第57話「その面をぉぉぉッッ!」
パンツァーファウストの直撃によって、国王の居室入り口は爆発炎上。今は黒煙に包まれていた。
居室の奥でガタガタと震える国王からは黒煙の先は見えなかったものの、ナセルが近づく気配はわかっていたのだろう。
ジャリ、ミシ……、バリン──。
「ぶ、ぶひぃぃぃぃ!?」
ことさら、ゆっくりと歩くナセル。
ジャリ、ジャリと破片を踏み散らしながら、黒煙のベールを払って国王の前へ。
そして、
顔面蒼白のクソ野郎を目に止めると──。
「おや?」
そこにナセルが進み出る。
にこやかな笑顔で進み出る。
とても綺麗で爽やかな笑みで進み出る。
ふふふ、
「──やぁやぁやぁやぁやぁ、国王陛下におかれましては、先ほどぶりでありますね」
「ぶ、ぶひぃ?!」
目に見えて分かるほどガタガタと震えていやがる。
もはや、言葉すら出ない様だ。
その様子を満足気に見下ろしながら、パンツァーファウストの撃ち殻を手にナセルは進む。
手に持つパンツァーファウストの撃ち殻は鉄パイプ状のそれだ。
そいつを片手にポンポンと叩きつつ進む。
ミシ、ギシ、ミシ……。
床が軋み、一歩一歩と歩く。
国王の毛穴すら見えるほど。
……ふむ?
散々ボコボコにした顔は回復魔法で治療したらしい。
ま、すぐ元通りにしてやるがな……。
ミシ、ミシ、ギシ……。
────ジャバァァァァァァ!
「おやおやおや、御召し物が濡れておりますな」
盛大に漏らす国王。
で? それがどうした?
「ぶ、ぶひぃぃぃい!!」
ゆっくりと歩くナセルの背後に、ドイツ軍がゾロゾロと付き従う。
一応に皆が無表情の黒衣の軍勢。
国王を護るものは、もはや何もない。
そして、室内に踏み込むナセル。
床には大量の金貨がある。
ジャリン、ジャリン、ジャリ♪
それを無造作に踏みつけながら、パンツァーファウストをゆら~りと構えると、
「さぁて、麗しいご尊顔を拝して恐悦至極────」
ジャリン、ジャリン……。
国王の前に立つと────。
「────おや? お顔に何かついておりますよ、陛下」
「ぶ、ぶひひ……か、顔!?」
「とても見苦しので──」
──取って差し上げましょうかッ!
あそーれ!
ブングッ──とパンツァーファウストを振り上げると────!
「おるぁぁああああああ!!!」
インパァァァァァァァクト!!
あーーーーーんど、
ジャァァアアアストミィィィィィィト!!
「はぶぁああああ!!」
ズッッッッッッカァァァァアアアアン!
顔面に直撃した鉄パイプがメリメリメリとめり込んでいく。
「あーーーーーーら、ごめんあそばせ。……ついていたのは、鼻でしたぁ」
「うごごごごごごご……ぎ、貴様あぁぁ」
あん?
おう、ごら?!
ちょ~~っとばかし聞き捨てならんね。
「──貴様だぁ~? おッ口の聞き方が、なっていない様だなぁ──」
悪いのは、
「──この口かぁぁああああ!!」
──ザックゥゥウ!!
鉄パイプをぶっぱなして、強烈な一撃をくれてやる。
まずは──────元の顔に戻してやらねぇえぇとなぁぁあ!
「ひぶぶぶぶ! やめろぉぉ!!」
「やめてください、だろうーーーーがーよぉぉおおおお!!!」
唾液と血反吐が宙を舞う。
「はぶぶぶ! びゃめでぐだじゃいぃ」
はい! よく言えましたぁ!
────そんじゃ、おぅらぁぁぁあ!!
バッコーーーーーーンと、廻し蹴り。
横っ面をふっ飛ばすと床に転がしてやる。
「ぐはぁぁあ!」
ジャリン♪
キャリ~ン♪
盛大にスッ転んだ国王が金貨や宝石の上をバウンドしていく。
「グハッ……。ぐむむ、わ、ワシにこんなことをして──許されると思ってるのか!?」
──あ?
めちゃくちゃ漏らしながら言っても、アンタ威厳もクソもないぞ。
…………んで、何よ?
言うに事欠いて、許されると思う──だ?
──おらッ!
バシャッ~ン!! と、床の金貨ごと蹴りあげて、そいつを国王に叩きつけると、
「誰・の・許・し・がいるっつってんだよ!!」
もう片方の横っ面も蹴り飛ばす。
「へぶぁあッ!」
おーーーーーいい音。
段々元の顔になって来たな。
「で? ──数千の精鋭とやらはどこだ? ん~~? 小汚い爺が一人いるだけにしか見えないけどなぁ」
涎でドロドロになった鉄パイプをゆら~~~りと構えると、
「あーあーあー……汚いね~。お漏らしてまで──」
そのまま股間を狙うように構えると、
「──そぉんな、小汚いものはいらないだろ?」
チョンチョンと股関をつついてやり、鉄パイプの落下地点をわさわざ教えてやると、
「────そんじゃぁ、チンケなものにオサラバしなッ!」
「ひ、ひひぃぃぃい……や、やめてください!」
もはや尊厳も何もかも投げ捨てズルズルとはい回る国王。
そして、「やめてください」ときた。
きたけど…………よぉ?
何?
何だって…………?
「やめろ」だぁ?
いま、そう言ったよな?
すぅぅぅう…………、
「──おめーーーーーーーらは、やめてくれなかっただろうが!!」
リズが懇願し、
泣いて喚いていたのを笑い蔑んだ。
俺の目の前で両親を殺した。
無実の大隊長を焼いた!!
それも、
「俺が何をした!? あああん!? 俺と家族とリズと大隊長がお前らに何をしたっつうんだよ!!」
俺たちは、
──何もしてないだろうがッッッ!!
「ぶひぃぃぃぃ!?」
答えられないなら──────。
ぶっ潰してやるぁぁああ!!
「ひひゃぁぁあああ!! やる! 金をやる! 宝石も、女も、領地も地位も国もやる!! やるから、やめてぇぇぇえ!!」
だったら、
「──リズを返せぇぇぇえええええ!!!」
ブワキィィィィイイイン!!!
──ブワッッキィィィィイイイン!!!
思いっきり、股間目掛けて鉄パイプを振り下ろす────も、直前で軌道修正……──床をブッ叩く。
「ぶひゃぁあ……」
ブクブクと泡を吹いて失神寸前の国王。
まだだ! まだ殺してやるものか!
「なんでもやるっ──つったよな?」
「あう、ああああ、もももちろんじゃ!」
ガックンガックンと首を振る国王。
じゃあよぉ──。
「親父とお袋を生き返らせろ」
「あ、あうう──?!」
ブルブルと首を振る国王。
「大隊長を生き返らせろ」
「う、うぐぐ──?!」
ひぃぃ、と悲鳴をあげる国王。
「俺の尊厳とドラゴンを返せ」
「お、おごご──?!」
ガクガクと体を震わせる国王。
「全てが狂ったあの日まで時間を戻せ、何もかも幸せだったあの日々を返せ、俺の失った全てを元通りにしろッッッ」
「ひぃぃぃ!?」
白目を剥いて今にも失神しそうな国王。
そして、追い詰めるナセル。
「なにも……」
……そうとも──────。
何も、
「──何もできないのかよ、テメェはぁぁあ!」
「ぶぶ、ぶひゃゃぁぁあ!!」
ブリブリと異音。姿勢が妙に盛り上がる。
この野郎……!
お前何回出してんだよ?!
「……金もいらねぇ。宝石も領地も地位も国もいらんッ! ……だけどなぁ!──女だけは返してもらう!!」
だから言え……。
「リズはどこだッッッ!!」
「────うぐぐぐ……し、」
し?
「知らんのだ…………」
あ……?
なんつった?
「おう、……ごら?」
「ほ、ほほほほ、本当だ! 本当に知らんのだ! わ、わわ、ワシは前線に送られたのを見届けただけだ!」
なんだと……!
「──ふざけるなよ……! 喋るまで、じっくり体に聞いてみてもいいんだぞ」
「ほ、ほほほ本当じゃ! 嘘じゃない!! や、野戦師団本部に聞かんと分からんのだ!!」
何ぃ……?
野戦師団本部というと、魔王軍との戦いの最前線か……。
かつて、ナセルと大隊長のいた北部の僻地────。
…………地獄の最前線だ。
「そ、そこで異端者の親族は働かされると聞いている。詳しくはワシも知らん!──本当じゃ!!」
なるほど……。
嘘じゃなさそうだな。一々こいつ等みたいな偉いさんが、異端者のなれの果てまで気に掛けるはずもないか……。
だったら、
「…………ならテメェに用はないな。クズの役立たずに、何の価値もない」
そう言い放ったナセルに、危険なものを感じ取ったのだろう。
「ま、待て!! わ、ワシが話す! 前線に使いを送ろう! そ、そそ、そのリ、リズとかいう女を助け出せばいいんだろ?」
な?
なぁ!?
ニコリと笑う国王、
「手厚く保護する! 約束する! お前の名誉も回復し、国一番の重鎮として取り立てようぞ!」
そうとも、そうとも!
にこやかに起き上がり、
「お前の召喚獣があれば無敵じゃ! 勇者コージなんぞ目じゃないぞぉ! 魔王にも勝てる! 勝てる、勝てる! ついでに帝国も攻めて奪い取り、この世界を牛耳ろうぞ!」
出来る。できるぞ!
ナセルの手を取り、
「──お前と世界を半分にわけるのじゃ!」
はっはっは!!!
そうとも! 世界を獲るのじゃ、
ナセル・バーーーーーーーージニアぁあ!
ははは、
「ははははははははははははは」
ナセルは笑う。
わはは、
「わっはっはっはっはっはっ!」
国王も笑う。
笑う、笑う。
皆、笑う!
ハハハ、
『『『ハハハハハハハハハハハハ!』』』
ドイツ軍も笑う。
笑う、笑う。
皆が笑う!!
はぁーっはっはっはっはっはっ!!
「はっはっは───────工兵分隊長、」
『ハッ!』
笑顔のまま、ナセルは言う。
「────城を爆破するぞ」
『了解! 準備はできています』
すでに……。ナセルは王城を攻略しつつ、追従している工兵分隊に指示を出し、効果的に城を爆破する手はずを整えさせていた。
彼らは山のように積み上げた荷物の中からTNT爆破薬や3Kg大型爆薬などを城内に設置していき、たった今も螺旋階段に爆薬の設置を終えたらしい。
ここ、王の居室のみ残し、地上部分は全て爆破できるという。
「な!? 何をするつもりじゃ?!」
「はっはっはっは。王様よぉ……」
ナセルの手を取る国王のそれを払い除けると、逆に────ポンポンと二の腕を叩いてやる。
それはそれは、まるで王が家臣を労わるかのように……。
実に優しげななナセル────。
「な、なんじゃ!?」
「俺はさ、」
うん。
「────テメェぇエに、意趣返ししたいんだよぉぉお!!!」
はッ、何が世界を半分にするだ。ボケェ!
「聞いて驚けッッッ」
「ひぃ?!」
すぅぅぅう、
「──王国終了のお知らせです!!! これから5分以内に、王城は更地になります──よって、国王陛下は、最後の瞬間をその御目に焼き付けるといいでしょう!!」
さぁ、
「そこのベッドに拘束して差し上げろ」
よーーーく見えるだろうさ。
『了解』
短く返答したドイツ軍によって国王は拘束。
豪華なベッドに押さえつけられると、何重にもグルグル巻きにされて動きを封じられる。
「ぶ、ぶぶぶひ? な、何をする、やめろぉぉ!!」
「大丈夫。大丈夫。先っちょは残してやるよ」
はっはっは。
盛大に行こうじゃないか!
『準備完了です』
「わかった。全員退避。王城前で鑑賞タイムと行こうか」
『『『了解!』』』
ザッザッザッザッザ!
整然と歩いていく擲弾兵たちを尻目に、ナセルは国王に向かって優雅に一礼。
鉄パイプを剣の様に構える臣下の礼だ。
騎士や国軍の兵がやる様に正眼に据えて────。
「では、国王陛下────さようなら。……あとは、死ね」
一人で死ね。
運が良ければ生き残るだろうさ。
ギルドマスターも神官長もまだ生きているだろうしな。
お前も生き残るかもよ。
ま、
その後は生き地獄だろうが……。
「な、何をする気じゃ!! よ、よせ!! ワシを解放しろ! これを外せぇぇぇえええ────」
──ナセル・バーーーーーーーーーージニアぁぁぁあああ!!




