第58話「王国は終了です!」
国王編終了!
最上階から悠々と降りてきたナセルは、城内から退避しているドイツ軍の前に立つ。
『集合完了ッ!』
彼らがズラリと並ぶ中、工兵分隊長から小さな機械を渡される。
『どうぞ』
なにやら線がぷらーんと伸びるそれは、なんだろう?
「これは?」
『起爆装置です。キーを差し込んで回せば、城内の爆薬が順次爆破します────注文通りに』
そうか、そうか。それはいい!!
工兵は完璧な仕事をやり遂げたらしい。
「いいね! いいね! 素晴らしい!」
完全に敵を排除し、もはや国王以外は無人となった王城。
最上階で喚き散らす国王の声が良く響いていた。
「クソ異端者が!」とか、「誰か助けに来い!」とか、「止めてくれ!」とか、まー喋る喋る。
飽きもせずにギャーギャーとよく喋るクソ野郎。
あんだけ叫べば普通は疲れてモノも言えなくなるぞ?
さすがは国王ってとこか────。
「ま、どこまで叫べるか興味が沸いたぜ」
工兵が爆薬を上手くセッティングしてくれたらしいので、ナセルの望み通りに事が運ぶかもしれない。
「それまでは死んでくれるなよ?」
じゃ、
「──ドカンといくか!」
すぐに退避し始めるドイツ軍。
爆発の威力を十分に知っている者は懸命だ。
『総員退避! 爆発するぞぉぉ!!』
注意喚起を背後に受けながら、王城を前に仁王立ちしたナセルは、起爆装置にキーを差し込んで、カチリと回した。
カチッ、とな。
「いい声で鳴いてもらおうか────」
ッッ!!!
──ズドォォォォオオオン!!!
猛烈な爆音が響き、1階部分があっという間に吹っ飛んでいった。
「ぎゃあああ! な、なんじゃああ?!」
ゴゴゴゴゴゴ──と地響きがすると思ったら、2階部分が沈み込み1階を押しつぶす。
もーういっちょ!!
ズドォォォォオオオオン──!!!
今度は2階部分だ。
豪奢で美しい白亜の宮殿がズゴゴゴゴゴゴゴゴ……と轟音を立てて沈み込んでいく。
「ひぎゃあああ! いた! あたたた! は、破片がぁあ!」
遠目に見れば尖塔部分が、徐々に沈み込んでいく姿が見えるだろう。
「ひぎゃぁぁあ!」と、国王が悲鳴を上げていた。
もはや城は崩壊していくのみだが、うまい具合に最上階の王の部屋は残っている。
「いいね~! 絶景、絶景! いやー工兵の仕事は素晴らしいな」
あ、そーれ!
ズドォォォォォォオオン──!!!
そして、2階も崩壊して3階部分が沈み込んでいく。
「ぐあああ! か、壁がぁ、いてーー! だ、誰か来ぉい!」
今は上階部分が瓦礫になり、ドンドンと城の身長が縮んでいくようだ。
「なんあなな、何が起こって居る──うぎゃあああ! 天井が崩れたぁぁぁ!」って具合で国王も大満足らしい。
さぁ、ドンドン行こう!!
あ、よいしょ!
ズッッドォォォオオオオンン──!!
ガラガラと付属の尖塔が崩れていく。
唯一無事なのが国王がいる巨大な尖塔のみ。
「ぐぎゃああああ!! つ、潰れるぅぅう!」
そして4階も崩壊して、
国王のいる尖塔と繋がる5階部分が最後に残るも────ズッッドォォォォオン!!
「はっはっはっはっは!!」
いやー爽快! 爽快ッッ!
濛々砂埃と黒煙が吹き上がるなか、猛烈な臭気が漂うというのにナセルは満足げに立つ。
本当ならば息もできない程の空間で大笑い。
はっはっはっはっは!!
「爽快だな、ええおい?! 国王さんよー! よーーーーーく見えるだろう!?」
城が縮んでいくため国王の声が良く聞こえる様になってきた。「ぎゃー! いてぇ!」ってな感じで大満足みたいだな!
今は城の上階は全て瓦礫になり、残るは螺旋階段と最上階のみ。
一見すれば歪なキノコが映えているように見える。
国王は実に景色を楽しんでいるだろう。
「うぐぐぐぐ……梁が落ち──ぐふっ」と、悲鳴が……。
──お?
死んだか……?
んじゃ、終幕といこう!
ほーら、よいしょ!
ズッドッッォォォォォオオン──!!!
最後に一際大きな爆音が響き。螺旋階段がガラガラと吹っ飛んでいった。
そして、ドスーーーーン!! と最上階の国王の居室が一階に降ってくる。
「おーおーおー……派手に吹っ飛んだね。おかえり、おかえり」
──おかえり。
と、
パチパチと手を叩いて迎えるナセル。
国王のいる最上階も、下の階の崩壊の衝撃でボロボロだ。
これでよく構造がもっている方だと思う。
現状は酷いありさま。
天井は崩壊し、瓦礫が国王に突き刺さっているし。
壁も半分以上が崩れ落ち、さぞ景色が良く見えるだろう。
床も穴だらけ──……そして、崩壊を支え続けていた一階部分の床も──ミシ、ミシミシ……と、不気味な軋み音を立てつつある。
「おーい。生きてるか?」
もくもくと立ちこめる砂塵。
建物崩壊時にでるそれは、古い家屋の匂いがした。
凄まじい崩壊劇のため視界が悪い。
全く見通せないものの、徐々に収まる埃に何とか室内が見えてきた。
「うぐぐぐぐぐぐ…………わ、ワシを誰じゃと思っておるか……!」
お、生きてた。
最上階が一階に。……異様な光景だ。
あの白亜の宮殿はどこにもない。
工兵の調整した爆薬によって自重によって一階から順序崩壊していったため、今ここにあるのは倒壊した残骸のみ。
そして、
「はっはっは。じゃあ、最後はお楽しみと行こうか────」
色々な破片が突き刺さり血だらけの国王。
ため込んだ財貨すら意味をなさず、寧ろ弾けた金貨か宝石が奴の身体にめり込んでいる。
豪華なローブは糞尿と瓦礫でズタボロ。あれでよく生きているものだ……。
装飾過多な冠のみ、奴が国王であると示してくれているようだ。
そこにナセルが踏み込んでいく。
国王に引導を渡すため……。
鉄パイプだけを引っ提げて────……。
「さぁ、国王陛下どの……」
ジャリジャリと床を踏みしめて、拘束が解け賭けなんとか立ち上がろうとしている国王。
その前に立つと、ゆっくりと鉄パイプを振り上げて────。
「地下牢へご招待してやるぜ!!!」
ブンッッ! と、思いっきり鉄パイプを奴に叩きつける──……。
「舐めるな、クソ異端者ぁぁぁああ!!」
グワバッ! と起き上がった国王は、その手に床の財貨の中から拾った黄金の短剣を握りしめていた。
それをナセルに叩きつけようと、──ボキィ!
「ぐぎゃあああああ!!!」
「んなもん、見えとるわぁぁぁあ!!」
反撃を何ともせずに叩き潰し、その手ごと脳天に一撃を喰らわす。
おぅら!!
──ズッガァァァァァァァアアアン!!
と、床の埃が舞い上がるほどの超強烈な一撃!!
そいつを王冠ごと頭に叩き込むと、メリメリィと頭に冠が沈んでいく感触が伝わる。
国王は「ハブァア!」と言った表情で、鼻血と耳血と血涙と血反吐を吹き出して地面に沈む…………。
そして、この一撃により散々に衝撃を受けた一階の床がついに────……。
メリ……メリメリメリッ!
「これにて、王国終了ぉぉお!……地下牢で囚人たちがお待ちかねだぞ」
「ぐぶぶぶぶぶぶ……ぶひぃ……」
ナセルが悠々と王の居室を去る頃には、メリメリ! ズズゥゥンン!!──と、床が抜け落ち、地下まで国王がゴロンゴロンと転がり落ちてゆく。
そこには広大な地下空間。
かつてナセルが囚われた地下牢が広がっていた。
──あっはっは!!
「そこには、お前に微塵も好意抱いていない連中が山ほどいるぜ。……タップリと楽しみな」
「──ほげぇぇぇえええええ!!」
床が抜け落ちゴロゴロとあちこちぶつけながら転がり落ちていく国王。
そして、地下牢も地上階の崩壊を受けて半壊している。
だが、無駄に頑丈な作りのため崩壊には至らず、むしろいくつかの牢の扉が開いただけだ。
いずれ囚人もどこからか抜け出してくるだろうが……。
今は国王がただ一人転がり落ちていっただけ。
チラリと見ただけでも、ギラギラと目を光らせる囚人がわんさかといた。
政治犯やその親族。
果ては魔王軍の捕虜まで……。
拷問に尋問に重ねた挙げ句。
係累まで巻き添え────。
そりゃあ、皆国王を嫌っている。
さぞ歓迎してくれるだろうさ。
「きっと気に入るぜぇ!」
なんたって国王だ。
みーーーーんな、待ってたわけだこんな日を、な。
「…………俺の苦しみ──少しは味わいな」
……ナセルの絶望が始まった地下牢。
そこに、ご招待してやったわけだ。
くくくくく……!
ははははは……!
「あーーはっはっはっはっは!!」
お前のスキルのおかげで範囲内の国民は能力上昇中!
みーーーーーーんな、ハッスルハッスル!
たぁのしいぞーーー!
深い所で微かに悲鳴が聞こえる。
「(やめろ! よ、よせ! わ、わしを誰じゃと思──!)」
ははははは、
「──生き地獄を味わうがいいさ!!!」
「(あ゛あ゛ーーーーーーーーーーッッ)」
はぁぁぁっっはっはっはっはっは!!
たっぷり可愛がってもらうがいいさ!!
──俺は超ご機嫌だぜ!!!
「(ぶひぃぃぃぃいいいいいい──……)」
一瞬国王の悲鳴が聞こえた気がしたが……。
知らん。
もう、どうでもいい。
国の重鎮らも含めて、ほとんど消し炭にしてやった。
……この国はもう終わりだ。
だから、さ。
次はもう──わかってるよなぁぁあ!!!
「…………待ってろよ」
勇者コージ……。
そして、我が妻アリシア!!
「まずは──────」
勇者コージぃぃ──────!!!
「テメェからぶっ飛ばしてやるぁぁあ!!」




