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第8話「それが生きる術」


 シトシトと降り注ぐミゾレ。

 急速に体温を奪うそれに、凍死寸前であったナセルはようやく目覚める。


 両親の処刑と大隊長の火刑を目の当たりにしたときはまだ昼間だったはず。

 ミゾレの降り注ぐ空は暗く、町もひっそりと闇に沈んでいた。

 いつの間にか時刻は夜……。

 ナセルが路上で意識を取り戻すまでに半日以上かかったようだ。


 既に夜の帳は降りてかなり時間が過ぎているらしい。その間、誰一人ナセルを助けようとする者はいなかったのだろう。


 彼は拘束を解かれた状態から、そのまま放置されていたようだ。

 全くいなかったのかどうかは知らない。いたとしても、この異端者の焼き印を見て巻き添えを嫌えば触れることすら憚られるだろう。

 いや、

 それどころか、ナセルの周囲に散らばる石ころの数を見れば、ナセルを害しようとしたものもいたらしい。


 彼が凍死しなかったのは偶然────? いや、違う。


「大隊長……」


 未だ熱をもっている火刑のあと。

 勇者に焼かれた大隊長は骨すら残っていない……。


 ただそこには、炭化した教会十字の残骸が残るのみ。


 それでも、彼女の焼かれた熱がいままでナセルを暖めてくれていたのだ。


「大隊長ぉぉ…………」


 全てを失ったナセルを最後まで庇ってくれた彼女。

 そして、両親を想う。


 とっくに枯れたと思った涙が、また溢れてきた。


 ドラゴンを失った悲しみなど、実に小さなことだった。

 愛する人々を失うことのなんという辛さか……。


 凍える夜に、未だに残る熱が大隊長と両親の抱擁に感じられて一歩も動けないナセル。


 そこに、


「おい、見ろよ!? まだいやがるぜ、異端者のクズがよー!」


 ブン────べちゃっ。


 ろくに動けないナセルにぶつけられたのは、生ゴミ?

 いや、


「ひゃははは! みろよ! クソに糞が命中したぞ!」

 ギャハハハハと下品に笑うのは酔っぱらいどもだ。


 兵士の出で立ちの者や一般市民の格好もいる。


 そいつらが次々に生ゴミやら馬糞やら石を投げつけてくる。


 最初は無抵抗だったナセルも、頭部に石をぶつけられるに至り、ヨロヨロと逃げるしかできなかった。


 両親の遺体は片付けられていたが、大隊長を焼いた残骸はまだ残っている。

 それから離れ難く感じていたものの、心ない兵士や市民の投石に逃げるしかできない。


「やめてくれ……」

 絞り出した言葉は彼らを調子つかせるだけ。


 投石から逃れる彼を追うのが飽きるまで投石は続き、体は痣だらけになる。


 ようやく、市民が散ってしまう頃には、全身が腫れ上がっていた。

 逃げ延びたのは、町の外れの見知らぬ橋の下。


 そこに溜っている枯れ枝やゴミの中に体を潜り込ませて、身を隠すと同時に何とか暖をとろうとする。


 凍てつく外気が多少防げたものの、今夜生き延びれるかも怪しい状態だ。

 だが、まだ町は眠りきっていない。


 酔客が彷徨く時間帯なら何をされるかわからない。

 

 幸いというか、酷い暴行の末に体は熱をもっており、むしろ外気の寒さが丁度よいとさえ思えた。


(幾日も、もたないな……)


 そうそうにノタレ死ぬだろう未来が想像できて、ナセルは自嘲気味に笑う。


 身体中の痣をみて、自分の立場を嫌でも認識した。


 ──国の方針だ。

 異端者は徹底的に嫌われる。


 この国で異端者の謗りを受けることは社会的抹殺を意味するのだ。

 

 それというのも、対魔王の錦を明らかにするためだ。

 魔王に協力するものがどうなるのか徹底的に見せしめを行い、予防策としているのだろう。


 実際、魔王軍の捕虜になり、洗脳されて帰ってきた兵もなかにはいた。

 彼らはこれまでにも幾度か魔王軍に操られて国内で破壊活動(テロ)を行ったり、要人暗殺等をしでかすことがあった。

 一時は対策のため、洗脳を解く方法も編み出されたが、完全ではない。

 結局はそれ以上の追従者を出さないための予防措置だけが独り歩きし、異端者を嫌う風潮だけが残った。


 そのため、この国の軍人は魔王軍に捕らわれるのを極端に忌避した。


 『生きて虜囚の辱しめを受けず』──なんていう方策も打ち出されたが、なんということはない。

 異端者扱いを受けることを恐れているだけだ。


 だが、それでも────戦闘中に気を失ったりで捕虜になる者も兵の中にはいる。


 彼らは、捕虜からの帰還後には異端者扱いの末、…………野垂れ死ぬか、人の世を恨んで魔王軍に降るか──ただ、自暴自棄になって悪の道へひっそりと消えていくかの、どれかしかなかった。



 つまり、ナセルの行く末も恐らく、そのどれか(・・・)だ。

 今のところノタレ死ぬ未来が濃厚ではあるけれども……。


 王国での権利を失った以上、仕事もそう簡単には見つからない。


 いまや、家も財産もアリシアのものとなり……。

 両親も死に絶えたとなれば、ナセルには帰るところもなかった。


 このまま死ぬのか……。

 それももう仕方ないと諦めていたナセルだが、不意にリズのことを思いだす。


 一人生き残ったリズ。

 国家反逆罪の係累として過酷な運命に取り込まれてしまった最後の肉親を────。


(リズ…………)


 ナセルには彼女を救うことはできない。

 リズを巻き込んだのはナセルの責任だ。


(すまない、リズ!)


 義理の両親を殺され恐怖したリズ。彼女が思わずナセルを異端者だと叫んで認めたあとの、あの表情。


 忘れることなどできない。


 だから、ナセルには──野垂れ死ぬ、魔王軍に降る、悪の道へいく──それらの選択肢を使うことができない。

 してはいけないのだ。



 ──……胸をはれ! 生きて生きて、生き抜け!



 リズにそう叫んだ大隊長の声がナセルに反響する。あの言葉はリズにあてる以上にナセルに語りかける彼女の言葉だった。


「わかってる────わかってるよ大隊長!」


 死んで……、死んでたまるか!

 皆の無念、俺の無念、リズの無念。


 晴らさないわけにはいかない!!!


(生きてやる。絶対に生きてやる!)

 そうとも、泥を啜ろうが、ウジ舐めようが、生きてやる。


 そして、




 この世界に復讐してやる──。




 悪に落ちるわけではない。

 自暴自棄になったわけでもない。

 魔王軍に降る気もない。




 これは、俺の復讐だ。

 誰にも邪魔をさせない、俺の復讐だ。




 すまん、大隊長。

 俺は誇りなんてものは持てない。胸を張って泥のなかを這いつくばるのはゴメンだ!!


 何をしてでも、生き残り…………何年たっても復讐を果たしてやる。


 だから、今日を生きる。

 そして、明日も、明後日も──────。



 この世に復讐するまでは、

「───絶対に死んでやるものかよ!!」



 復讐を誓うナセルに、大隊長が苦笑しているような気配を感じた。

 お前らしいな、と──。


(リズ。すまない……、今の俺にはお前を助けることはできない。だけど、)


 そうだ。

 だけど────復讐の果てに、お前(リズ)の居場所を必ず見つける!


 だから!!!


(耐えてくれ…………。少なくとも、俺はお前を忘れない──そして、絶対に諦めないッ!!)……俺が生きている限りは。


 夜が更ける頃には、橋の下から這いだし、フラフラと歩くナセルの足は、いつしか自分の家へ向かっていた。


 心に(くすぶ)り出した復讐の炎を確かめるために……。


 ようやくたどり着いた我が家。

 いや、今では元我が家か……。


 そこで明るい室内を窓ごしに覗き込めば、予想通りの光景が────。


 男女二人が仲良く笑う姿……。酒を手に女の耳元でささやく勇者コージと────酔ったあとの甘い声をあげるのは、アリシアの……ナセルの元妻の姿だった。


 人を散々小ばかにして、挙句に死んだも同然に身に落としておいて、────その日のうちにこれだ。


 アリシアに至っては罪悪感というものすら楽しんでいるようにも見える。


「くそビッチが……」


 両親と大隊長の最期を見て、絶望のあまり脳内で処理しきれなかった想いの果てに、一度は消え失せた怒りがまた汲み上げてきた。


 衝動的に乱入してぶん殴ってやりたいところだが、呪印が焼けた溶けた傷の痛み、そして……勝ち目のない現実を思い出し、歯を食い縛って(こら)える。

 心に燃える暗い恨みを抱いたまま、今はその場を去るしかできなかった。


 ちくしょう!!

 

 外まで響く、二人の声が耳について発狂しそうになる。

 よりにもよって俺の家で、だと!!!!!


 

 疑いようもない裏切りと、僅かにあったアリシアへの想いは完全に消え失せた。


 その後のナセルはといえば、あてどなく街を彷徨い。

 人目を避けること数日。


 生きて復讐することだけを心の糧にして、この国の最底辺をさ迷った。


 ネズミ以下の、虫よりも惨めな生活を送る日々。


 凍えそうになる体を温めるため、肥溜めのたい肥が放つ熱を求めて休む夜。


 水を飲もうと共同の井戸に近づけば、市民たちから一斉に罵倒され石を投げられる朝。


 貧民救済を標榜する教会に、今だけはと恨みを飲んで──たった一杯の粥の(ほどこ)しを求めていけば、汚物を投げつけられ衛兵に槍で突かれる昼。


 空腹に耐えかね、川の汚れた水を飲もうと近づけば、街の連中が狙ったように川に汚水を流し始める夕。


 そして、また肥溜めの近くで寝る夜────。


 幾日過ごしたのか……。

 

 数日?

 それとも数週間?

 

 あれほど復讐を誓い、どんな目にあってでも生きてやると決意したナセルだが、たった数日でその精神はボロボロになってしまった。


 そしてこれからも、この最悪の生活環境は改善される見込みなどない。



 野垂れ死ぬその日まで────。



 深夜、空腹と寒さに耐えきれずナセルは夜の街を徘徊した。

 動いているだけまだ体が温まる。


 だが、そのうち動く体力も尽きる────。


 最近では、町の連中や警らの兵士もナセルに暴行を振るうのに飽きて来たのか、無視されるようになり始めた。

 むしろ、あまりの臭気に避ける傾向すらある。


 それを幸いにナセルは町を歩き、生ゴミを漁ったり、奇特な人物から施しを求めることができるようになった。


 時にはいる奇特な人物はといえば、彼女がいた。

 名も知らぬ、冒険者ギルドの受付嬢。


 彼女はこっそりと飯を施してくれる珍しい人物だった。

 町を彷徨くナセルに気付くと、そっとパンや果物などの日持ちするものを置いてくれたのだ。


 いつしか、その施しを期待して、ナセルはかつての職場でもある冒険者ギルドを徘徊するようになった。

 そして、今日もまた傍まで来ると、温かい空気が中から溢れるのを感じつつ、受付嬢があらわれるのを待っていた。


 だが、露骨にすると彼女に迷惑がかかることも理解していたため目立たぬように心がけ、路地に潜む。


 そこから町行く人々を薄暗くなるまでぼんやり眺めていると、その間にもギルドの喧騒が耳をついた。


 酒場を併設するため、ギルドはまだ営業中らしい。


 だが、夜も更ける頃には客足もまばらになり、いつしか街と同様に静まり返っていた。


 その頃になって、ようやく未だに痛む胸の火傷に手を当てながら、ナセルは動き出す。


「そう言えば、まともな飯食ったのは──いつだっけ……?」


 こんな目に遭う以前から、色々あって随分食事をとっていなかったように思う。


 それに気づいた時には、普通の食事を求める身体が耐えがたい空腹を訴える。

 にもかかわらず、ギルドの受付嬢はあらわれない。

 もしかすると、本日は非番だったのかもしれないと今更思い始めたナセルだったが……。


 仕方なしに、ギルドの酒場から出たゴミ箱を漁るのに躊躇はなかった。


 暗闇の中、中身の分からない生ごみを漁る。

 酷く匂ったが、それでも腹に納めることができるだけマシだった。


 何度も吐き気に襲われたが、腹が満ちた頃には肉体的疲労や精神的疲労から、ついには泥に沈むようにゴミ箱の中で眠りについてしまった……。


 幸いなことに発酵し始めた生ゴミは酷く温かかった。


 朝、人の気配に目が覚めると、ギルドの酒場の店員がゴミ箱を覗き込んで驚いていた。

 早朝のゴミ出しに来たのだろう。


 その顔を完全に無視すると、幽鬼のような足取りでギルドに入るナセル。


 どうにも、朦朧としていたようだ。

 つい最近だったと思うが、確かにナセルはここで仕事を得ていた。

 だからだろうか、朦朧とした意識のまま冒険者ギルドに入り、しばらくボンヤリと(たたず)んでしまった。


「ん? …………げっ。ナセル・バージニア!?」


 朝の早い時間帯だ。

 昨夜から酔い潰れていた冒険者や早起きの者など、内部の人の数は少ないものの、全くの無人というわけでもなかった。


 さらに言えば、既にナセルのことは知れ渡っているのだろう。

 ギョッとした顔のギルド職員と(まば)らな冒険者たち。


 酷い臭気と目つきでフラフラと歩くナセルに誰も話しかけられないが……。

 それでも、やはりというか──ここは冒険者ギルド。お約束とばかりに絡んで来る連中もいる始末。


「よーよーよーよー! 異端者で、女を寝とられた哀れなA級様じゃねぇか!?」

 みろよ、皆! と、わざとらしく驚いている頭の悪そうな冒険者。

「ややや!? 本当だぜ! どーりでクセェと思ったぜ。魔王軍のクソと同じ臭いがしやがる、ぜッ!」


 おらぁ!


 腰の入っていない下手くそな回し蹴りを放たれる。ナセルはそれを避けるでもなく受け止めるが、フラフラの身体では耐えきれるものではない。

 無様に床に転がされると、ここぞとばかりに酔っぱらった冒険者や便乗したクズ冒険者が寄ってたかった蹴るわ、踏むわの暴行を加える。


 おまけに小便をかけられ始めると、さすがにギルド内の臭気に職員が止めにはいる。とは言え、暴行のためではなく、ギルドを汚すなという意味だ。


 既にドロドロになったナセルがヨロヨロも起き上がり、凄まじい臭気を放ちつつも、歩き始めた。


 それをひきつった顔で迎えるのは、いつもナセルに食事を施していた受付嬢だった。

 彼がギルド窓口に来た以上、話さねばならない人もいるということ。


 内心、こんな状態のナセルと関わり会いたくないのが彼女の素直な心境だったが、

「あ、……その、当ギルドにご用でしょうか?」

 若い受付嬢は、夜勤明け直前だったのか目をショボショボさせて答えた。


 引き攣ったその顔はどうみても「うわー厄介ごとだー」とナセルを忌避している様子。いつもなら素っ気ない態度であっても黙って飯をくれたものだが……。


 こんな状態のナセルがギルドに来るとは思っていなかったのだろう。

 実際、少しばかりストーカー気味かもしれない。

 だが、ナセルは構わない。


 全てを失った彼に、今更恐れるものも恥もない。





「仕事を……くれ」





 それだけを絞り出すように言う。


「えっと、……その、ナセル・バージニアさんですよね」


 コクリと頷くナセルに、恐る恐る言う受付嬢は、


「申し訳ありません。貴方には、冒険者ギルドの資格はもうありません……その、」

「──仕事を回してやれ」


 「──お帰り下さい」そう切り出そうとしていた受付嬢の言葉に被せる声。


 ギルドの奥からギルドマスターが顔を出していた。


「あ! ま、マスター!? で、でも……その」

「構わん。フリークエストを回してやれ。資格の必要がないフリーのやつがあるだろう?」


 冒険者ギルドには、冒険者登録している関係者以外にも、誰でもできる副業としてのフリークエストがいくつかある。


 フリークエストとは、冒険者登録をしていない流れの傭兵などが受ける──町から街への護衛依頼や、子供でも出来る薬草採取。それに、年がら年中と街にでる下水のモンスター退治や、町の外の森に湧いて出てくるゴブリン退治などのことだ。


「あ、はい……。そ、それなら」

 チラリとナセルの表情を窺う受付嬢だったが、彼は受付嬢の顔をみていない。

 ジッと、奥────ギルドマスターを見ていた。


「てめぇ……」

「ふん……生きていられただけでも感謝しろよ」


 不機嫌そうに答えるギルドマスター。

 ナセルに不利な証言をし、勇者の不貞に関する情報を改ざんしたナセルの敵だ。


 そもそも、コイツがナセルの家にコージを居候をさせたことから全てが狂った。


「──どの(つら)下げて言いやがる」

「なんだと? 嫁をとられたのはお前の不始末だろうが。伝説の勇者を下宿させてやったんだぞ? 本来なら、その功績でお前はもっと上にいけたんだ」

「あ゛あ゛ん! てめぇ……。アリシアがケツを振るようなアマだってことを知ってて勇者を紹介したんじゃねぇのか!」


「そこまで行けば被害妄想だ。……仕事をやらんぞ」


 あとは聞く耳持たんとばかりに、職員に指示を出して奥に消えていく。

 その姿をジッと睨んでいたナセルだが、受付嬢に話しかけられて、ようやくクエストを受注する。

 それらはロクな仕事ではなかったが、今のナセルでもこなせそうだという理由で、『ゴブリン退治』を斡旋された。


「おい、見て分からないのか? 俺は素手だぞ?」


 薬草採取くらいのもので良かったのだが……、それではなく、モンスターを討伐しろと言う。


「す、すみません……いくつかのパーティも同行しますし、その──ナセルさんは以前はA級の冒険者でしたので……マスターが実績から、これをやらせろと──」


 あの野郎……。


 これ以上は交渉しても無駄だろうという思いでナセルは渋々クエストを受ける。

 いつかは世を呪って死んでしまおうかとも考えたが……それではあまりにも理不尽過ぎる。


 精神状態がグチャグチャの時はロクなことを考えないことは、これまでの経験則から知っていたので、今はただ生活していくことを史上目的とした。


 もちろん、胸中には仄暗い感情が渦巻いているのは間違いなかったが……。


 クエストの受注を確認すると、ナセルはどっかりとギルドの隅に腰かけ、同行するというパーティが来るのを待つ。

 それが揃い次第、郊外の森へ行くことになっている。


 フラフラのナセルを見かねたのか、受付嬢がこっそりスタミナポーションを差し入れてくれたのがありがたかった。

 それを誰にも見咎められないように素早く飲み干す。


 しばらくして、


「あんたかい? 今日の相棒は?」


 そう言って話しかけてきたのはガラの悪そうな男達が5人ほど。

 全員みすぼらしい武装をしているが、雰囲気が堅気ではない。おそらく元犯罪者か何かで、ナセル同様にギルドの資格をはく奪されているのだろう。

 ゆえに、フリーのろくでもないクエストを任されていると。


「……そうだ。ナセルでいい」


 それだけ言って、関りを避けようとする。

 リーダー格の男は一瞬眉を吊り上げたようだが、特に何も言わずにさっさと先に立って歩き始めてしまった。


 それに慌ててついていく手下4人と、ゆっくり後を追うナセル。


 その間にも、ギルドに集まり始めた冒険者たちがひそひそ話をしている。


「おい、ナセルだぜ……前にやらかしたらしくて、異端者になったんだと」

「あれがそうなのか? マジかよ……A級だったんだろ?」

「それが、嫁さん奪われて……教会と国王に呪印を焼かれてよー。今は『ドラゴン』の召喚も出来なくなったらしいぜ」

「そりゃ気の毒に……もう、終わりってことか?」

「多分な、ただ、あんまし……この辺の話に触れない方が良いぜ? なんでも、奴ははめられたらしいぜ──偉いさんたちにな」

「っていうか、勇者とビッチのアリシア……あとはギルドマスター殿だろ?」

「そーそー……って、しーしー。滅多なこと言うと俺らもヤバいぜ」


「おう、くわばらくわばら……」


 その話は耳に入っていたが、ナセルは全てを遮断するようにギルドを出た。

 生きていかねばならない………………今はな。



 ギルドを去ったナセルを見送る影が一つ。


 胡乱な目つきで、ナセルの動向をそっと窺っていたのはギルドマスター。

 彼は一人、ポツリと零した。







「……勇者殿もさっさと殺してくれればいいものを、面倒なことになってきた──」







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