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第48話「ガラスの王国」

 ──歩兵がほぼすべての地雷を踏んだため、歩兵が踏んで(・・・・・・)爆発する地雷(・・・・・・)は残っていない。


 だが──────。


『次────対戦車地雷原に敵戦車が接触します』

『了解。敵歩兵と戦車を分離成功。複合地雷原の先に進んでくるぞ。二階、対戦車榴弾発射筒(パンツァーパトローネ)準備(フォバハィトゥン)!』


『『『了解(ヤボール)』』』


 バンッ──バタン! と突如、陣地付近の二階の窓が開け放たれ、長い棒のようなものを持った擲弾兵が身を乗り出して来た。


 それも、かなりの数の兵が長い棒を構えている。


「あれは?」

『歩兵携行型の対戦車榴弾発射筒(パンツァーパトローネ)30ですよ──……伏せてくださいッ!』


 パンツァーパトローネ?


「ひゃぁぁぁはーーー!! 一番乗りだぜぇぇ!」


 先頭を切る騎馬戦車が野蛮な叫びと共にバリケードに突っ込んでくる。

 そして、


「しぃぃぃねぇぇぇえ! そんなバリケード簡単に、」


 カチ────ズドオオオオオオオオオオオオン!!


 大爆発とともに空に巻き上がる騎馬戦車。

 対人地雷の比ではない威力。


「んな!?」

『触雷したぞ! パンツァーパトローネ用意!』


『『『了解(ヤヴォル)!』』』


 バラバラバラ……と今更ながら、さっきの爆発で吹っ飛んだ騎馬戦車の破片が降ってくる。

 車体は粉々。

 御者の姿どころか、弓手を勤めていた乗員の姿もない。

 もちろん、防御結界を張っていたはずの魔術師もだ。


 唯一、馬の上半身だけがボトリと地面に倒れ落ち、良く焼けた馬肉に匂いをさせている。


 そして、それは連鎖する。


「な、なんだ!? 今のは────」


 ズドドオオオオオオオオオオン!!


 2台目、大破。──炎上。

「あーー!! あーーー!! ぎゃああああ!!」


 燃え盛る炎の塊となった乗員が転げまわり──。

「邪魔だ、どけ──」


 ズドドドドオオオオオオオン!!


 3台目、大破。──爆散。


「じ、地雷は使いきったんじゃないのか?」

 ナセルは国王の非人道的な手法で地雷原が、無力化されていく様をつぶさににみていた。

 だが、

『この地雷原は複合型です。敵から見て陣地の手前に対人地雷、そして奥内には

──』


 ズドォォォオオオン……!!

「ぎゃあああああい!!」


 4台目、大破。


『──ご覧の通り戦車を破壊するための対戦車地雷を敷設しています』


 曰く、

 歩兵と戦車の連携を防ぐため、手前に対人地雷を敷設して歩兵の足をとめ、戦車だけを突出させる。


 そして、突出した戦車が対戦車地雷に触雷したときを見計らって──────。

 

「な、なんじゃぁあ?! まだ地面の罠が残っていたのか!」

 ここでようやく……。国王は事態に気付いて驚愕している。


 そして、

「停止! 停止!! 全隊停止しろぉぉおお!!」


 あの良く響くデッカイ声で停止を命じた。

 さすがに薫陶が行き届いている。忠実なる近衛兵団の騎馬戦車は国王の命を受けて素早く停止。


 間に合わなかった1台が対戦車地雷を踏みぶっ飛んでいったが、概ねの被害は今の一台を含めて5台。

 まだ国王の重騎馬戦車を含めても45台も残っていやがる────。


 だが、

『──かかったぞ! 敵車両の停止を確認ッ!』

 二階の窓から騎馬戦車の動向を窺っていたドイツ軍偵察員が大声で報告。そこにすかさず、

よし(グート)! 二階(ツヴァイラィ)────撃てぇぇえええ(シィィィイセェン)!!』


『『『了解(ヤボール)!』』』


 そう、対戦車地雷の目的は敵の足を止めること。


 そして、止まったが最後──……。


 ──スパァァン!


 と、軽い発射音。

 それが連続しておこる。


 スパパパッパン!!


 2階から身を乗り出しているドイツ軍の構える棒が前後から爆発し、物凄い炎が生まれた。

 その影響で、室内は一瞬だけとはいえ真っ赤に明々と染まり竃のようだ。さらに、爆炎のあとから猛烈に黒煙を噴き出し視界を汚し始めた。


 あれでは、室内のドイツ軍も堪らないのではないか?


 だが、今は空に放たれた赤く燃える炎の矢の行方だ。

 ナセルが見守るなか呆れるほど遅い弾道が敵の騎馬戦車に吸い込まれていく。


 砲弾に比べれば、酷く遅い弾速のそれは緩い放物線を描いて────……着弾ッ!



 ────ドォォオオオオン!!

「うぎゃぁぁあああああああああ!!」


 直撃を受けた騎馬戦車が一瞬にして炎に包まれる。

 余りにも初速が遅いものだからドイツ軍が石でも投げつけたのかと思ったが、……まさかこれほどの威力とは!?


 ズドンッ、ズドンスドン!!


 次々に着弾するパンツァーパトローネによって動きを止めた騎馬戦車が炎上していく。

 だが、余り命中率はよくないらしく、動きを止めた騎馬戦車さえ仕留めることのできない弾もあった。

 しかし、その分を数で補うつもりなのか、次々に撃ち込まれる炎の矢。


 魔術師が防御魔法を展開しているはずだが、……まるで結界なんて初めから存在していないかのようだ。


「「「ぎゃぁぁあああああ!!」」」


 そのまま、勢いにのったドイツ軍が例の棒(パンツァーパトローネ)を何本も取り換えつつ、つるべ撃ち。


 都合、20台の騎馬戦車が爆発炎上していった。


「な、なん、ななななななな、なんじゃぁぁあ!?」


 当然パニックに陥る国王とその配下。


「へ、陛下!? 後方へ、に、にににに逃げましょう!?」


 重騎馬戦車の御者を務める兵が顔面蒼白で宣うも、

「逃げるだぁ!?」

 ゆら~りと顔を歪ませると、

「どこに逃げるってんだアホォ!!」


 ズバァ!──と一刀のもとに御者を切り捨ててしまった。


 信じられないと言った様子で事切れた御者を台から蹴り落とすと、代わりに手綱を取る国王。




 なにが後方じゃ────!!


「──もう、王国に「後方」なんて残ってないわ! …………我が王国はあと数百メートルしかないんじゃボケぇぇ!」


 ※ ※


 ──我が王国は、あと数百メートルしかない!

 国王の悲痛な叫びがこだます。


 ナセルの侵攻によって王城にまで追い詰められた国王は、もはや怖いもの知らずだ。


 たしかに、逃げ場所はもうない……。


 王都郊外に逃げようにも、ナセルが逃がすわけがない。だから、ここが最後の戦場。


 ここで負ければ城に逃げ帰り、まんじりと滅びを待つだけだ。


 ドイツ軍のように通信機器もないこの国では、魔族との戦争に出張っている王国軍主力を最前線から呼び戻すのに何日もかかるだろう。


 だから、これが最後。

 最後の野戦。最後の戦い。


 そのことは国王もよーーーーーく分かっていた。

 念のために、保険として勇者を呼びつけたわけだが……、

「あんのクソ勇者め! 何をしとるんじゃ、ビッチと乳繰りあってないで、さっさとワシを護りに来んか!」


 ええい────!!


 ビシィ!! 大型軍馬に鞭をふるう。

 そして、国王自ら重騎馬戦車を駆ると、気合を入れなおすかのように、

「怯むなぁぁあ! 者どもよ! 止まっていては火の矢に狙われるぞ!──委細構わず突進せよ!」


 突進突進突進!

 突撃突撃突撃!!

 突貫突貫突貫!!!


「いけぇぇえ! 続けぇえ! ツワモノどもよ!!」


 お、

「「おおう!!」」


 ここでようやく先頭に躍り出る国王。

 一度は萎えかけた戦意。だが、国王が先陣を切ることで、立ち所に戦う意欲を回復する騎馬戦車隊。


 国王も騎馬戦車隊も、ナセルを絶対殺すマン(・・・・・・・・・・)と化して突っ込むつもりらしい。

 もう、アドレナリンがドバドバと溢れているのか、対戦車地雷の恐怖がスポーーーーンと抜け落ちてしまっているらしい。


 …………。


 って──おいおい、おーい!!

 じょ、冗談じゃない!




 このままじゃ、あの野郎死ぬぞ──。




 ダメだ!

 地雷でドカン!──なんぞ、生温い……!


「おい! 奴は俺が仕留めるんだ。地雷を止めろ!」

 ナセルは焦る。


 まさか、自殺覚悟で突っ込んでくるとは思わなかった。

 そうでもしなければ怯んだ騎馬戦車が進もうとしないからだろうが────。


『無理です。地雷は一度設置したら人力で除去するか誰かが踏むまで解除できません──』

 何年でも、何十年でも……。

 仕掛けたが最後。

 土に還るまで忠実に任務を果たす殺意の塊。

 それが地雷。戦場の静かな悪魔だ!


 その説明を聞いて呆気にとられるナセル。

 なんて恐ろしい兵器を使いやがるんだコイツらは!


 ──ば、馬鹿げてるぞ?!

(な、ななな、何だその兵器は!)


 殺意の持続。

 その薄ら寒さにナセルは冷や汗をかく。


「くそ! ならば、俺が討って出る──奴はこの手で仕留めなけりゃならん!」


 ナセルの意志は固い。

 地雷の恐怖もさることながら、ドイツ軍を召喚したのはナセルだ。

 最悪、彼らを召喚から解除し、帰還させれば、地雷も消えるだろう。


 だが、今はできない。

 国王以外にも敵は大勢いるのだ。


 ドイツ軍無くして、ナセルに勝てる道理はない。

 結局、騎馬戦車相手に一人で何ができるでもないが──。


 ──……彼らドイツ軍がいれば勝てる!

 今さら彼らの強さと非道さに異を唱えるなど愚の骨頂だ。


 だが、裸で敵前に飛び出しても挽肉にされるだけ。

「何か良い手はないか?」

 焦りからナセルは『中隊長』に尋ねると、

『了解──工兵小隊長が同乗します。戦車用の地雷原通路まで案内させましょう』


 ──地雷原通路??


 それだけ言うと、『中隊長』は工兵小隊長を呼びつけ、同時にⅣ号戦車を発進させる準備を整え始めた。

 だが、

「待て! 奥の戦車はそのままでいい。バリケードを除去している暇もない。今から新しく召喚する」


 そうだ。

 何も同じ戦車を使い続ける必要はない。


 バンメルから奪った『魔力の泉』のおかげで、無尽蔵に沸き続ける魔力。

 もちろん何処かに限界はあるのだろうが、もとはドラゴン召喚Lv5のナセル。

 ドイツ軍召喚Lvが低い今は、まだ大した負担を感じない。


 そうとも、地の魔力が違うのだ。


 新しい召喚術とはいえ、使用する魔力はドラゴンの頃とさほどかわらない。

 召喚術とは別に、術者自身の身体Lvも見えないステータスとしてあるのだ。


 その点、ナセルは軍人時代と冒険者時代に、積み上げた下地がある。さらには、元々のナセルの召喚獣Lvが5であったことに起因しているのだろう。


 ドイツ軍召喚Lvは現在4。


 本来ならLv4の召喚獣を呼びだせば短時間しか使役できない。

 だが、魔力の泉の補助もあり、かつナセルの元の召喚獣Lvが5であったため、現Lvより低い召喚獣を世に顕現させるのはさほど難しくないのだ。


 これがLv5になってくるとどうなるか……。

 まぁいい。今はそれよりも国王を仕留める事────。





「いでよ! ドイツ軍────!」





 ブゥン……。バリケード前に召喚獣ステータスを呼びだし選択……。


「なに!?」



ドイツ軍Lv5:

※  ※  ※: 

Lv0→ドイツ軍歩兵1940年国防軍(ヴェアマハト)(タイプ)

Lv1→ドイツ軍歩兵分隊1940年国防軍型、

   ドイツ軍工兵班1940年国防軍型、

   Ⅰ号戦車B型、

Lv2→ドイツ軍歩兵小隊1940年国防軍型、

   ドイツ軍工兵分隊

   Ⅱ号戦車C型、

   R12サイドカーMG34(軽機関銃)装備

Lv3→ドイツ軍歩兵小隊1942年自動車化

   ※(ハーフトラック装備)

   ドイツ軍工兵分隊1942年自動車化

   ※(3tトラック装備)

   Ⅲ号戦車M型

   メッサーシュミットBf109G(戦闘機)

Lv4→ドイツ軍装甲擲弾兵小隊1943年型

   ※(ハーフトラック装備)

   ドイツ軍工兵分隊1943年型

   ※(工兵戦闘車装備)

   ドイツ軍砲兵小隊

   ※((10.5cm)榴弾砲装備(leFH18/40)

   Ⅳ号戦車H型、

   ユンカースJu87D(急降下爆撃機)

Lv5→ドイツ軍装甲擲弾兵小隊1944年型

   ※(ハーフトラック装備)

   ドイツ軍工兵分隊1944年

   ※火焔放射戦車装備

   ドイツ軍砲兵小隊重榴弾砲装備

    パンター(5号)戦車G型

   フォッケウルフFw190F(戦闘爆撃機)

(次)

Lv6→ドイツ軍装甲擲弾兵小隊1944年型

   ※重装備(ハーフトラック装備)

   ドイツ軍工兵分隊1944年

   ※大型ロケット弾発射機(ネーベルファー)装備

   ドイツ軍砲兵小隊

   ※自走榴弾砲(フンメル)装備

   ティーガー(6号)戦車Ⅰ

   フィーゼラー(通称Vー1)Fiー103(無人飛行爆弾)

   ※He111H後期型に登載可能

Lv7→????

Lv8→????

Lv完→????



 嘘だろ……。

「ま、またLvがあがっている……だと?」


 ついにナセルがドラゴンを失ったあの時のLvに追いついてしまった。


 召喚術Lv5──。


 かつていたはずの、……人生絶頂の時のそれ。


 Lv5だと?

 絶望から這い上がり、今日で……たったの1日でたどり着いたのは、失ったはずのナセルの人生の最上の時──最盛期のLv……。


(召喚術Lv5か……)

 なぜかそれだけで胸が熱くなる……。


 それが『ドラゴン』ではなく『ドイツ軍』であってもだ。


 たとえそれが無数の屍の上にあるLvであろうと────だ。


 失った物を一つ取り戻した気持ちとでも言うのだろうか……。

 グググと胸を押さえるナセル。

 あぁ、そうか。


 俺はまだ────全てを失っていない。


 こうして、Lv5の召喚術にまで至ることができた。

 絶望とドン底の果てにある再起の時。


 それを経てナセルはまた到達した──。

 そして、まだまだ先へ行ける。



 ドイツ軍とともに!



 そして──────────!

 取り戻したもの(かつてのLv)とともに、もう1つあった…………。


 そうとも、忘れるものか───!!!


 まだ、失われていないもの(最後の家族)────……。







「──────リズ……」



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