第五話 メリー
一章 第五話
〈九頭竜〉に接近したタロを守るため、左右にサカロとハオスが付いた。
すでに頭を落としたヤトと、首を焼き焦がしたタロは〈九頭竜〉に警戒されているだろう。
三本の首が四方からヤトを襲う中、二本はキヌが、一本はサカロとハオスが二人がかりで防いでいた。
残りの二本は……。
「――|神よ私に風の如し疾走を《ゲイルブースト》!」
メリーが駆けた。
身体に翡翠の燐光を纏わせて。
それは祈祷者の速度を上げる〈奇跡〉の光。
信心深し高位の神官によるそれは、祈祷者の攻撃を音にすら迫らせる。
〈九頭竜〉の目からメリーが消えた。
「――|神よ私に烈火の如し猛攻を《バイオレンスブースト》ォ!」
遠方にいる下位冒険者までその地響きは伝わった。
死を連想させる黒の頭は、叩き潰され地に堕ちた。
即座に再生を始めるその頭を、身体強化の〈奇跡〉によって跳ね上がった暴力に任せてメリーは叩き続ける。
「ギュガガァァァ!」
迫るは頭は紫。猛毒を思わせるそれをメリーは――
「――|神よ私に御山の如し不動を《インモビルブースト》ォォ!」
――受け止めて、ぶん殴った。
「キュガァァァァ」
左目を突起に抉られ、〈九頭竜〉は泣き叫ぶ。
竜の角で作られたメイスの棘は執拗に〈九頭竜〉を穿つ。
飛び散る鮮血。
全身を血と毒に染めた女神官は……
「アハっ」
……笑っていた。