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第一話 地妖精と森妖精と鬼

一章スタート!!

一章 第一話



 夜明け前の薄明の中で、一人の少年が火酒を片手に風を浴びていた。

 火酒は、先祖に地精霊を持つと言われる酒に強い種族ドワーフが好んで飲むものだ。

 小さな瓢箪に入っていたものを一口飲んだだけで、少年の顔は朱に染まっていた。

 その顔はまだ幼さが抜けておらず、やけに大きな爪痕が痛々しく刻まれている。

 後ろの部屋で物音がした。

 宿で同室のドワーフが起きたのだろう。少年はくいっ、ともう一口火酒を煽った。


「なんじゃいハオス。もう起きとったんかい」


 目をこすりながら、ドワーフは戸を開け、ハオスと同様に宿の壁から出っ張った縁へと出た。簡単な柵と屋根が取り付けられており、吹く風が気持ちいいのだ。


「ああ。どうしても四年前を思い出すからな」

「おお。そうじゃったな。おぬしは〈王災〉を経験したのじゃったか」

「ああ。決して忘れられない夜だった」


 ハオスは、遠くに視線を泳がせながら、かつての〈竜災〉に思いを馳せた。


「じゃからとて、わしの火酒を一人で飲むことはないじゃろう?」

「ふっ。まだ残っている。

 どうせ最後なんだ。せめて樽ごと飲みたかったな」

「それには同感じゃ。じゃが、これからのことを考えれば、二、三口で止めるべきじゃのう」


 二人は言葉少なく、それからしばらく飲み続けた。

 日が登り、遠方から夜明けを告げる鐘の音が一度だけ鳴り響いた。


「この鐘の音を聞くのも今日が最後かのぅ」

「さてな。運が良ければまた何度でも聞けるさ。

 そういや、タロはどうしたんだ?」

「クソエルフなら鬼婆のところじゃろう。何だかんだであやつらは両想いじゃったからのぅ。

 ふむ。そうじゃ、ハオスは浮いた話しの一つも聞きはせんが、好きな女はおらんのか?」

「そりゃいるさ」

「ほぅ。どんなやつじゃ? パーティーメンバーかの?」

「人間に興味はない」

「変わったやつじゃな、相変わらず」

「サカロだって、エルフに興味はないだろ?」

「なるほどのぅ。納得したわい」


 淡々と、二人は会話を続けた。

 かつても話したことがあるような、いつも通りの会話だ。

 だが、この場所の雰囲気は非常に険悪だった。

 喧嘩をしているわけでも、仲が悪いわけでもない。


「さて。そろそろ行くかのぅ」

「ああ。四年ぶりの〈竜災〉だ」


 二人は冒険者だ。

 その役割は、遠くの神都から重たい腰を上げてやってくる竜騎士団の到着まで、街の住民が逃げ切るまで、〈害竜〉を抑えること。

 一言で言えば、囮だ。


 サカロは愛用の全身鎧で、背が低く、横に広がる体を包み込み、背中に戦斧をくくりつけ、腰の袋には薬瓶を大量に詰め込んでいく。生まれたときからもじゃもじゃしていた髪の毛は冑で見る影もない。

 ハオスは身軽な服装の上から暗い灰色のローブを羽織った。腰には古くなり始めた剣を差し、女魔法士が使うような細い杖を手に持った。


「そういえば、おぬしはローブ以外初めて会ったときと変わらんな」

「あぁ。両親の形見だからな。

 ――てか、前もこの話ししたよな?」

「そうじゃったか?

 酒の席の話しじゃったら、わしは忘れとるじゃろうな」

「十樽も空けるからだ……」


 呆れた物言いとは裏腹にハオスは懐かしそうに笑っていた。

 ハオスたちの話し声とは別に、廊下を歩く音が近づいてきた。


「ふぇぇ。どうかしたんですかねぇ」


 宿の廊下でばったり会ったエルフは、不思議な抑揚で二人に話し掛けた。

 耳にするだけでイライラとしてくる不思議な抑揚だ。

 サラサラと流れる金髪に、ムカつくほど整ったかんばせ(・・・・)。粗野な冒険者のはずだが、何故か高貴そうな空気が漂っている。

 百人が百人、美人だと答えるだろうその男は、それだけに、人を不快にさせる話し方をすることが残念に過ぎた。


「クソエルフ……」


 隣にいるハオスが聞き逃しそうなほど小さな声で紡がれた罵倒は、ピクピクッと動く長い耳に確実に拾われた。


「なにか言ったかな、クズドワーフ?」

「残念エルフ……」

「樽腹ドワーフ……」

「もやし妖精……」

「脳筋妖精……」

「ガリガリヒョロヒョロ……」

「ズングリムックリ……」

「…………」

「…………」


 互いに互いを罵りあい、睨みあっていた。

 一触即発である。


「はぁぁ。また始まった……」

「いつものことなのじゃ。諦めるのじゃ」


 今度は疲れきった顔をするハオスに、ドワーフのサカロよりもさらに小さな少女、いや幼女が話しかけた。

 鮮血を思わせるような真っ赤な髪は短く切り揃えられ、額からは二本の角が覗いていた。


「ハオス、ぬし、酒臭いのじゃ。これから戦なのじゃぞ?」


 高く可愛らしい声で、赤鬼の幼女は、ハオスを注意した。


「大丈夫ですよ、キヌ。解毒なら後でかけます」

「なら良いのじゃ」


 キヌは、己を敬うように振る舞うハオスの態度に気分を良くしていた。

 この街の冒険者の中でも屈指の高齢者だが、容姿のせいでキヌは子供扱いされることが多いのだ。


「ハオス、朝食にするのじゃ。そこの間抜け(ドワーフ)腰抜け(エルフ)は放っておいて良いのじゃ」

「わかりました。

 お前ら、ほどほどにしておけよ」


 そう言い残すとハオスは、キヌと共に宿の食堂へと向かった。


 


「おい、腰抜けエルフ。またヤりそこねたのか?」

「……黙れ、間抜けドワーフ」

「ふむ。相変わらず、残念なやつじゃのう」

「ふぇぇ? そう言うお前は、どうなんですかねぇ? ハオスとは進展しましたかぁ?」

「駄目じゃな。性別以前に人間に興味ないそうじゃ」

「「……はぁぁ」」


 顔を合わせる度に喧嘩をするエルフとドワーフは、仲良くため息をついたのだった。





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