ、三月も大概の場合、伊折よりも順位が上だったりするのだが、それは普段から彼がコツコツとやっている成果である。

 だが、伊折はいつもこうして怠け癖がついている上、たまには三月の成績よりも良かったりするのだから、まったくもって忌々しい!

 以前、実はめちゃくちゃ努力家なんじゃないだろうか、とか三月は考えたことがあったが、テスト期間中の休日、彼から遊びに行こうという電話が掛かってきたことでその推理はもろくも崩れ去った。

 

 ・・・まったく、要領がいいと言うか何と言うか。もしかしたら「天才」とはこういう輩のことを指すのかも知れない。


「俺、そろそろお前にノート貸すの嫌んなったんだけど。」

三月がそろそろ絶交でも考えるか?などとぼんやり思っていると、


「いや、そんなこと言わずに。次オガなんだぜ?」


「オガ」というのは、次の時間の数学を担当する教師のことである。本当は「緒川」という名前なのだが、とにかく恐いことで有名であった。まず、見た目がもろである。良い言い方をすれば体育会系。悪く言えば「ヤ」の付く自由業。

 「生徒を数人病院送りした」、「一人で暴走族を壊滅させた」、あまつさえ「前の校長が辞めたのは何か彼が脅した為である」、などとんでもないウワサが付き纏い、ついに彼の授業だけは、普段どんな授業を馬鹿ににしている生徒でもピシッとまるで優等生のように振舞う羽目になった。

 運悪く、三月たちの学年はそんな彼が数学IIの担当になってしまい、次の時間がその数学IIである。

 伊折が焦るのも無理は無かった。たまには、「自業自得」という言葉を、身を持ってわからせてやろうか?とも思ったが、さすがにオガでは可哀想過ぎる! 三月は非情になり切れない自分を少し憂鬱に想いながら、数学のノートを鞄から取り出すと、伊折に渡してやった。


「さんきゅ〜、さすがはみつきっちゃん!とりあえずこれで寿命が延びたぜい!」


 ノートを受け取った伊折は、露骨に安心したような晴れやかな顔になった。が、その視線はすぐに三月から外され、別の方向へと向いた。

 三月は伊折の視線の方向を追ってみた。



 その先には、左田塩理あてらだしおりがいた。



 三月は、彼女のことを特別意識したことはなかった。


確か、自動車メーカー「アテラ」を中心に、鉄鋼、家電、貿易、ホテルやスーパーの経営など幅広く事業を行っている「左沢グループ」の令嬢・・・だったかな、くらいしか彼女に関する感情はない。しかし、性別問わずやたらと彼女が人気のあるということだけは三月を含め、既に周知の事実となっていた。

 三月や伊折の通うこの高校は、私立ということもあってかたまに政界や財界の大物、プロ野球のスター選手などの子女が、三月や伊折のような「一般人」に混じって通っていたりする。

 

 左沢は、そのような生徒の中でも特に存在感が大きかった。やはり、本物の「お嬢様」だけが持ち得る独特のオーラが人を引き付けるのだろうか?

 しかも顔立ちも目鼻が整っており悪くない。どちらかと言えば、「美人」というより「可愛い」系だが・・・。更に三月の知る範囲では、本人はまるでそのことに無頓着、というかほぼ絶対に鼻に掛けるようなことはなく、控えめなタイプであった。つまり、「清楚可憐な深窓の令嬢にして性格も良し!」

という誰かが唱えたであろう、ある系統の野郎共理想のお嬢様像がまさしく服を着てあるいている訳なのである。しかもこういう女生徒は、他の女子から敵視されがちだが、不思議とそれもなかった。と言うか、告白すらされていたような記憶が・・・。

 

確かあれは、紅葉が真っ赤に染まっていた記憶があるから、去年の秋くらいだったか。

 

三月は左沢が、後輩の女生徒に告白されたらしい、という噂を風のたよりで聞いたことがあった。左沢はごく当然と言えば当然断ったらしいのだが、その後その告白した後輩はしばらく泣き崩れていたということだ。

 三月は、そんなことを思い出しながら、改めて伊折の目線の先を見てみた。

 大抵彼女の周りには少なくとも1、2人以上はいるのだが、今は珍しく彼女一人だ。移動教室が終わったばかりだからだろうか。

 そう言えば、彼女って選択なんだっけ?とか三月がぼんやり思いながら、何か書き物をしている左沢を眺めていると、ふと三月がこっちを向いて口を開いた。


「やっぱり彼女いいよね。」


もし三月が何か飲み物を口に含んでいる途中だったら、きっと噴出していたに違いない。普段の伊折からは予想も付かないような言葉が飛び出した。


「なに、お前左沢が好きなの?」


唐突だったが、


「え? だってよくない?」


という伊折の直球過ぎる返答に、三月はからかうことも出来ず、


「まあ気持ちはわかるがな。」


としか答えられなかった。

そっか、こいつちゃらんぽらんな性格してると思ったらちゃんと好きなヤツいたの・・・か。

しかし、よりによって左沢とは。これは恋の神様が気まぐれという名の奇跡でも起こしてくれない限り彼には悪いが高値の花としか思えない。


「・・・あいつは競争率高いぜ?」


三月はせめてものアドバイスのつもりでそれだけ言うのが精一杯だった。


「知ってる!まあ、俺くらいじゃダメかもしんないけどな。そのうち告ってみようかと思ってる。」


だが良いのか悪いのか、伊折に怖気付いた様子はまったくない。


「まじか!あいつにアタックして玉砕したやつは数知れねーぞ?このクラスだって、確か宮村とか小玉とかやったけどダメだったろ。あいつら普通にかっこいいのに。」


「まあ、振られたら振られたですっきりするしさ。もしこのまま何もせずに僅かな可能性に対する未練を、この先ずっと持ったまま生きてくよりはいいからな。」


てか、コイツ、何クサこといことこんな熱心に語ってんだ?聞いてるこっちが恥ずかしくなるじゃねーかよ・・・。

 三月は今まで知らなかった伊折の一面に少し戸惑い、やっぱりからかうことも出来ずに今度は、


「そっか、まあがんばれよ!」


とだけ答えた。

 その日の帰り道、いつものように伊折と駅までの道を歩いていたが、気のせいか彼の口数がいつもより少ない気がした。

 

 三月はふと思った。


 今はこうして、伊折とバカやったりなんやりで楽しく過ごしている。しかし、それはいつかこいつが左沢か、或いは他の誰かと付き合い出したりして、いつかはそんな日常が壊れる日が来るんだろうか?いや、いずれは高校を卒業して大学行くようになったらもうその時点でこの日常は変わる・・・。それに伊折だけじゃなく、俺もいつか誰かを好きになったり、自分の進路のことで変わるんだろうな。

 三月は、何となく切ない気持ちになってしまい、もしかしたらそんな哲学的なことを考えてる自分が何となく気恥ずかしかったのかも知れないが、とにかく駅までの途中、伊折の方をまったく見ずに話してしまった。

 何となく気まずい雰囲気だったが、もしかしたらそれは伊折も同じようなことになっていたかも知れない。

 しかし、しばらくはこの日常が続くのだろう。

 駅に着いて改札を通ると、すぐに電車が来た。三月と伊折は自宅の住所も近かったが、今日三月は塾に行く為、反対方向の電車に乗らなければならなかった。

 そうだ、しばらく今の日常が変わるには少し時間がある!それまでどうするか、色んな面で考えていきゃいい。今は、とりあえずこいつはこのままだ。


「お前、今日塾だっけか?」


伊折の問い掛けに、初めて顔を向けた。


「ああ!」


「じゃあ、俺は先帰るわ。」


そう言うと伊折はもう発車寸前の電車内へと入り、空いていた席にすぐ腰を下ろした。

 


 ピーッ!

 


 車掌が笛を鳴らし、その後すぐにドアがゆっくりと閉まった。三月は右手を上げた。窓ガラスごしに伊折も手を上げる。やがて電車が動き出し、すぐに伊折の姿は見えなくなった。

そう、もうしばらくはこの日常を楽しめる。明日になれば、またあいつがいて、左沢も、クラスメートも担任もいる変わり映えのない学校生活が始まる。今日の俺はどうにかしてたな・・・。突然にあんなことを考えるなんて。


 ・・・しかし、今から思えば、このときの三月は本能的に何か感じていたのかも知れない。


 その翌日、残念ながら三月の想い描いた通りの日はやってこなかった。だが、今の三月にはそれを知る由もある筈がなかった。

 




 異変は翌日にやって来た。

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