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怜花と京子


修正しました。



「お父さん、お母さんっ、ねぇ、二人とも起きて、ねぇ、なんで起きないのっ!い、いつもなら、おはようって、笑顔で言ってくれるでしょう、ねぇ、聞いてよっ。」

私は、目の前で花に囲まれて寝ている両親を見て泣き叫んだ。

本当はわかっている。もう、二人は私の目を見て笑いかけてくれる事は無いってことを。

でも、どうしても信じたくなくて何度も、何度も二人を起こそうとした。二人が「どうしたの?」って笑いかけてくれることを願って。

(信じたくない、信じたくない)

今、私は黒い服を纏って、お父さんとお母さんのお葬式に来ていた。言いたくないけど、私は12歳の冬に、両親を亡くした。

ちょと前に、「すぐに戻るから待っていてね。」って言われたばかりだったのに。

(二人の、嘘つき…。)

二人はやっぱり起きなくて、私はとうとう諦めた。…二人の死を受け入れた。

私の親戚達が、誰が私を預かるかで揉めている。私は皆にとって邪魔でしかないのだろうか。

こんな場所に居たくなくて、私はこの場所から逃げ出した。

知らない道を、ただただ走った。

息が苦しくなってきて、立ち止まったら目の前には綺麗で大きな家が建っていた。

「…うわぁ…。」

私は思わず声を漏らした。何分かこの家を眺めていたら、後ろから声を掛けられた。

「私の家に何か御用ですか、お嬢さん。」

声からすると多分男の人の声。でも大人ではなさそうだ。

私はゆっくり振り返ると、茶髪の髪をした、いかにもお坊ちゃんな男の子が私を見つめていた。

私の目が赤く腫れているのを見て、少し驚いたようだったけど、その後私に紳士的な笑顔を向けた。

「…用は、ありません…ただ、綺麗だから見とれてしまって。」

私は彼に用はないと伝えた。

「では、どうして貴女は私の家の前で立ち止まっているのですか。実は私、少し前から貴女の事を見ていたのですよ。貴女がちっとも動かないので、気になって来てみたのです。」

彼に見られていたなんて知らなかった。

「貴女はどうして喪服なんてきてるんですか。何かあったのですか?」

彼は私の服が喪服だとすぐに分かったようだ。全身黒ずくめだったからすぐに分かったのかもしれない。

でも、彼の言っていることに答えることは出来なくて、私は黙った。

「言えないのですか。」

彼は困ったような顔をしていた。本当は答えることは出来たんだけど、どうしても言いたくなくて彼の言葉に頷いておいた。

「貴女は、どこから来たのですか。」

それも言いたくない。もしも言ったらあの息苦しい場所に戻されてしまうかもしれない。私は黙って首を横に振った。

するとまた彼は困った顔をした。

「一人で帰れますか。」  

辺りを見渡してみたけどあのお葬式の場所は見当たらない。ずいぶん遠くまで走ったみたいだ。

私が帰る場所はあの場所じゃない。帰る場所はなくなってしまった。両親は共働きであまり家に帰ってこなかったけど、仕事をバリバリとこなす二人は私の誇りだった。

家に帰ってきたときはいつも私を優先にして、私を幸せにしてくれた。けど、そんな素敵な場所は消えてしまった。

私は奥歯を噛み締めて下を向いた。

「一人で帰れないなら車を手配しましょう。自分の家は分かりますよね。」

見ず知らずの私にこんなことを言ってくれる彼はとても優しいけど、車があったところで帰る家がなければ意味がない。

「帰れ、ないの…帰る場所なんて、ないの…。」

私は涙が出そうになるのを我慢した。所々言葉が途切れたけど、彼に帰れないと伝えた。

「帰れない…?」

彼は驚いた顔をして、私を見た。

「貴女が私に事情をすべて話してくれるならば私は貴女を保護しましょう。話してくれますか?」

事情を話すのは嫌だけど、あの場所には戻りたくない。私が頷くと、彼は「良かったー。」と言っていた。

彼は優しすぎる。

「じゃあ自己紹介をするね。僕は一ノ瀬晴樹いちのせ はるきだよ。君の名前は?…あ、敬語はいらないよ。」 

なんだかとてもフレンドリーなしゃべり方になったけど、多分これが素なのだろう。

「私の名前は、山本京子やまもと きょうこ。よろしくね。」

「自己紹介もすんだところで、家に入ろうか。今は冬だし寒いでしょ。ほら、おいで、京子ちゃん。」

晴樹君はさっそく私の名前を呼ぶと、私に手を差し出した。私は彼の手をとって家の中に足を踏み込んだ。


◇◇◇


久しぶりに昔の、京子だった頃の夢をみた。あれは私が晴樹と出会った時の話だった。もう夢でしか会えないけど、夢で彼に会えるだけで幸せな気持ちになる。

あれから私は本当に一ノ瀬家で大学生になるまでお世話になった。晴樹の両親はとても優しい人で、私を「本当の娘のように思っているよ。」と言ってくれる人達だった。

あの頃から私は完璧を目指すようになった。私の両親は二人とも社長秘書だったから、私もなりたくて、「完璧な秘書になって貴方をサポートするから、どうか私を秘書にして。」と彼に頼み込んだのだ。彼はゲーム会社の社長子息だったから。

彼は「京子ちゃんが秘書なんて大歓迎だよ。」と言ってくれたので、期待に答えるために全力で頑張ったのだ。

いい大学に通って、卒業して、晴樹が社長になったのと同時に私も社長秘書になった。

仕事はとても楽しくて、どんどんのめり込んでいった。

でも26歳のときに、私は治らない病にかかって死んでしまった。晴樹を一人残して。

死んだ後、目が覚めると赤ちゃんになっていて、私は転生したのだと気づいた。

小さい頃お母さんに「生まれたときに貴方が握っていた指輪よ。」といって私にくれたのは死ぬ前に晴樹が私の指にはめてくれたお揃いの指輪だった。

それからはいつも首にかけている。この指輪だけが私と春樹のつながりだった。

私が転生した先は、日本三大財閥の一つに入る超お金持ちな家だった。

今の私の名前は流川怜花るかわ れいか。年齢は春樹に出会った頃と同じ、12歳だ。


私は明日、柳瀬桜燐学園やなせおうりんがくえんに入学する。明日とは言ってもあと一時間位で明日になるけど。


今の時刻は11時。明日に備えて早く寝よう。

私はベッドで横になって、もう一度眠りに着いた。



この時私は、自分人生がある人物によって狂っていくことをまだ知らなかった。 

初めまして、伊戸菜緋緒李です。怜花の過去についてはまた詳しく書いていく予定です。感想などもお聞かせください。


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