第六話 喧嘩する妖精
一章 第六話
「始まったのぅ」
笑いながら〈九頭竜〉の鱗を粉砕していくメリーを見たサカロは、呆れにもにた感情を抱いていた。
「ふぇぇぇ。狂信者を怒らせましたねぇ」
普段と変わらない口調で、タロも呟いた。
キィィンッ、と金属がぶつかるような音が響く。
「お前ら……、暇なら……、迎撃してくれよ」
襲い来る〈九頭竜〉の青い頭を受け流しながら、ハオスを愚痴をこぼす。
〈九頭竜〉はメリーへの対処に忙しいのか、ハオスたちへの攻撃は単調になりつつあった。
「ふぇぇ。燃やすためにまず斬って貰いたいですねぇ」
「ヤトの『妖刀』や……、『霊刀』と……、一緒に……、するな……。俺の剣の腕じゃ……、弾くのが……、精一杯だ……」
話しながらハオスは、噛みつかんとする牙や、巻きつかんとする首まわりの鱗を七度、全て弾ききっていた。
「――暴風防壁」
「ふむ。それにしても、メリーはいつも以上に壮絶じゃのぉ」
タロが防御系統の上級風魔法を使ったことで、ハオスの負担が格段に減った。
サカロが袋の中から取り出した回復水薬を受け取り、タロは無言で飲み干す。
だが、二人の間に何もなかったかのように、サカロは、メリーへの感想を口にする。
ハオスがメリーの様子をちらりと見れば、地面が陥没し、紫の頭が瓦礫に埋もれていた。
「上級補助系統の〈奇跡〉を使っているからだろうな」
「どういうことじゃ?」
「〈奇跡〉にだって〈剣術〉や〈魔法〉同様、ある程度体系化された〈技〉の似た物が存在するんだ。大きく分ければ、〈回復〉〈結界〉〈破魔〉そして〈補助〉。
普段メリーが使っているのは、下級補助や中級補助だ。
上級補助系統はそれらとは比べ物にならないほどの身体強化だが、反動も大きい」
「ふむ。そうなのか」
「以前にも説明したがな」
「ふぇぇ。物忘れの激しい爺ですねぇぇ」
「なんじゃと!? ならばわしよりも長生きのおぬしはクソ爺じゃな!」
「ふぇぇえええ!?」
「あ"あ"あ"あ"あ"!?」
二人が喧嘩する横で、ハオスは呆れた顔で青い頭の攻撃を防いでいた。