第66話「ナセル戦闘団」
思い知ったか、
勇者コーーーーーーーーージぃ!!!!
万感の想いを籠めた絶叫ッ。
この一言が言いたくて堪らなかった!
あの日から、
あの瞬間から、
あの刹那から───!
「うおぉぁぁああああああ!!!」
やった!
やってやったぞ!!
俺は、勇者に勝った───!!
ティーガーⅠの上で咆哮するナセル。
その叫びが王都中にこだます頃には、勇者親衛隊とやらは戦意を喪失。
もともと擲弾兵たちの対空戦闘でバタバタと叩き落とされている所に、勇者が完全敗北したのを目撃したのだ。
戦意を維持するなど土台無理な話。
勇者なくして、そのまま戦う理由などないのだろう。
「て、撤退!!」
「に、逃げろぉぉ!!」
登場時にみせた練度の高さは今や見る影もなく、まるで敗残兵のごとく散を乱して逃走開始。
『追撃ッ───撃ち落とせぇ!!』
ドイツ軍の容赦ない追撃によって撃ち込まれる対空射撃のため、さらに数を減らしていった。
地上に落ちた兵も、傷つき墜落した飛竜や怪鳥は、工兵部隊のⅢ号火炎放射戦車が丁寧に焼き清めていく。
「ぎゃぁぁああ…………」
その様も連中の戦意をゴリゴリと削っていき────、
「む、むりだ!」
「ば、化け物の軍勢だぁあ! あべし──」
ついには、潰走。
残ったのは数頭の飛竜と怪鳥のみ。
もともと希少な調教師をつぎ込んで作った部隊だ。
あのざまでは、二度と再建できないだろう。
さぁ、ここまで来た。
これで残すところはあと一人─────。
…………リズ。待ってろ。
もう少しでケリがつく。
そうしたらすぐにいく。
飛んでいく。
走って行くとも──!!
だが、その前に────────。
アリシア………………。
アリシア。
アリシア!
おお、アリシア……愛しい我が妻よ。
俺は、お前に会いに行く。
夫が会いに行くんだ。
笑顔で迎えてくれよ────!!
朗らかに笑って、実に久しぶりに抱擁しようじゃないか。
そうとも、
朗らかに歌って、
高らかに歌って、
───皆で行くとも!!
さぁ行こう、我がドイツ軍よ────!!
出でよ────ドイツ軍!!
シュパァァァァアア……!
中空に無数に輝く召喚魔法陣。
魔力の関係で高Lvの召喚獣は呼べないまでも、それ以下の召喚獣なら多数が呼べる。
ただし、制限としてティーガーはしばらくこのままにする必要がある。
何せ、ティーガーⅠの下には今も復活し続けている勇者がいるのだ。
いくらティーガーⅠが無敵でも、油断すれば、ティーガーⅠの下から這い出て来る可能性があった。
(今のところはこれでいいが……)
一生ティーガーを召喚し続けることが出来ないなら、対策は今後考えねばならないだろう。
だが、今のところは封じることができている。このまま、復活したところで行動不能。
しかし、いつまでもこのままとも思えない。
いつ、どうやって逃れてくるか分かったものではないからな……。
ティーガーⅠを召喚し続けるのは魔力的にキツイものがあるが、すぐに枯渇するというわけではないので、当面は問題なさそうだ。
───それよりも、まずはアリシアだ。
我が家で待つアリシアのことを考えねば。
召喚したサイドカーの側車部分にナセルは乗りこむ。
そのまま、背後にズラリと並ぶドイツ軍を見渡した。
『集合終わり!!』
バシン! と、敬礼するのはLv2のドイツ軍歩兵だ。
彼らを召喚するには、さほど魔力の減少を感じない。
「魔力の泉」の効果はこうした低Lv召喚獣の大量召喚にあるのかもしれない。
一個小隊が3、4つ程くっ付いて中隊。『中隊長』を自動召喚。
その中隊が3、4つ程くっついて大隊。『大隊長』を自動召喚─────……。
「ッ!?」
(だ、大隊長……?)
一瞬、黒衣のドイツ兵の指揮官にあの美しい、かつての上司────ナセルの理解者であった、かの『大隊長』を見た気がした。
だが、違う……彼らはドイツ軍。
同じ指揮官でもナセルが見たのは幻視でしかない。
(落ち着け……今は忘れろ───!)
それをさらに召喚し、3、4つ程くっつけて連隊。
『連隊長』が自動召喚される。
さらに賑わしの、戦闘機と戦車と工兵を召喚すれば完璧だ。
『連隊長』を全体の指揮官とし、コンパクトにまとまった戦闘グループ……。
──『ナセル戦闘団』がそこに出現した。
『指揮官どのにーーーーー敬礼ッ!』
ババババババ! と黒衣がはためくほど統制された敬礼。
それを受けつつ、
「傾注。さて、諸君……。俺はついにここまで来た」
万難を排し、
苦難を乗り越え、
我が家へと帰還する───。
だから、
「────高らかに歌ってくれ」
さぁ、アリシア。
歓迎の準備はできたぞ。
「…………歌を、」
そうだ。
歌だ───。
「──帰還の唄だ。唄を歌ってくれ……。ドイツ軍の好きな歌でいい」
『『『了解、指揮官どの』』』
ありがとう、我が愛しの召喚獣たち──。
さぁ、行こう。
──すぅぅ、
「行進!───目標、我が家」
『『『戦闘団──前へ!!』』』
ザッザッザッザッザッザッザッザッ!!