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第三話 『アカツノ』

一章 第三話



 空気の読めないエルフが重症を負わされて、治されてからおよそ半鐘(ハンショウ)(時間の単位。一鐘は一日のおよそ二八分の一)。

 冒険者パーティー『アカツノ』は、間抜けなドワーフを除いて、皆が軽装で街の外壁までの長い道のりを歩いた。


 竜は朝に弱い。


 これは〈害竜〉にも〈亜竜〉にも共通する竜という種族の体質だ。

 夜中は基本的に寝ているが、敵が近づけばすぐに迎撃する。しかし、朝は反応が鈍い。

 街の住民が逃げ切り次第、冒険者ギルド総動員で〈竜災〉を食い止める手筈である。

 食い止めると言っても、籠城戦ではない。

 下位の冒険者はまとまって有象無象を。上位の冒険者は一パーティーごとに別れ、確実に脅威となる竜を討伐していくのだ。

 〈多頭竜〉それも〈九頭竜〉がいる時点で外壁などあってないような物だからだ。四年前のいわゆる〈王災〉では、たった一度の〈竜の息吹〉で一つの街が消滅したほどだ。

 〈亜竜〉と〈王竜〉では強さの次元が違うとはいえ、外壁の破壊くらいは余裕であると、冒険者ギルドは予想していた。



「それにしても、ギルド長まで前線に出るとは予想外だった」


 ギルド全体での集会を終え、『アカツノ』は討伐準備をしていた。


「そうかのう? やつなら真っ先に前線に出て暴れまわると思うのじゃ」


 ハオスの呟きに、キヌが答えた。


「そうなのですか。ギルド長には、後方でふんぞり返って、いざというときは冒険者たちの尻拭いで忙しくしている印象があります」

「それはここ数十年のことなのじゃ。百年も前は竜を殴り殺していた筆頭なのじゃ。

 鱗は割るし、牙や角は折るし、内臓は痛め付けるしで最悪の問題児だったのじゃ」

「ずいぶんと壮絶ですね」


 竜は強い。ゆえにその亡骸から剥ぎ取れる素材は、竜に対抗するための武具の貴重な材料であった。牙は剣に、鱗は鎧に、角は杖に。用途は多岐に渡る。

 高位の冒険者が仕留めた竜ほど、傷が少なく状態が良い傾向がある。


「じゃが、今回は〈竜災〉なのじゃ。素材がどうのこうの言う暇は無いのじゃ。何も気にせずに、速攻で倒すのじゃ」

「分かりました」


 不断、最も慎重に竜を倒すキヌの言葉だからこそ伝わるものがあった。

 キヌはパーティーで最年長である。

 ハオスはこのパーティーでさまざまなことを教わった。

 ヤトに剣を。メリーに奇跡を。タロに魔法を。サカロには、酒やそのツマミ、薬草や毒草、魔法水薬や武具の目利きなどを。

 そしてキヌには、無くてはならない知識や経験を。

 尊敬するキヌの言葉だから、その忠告をハオスは心に刻んでいた。


「さて、全員準備はできたな?」


 ハオスたちは無言で頷いた。


「最終確認だ。

 討伐対象は〈九頭竜〉。属性は基本六属性に加え、毒と腐食を使うと予想される。だが、緋色の頭の属性は不明だ。注意して当たれ」


 属性が不明というのは致命的だ。何せ、〈竜の息吹〉に対する対策がほぼできないということだからだ。


「配置はいつも通りだ。前衛が私とキヌ。中衛がサカロとメリー。後衛はタロとハオスだ」


 このパーティーで火魔法を使えるのはタロとハオスだけである。必然、二人は後衛だ。


「やることは単純。私が斬る。タロが焼け。尻拭いは任せたぞ」

「うむ、任せるのじゃ!」

「はい。癒しは任せてください」

「わしも張り切るとしようかのぅ」

「分かった」

「ふぇぇ。信頼してますからねぇ」


 確認が終わる。

 見渡せば、他の〈多頭竜〉を相手するパーティーも準備できているようだ。

 『アカツノ』は、遠方で眠る巨大な〈九頭竜〉を見据えた。

 九色の長い首はどの竜よりも目立っていた。

 その首は千年を生きる巨樹よりも太かろう。

 その体高は、大の大人十人にも勝ろう。


 まもなく二の鐘がなる。


 『アカツノ』と他二パーティーは、少しずつ〈多頭竜〉への距離を詰めていくのだった。

 










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