第八話 キヌ
一章 第八話
鮮血を想わせる赤い髪を棚引かせながら、キヌは手に持つ盾を自由自在に変形させ、〈九頭竜〉の攻撃をいなしていた。
相手は火属性の赤い頭と、属性不明の緋色の頭だ。
何をするか分からない以上、パーティーで最も耐久力が高く、実戦経験が豊富なキヌが緋頭を受け持っていた。
キヌの盾――『大樹鱗盾』は、植物の〈亜竜〉の鱗から作られた『魔法武具』である。
その能力は、葉が生い茂り、やがて落ちるように大きさを自在に可変し、地面に深く根を張るように衝撃を耐え抜く。
枝や蔓を伸ばし、相手の攻撃に合わせた反撃を行うこともできるが、今回はメリーが暴れ終えるのを待つだけ。
キヌにとって、攻撃を耐えるだけならば、〈九頭竜〉の頭二つを相手にすることは簡単な作業であった。
「……それにしても弱すぎるのじゃ」
メリーに気を取られたのか、さらに攻撃が単調化した〈九頭竜〉を、キヌはそう称した。
「ハオスから聞いて、もっととんでもないのを思い浮かべていたのじゃ」
四年前の〈星天の王災〉。
〈竜の息吹〉一つで街が消滅した話しは国中で噂され、生き残りは、〈星王竜〉の下敷きとなり全身を血塗れにした少年たった一人だけ、ということからも、その壮絶さが伺えた。
「〈七王竜〉と〈亜竜〉では強さの桁が違うのは当然なのじゃ、が……」
それでも同じ〈竜災〉。
キヌは、どうしてもその違和感を拭えないでいた。
そして、その違和感は、最悪の形で、正しかったと証明される。
突如飛来した強烈な殺気に気付き、後ろを振り返れば、五条の閃光を放つ二体の〈多頭竜〉と、倒れ伏す冒険者達を、キヌの目ははっきりと捉えたのだった。




