表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/89

第40話「出オチの近衛兵団長」

 カッポ、カッポ、カッポ……。


 ズラリと居並ぶ騎兵の中から一騎が進み出ると、跳ね橋の上で騎槍を高らかに掲げて口上を述べる。


「貴様が異端者ナセル・バージニアだな!──我々は、王国最強の近衛兵団重装騎兵隊!」


 ギラリと光る騎槍(ランス)

 そいつはわざわざ馬の足を止めて兜のフェイスガードを上げてみせた。


「さっきはドラゴンの奇襲によって、よくも我が兵団に卑劣なる痛打を浴びせてくれたな! しかし、その威力に免じて、互いに敬意を表し名乗りを許そう。大罪人の貴様に名乗るのも惜しいが、我こそは近衛兵団長──」


撃て(シーセン)

了解(ヤボール)!』


 ズドン────!!


 装填を終えていたナセルが乗る戦車からの返答は「ズドン!」の一言。

 戦車の射程からすれば指呼の距離にいた近衛兵団長はその一撃で破裂して四散。


 滅茶苦茶大穴があいて、上半身と頭が馬の身体ごと、丸っとえぐり取られて吹っ飛んでいった。


 僅かに千切れ残った肩から上の表情が「嘘ぉ?!」と言わんばかり。────嘘じゃねぇよ、アホ。


 そのまま、ヒュルルルと低伸した砲弾は、弾道のゆくままに、お行儀よく並んでいる近衛兵団重装騎兵隊の隊列に飛び込んだ。


 ──チュドォォォォォン!!


 猛烈な爆発が起こり、バラバラと吹っ飛ぶ近衛兵団。


「ぎゃああああぁあ!!」

「ひぃ、ひぃぃいい!!」

「火が、火がぁぁあ!!」


 ほとんど全員──「嘘ぉ?!」って顔だけど、お前らアホですか?


 なんで、撃たれないと思った?

 誰かがヨーイ、ドン! っていうと思ったのか?


 名乗りがほしいらしいな。

「──あ、すまん。ドイツ軍召喚士のナセル・バージニアだ」

 以後ヨロシク。


 容赦ない一撃。

 軽い調子での名乗り。


 ……まともに相手すると思ってんのか?


 お遊戯やってんじゃねぇぞ!!

 ──地獄で待ってろクソ野郎の手下どもが!


 と、いっても聞いちゃいない。

 至近距離で75mm榴弾が爆発したのだ。


 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 だが、それでも────奴がいる。


 偉そうに怒鳴りながら、ズンズンと奥から進み出た4頭仕立ての大型騎馬戦車(チャリオット)

 豪華な装飾の施されたそれは国王専用の重防護型の総金属の騎馬戦車だ。


「こ、ここ、この卑怯者が! 殺せぇぇえ! 城壁弓兵さっさと立て!──生き残りは全力支援!」


 騎馬戦車のうえから壊滅間近の弓兵を叱咤激励する国王。


 オープントップなため、上空からの攻撃には弱いが、正面の装甲だけは滅茶苦茶分厚い。

 そして、馬に挟まれるようにして、ブットい衝角(ラム)が前方を睨み付けていた。


 あれでドイツ軍の戦車と戦おうというのか?


 いや、その前に──ここで奴の隠し玉!

投石器(カタパルト)──今じゃ、撃ち方用意ぃ────」


 城壁の裏側で重量物の移動する音が聞こえる。

 ……投石器だと?


「ワシが督戦する。者ども怯むな! 騎馬隊! 損害に委細躊躇せず突貫せよ! 歩兵は背後に続け!」


 大声を張り上げる国王に勇気づけられ、崩壊寸前だった近衛兵団の指揮が回復する。


 隊列中央で爆発したため半数近い重装騎兵が死傷していたが、残りの兵はすぐさま突撃に移行。

 さらに、その装甲に護られるように背後には多数の歩兵が並んだ。


「突撃用意!!」


 儀礼刀のような瀟洒な剣を抜いた国王が振り下ろしざまに突撃準備を下達する。


 さらには、

「スキル────『高貴な血筋』発動じゃぁぁぁあ!」


 アホ国王の身体がブワァァァ! と輝き、儀礼刀の先端から迸った光が花火のように弾けて降り注ぐ。


 それらは、突撃前の近衛兵に当たり、彼らの身体も淡く輝いていた。


(何だあれは?!)


 国王のスキルらしいが……あんなの見たことも聞いたこともないぞ?


 だが、腐っても国王。そして勇者の末裔。

 なにがしかの特別なスキルを持っていてもおかしくはない。

 それが、あれ(『高貴な血筋』)だというのか?


 光を受けたとたん、近衛兵らの表情が変わる。彼は一瞬にして目が血走り、筋肉が盛り上がったように見えた。


 ……いや、違う!

 実際に筋肉が盛り上がり、力が向上しているのだ!


 膨れ上がった近衛兵からの戦闘力向上による圧力の増大を受けてナセルは理解する。

 魔術師が使う味方の能力向上(ブースト)魔法────それに酷似している。


 だが、

「あの野郎……とんでもない範囲を強化しやがった……! しかも、なんだあの上昇率は!?」


 国王は全体強化のスキルを発動したらしい。

 ナセルが今まで見たこともないほど強力に過ぎるほどのスキル。

 くそ、あんな奥の手があったとは……。


 さらには、用心深いのか国王は魔術師たちに命じて、歩兵部隊に防御魔法を掛けさせる。

 それだけでなく、同時に歩兵に混じって吶喊とっかんする魔術師たちには、部隊全体に強力な防御結界を張らせた。


「異端者めが! これがワシ自らの制裁じゃ! そのチンケな召喚獣で敗れるものなら破ってみろ!」



「上等ぉぉお!」



 防御結界を張っているのは元はバンメル麾下の魔法兵団だ。

 魔王軍との戦いでも兵を護るため防御魔法を駆使して前線を支えることもあるらしい。


 なるほど、……連中も、多少はできるようだ。


 銃のことはついさっきまで知らなかったのだろうが、国王はすぐさま対応策にでたらしい。


 パリ、パリパキン……!


 透明なカラス板の様なものがボンヤリと歩兵たちの前にあらわれる。あれが強化された防御結界らしい。 


 あれでも、一応ドイツ軍の攻撃対策なのだろう。通常の防御結界ごときで防げるとは思えないが──ないよりはましといったところか。


 ナセルが戦場で見た経験でいうと、魔術師が多用する防御結界はオーガの投槍をギリギリ防げるかといった程度。


 ゴブリン程度の矢などは完全に防ぐも、ドイツ軍の銃弾はオーガの投槍よりも強力だ。


「ハッ! せいぜい、ガラスで守ってろ!」


 魔術師の結界など知った事かと言わんばかりにドイツ軍に射撃姿勢を取らせる。


(突撃してくるなら結構なことだ。真正面から死体の山を築いてやる!)


「吼え面かくなよ! 異端者めがぁぁぁ! 第一悌隊────前へ。ッッ、突撃ぃぃぃぃい!!」


 口の端から唾を飛ばしながら国王が怒鳴る。

 そして、スキルによる強化を受けた近衛兵団の塊が雄たけびを上げて吶喊してきた!


 まずは正面──重装騎兵隊!


「行くぞ!」

「おおう!!」

「団長の仇だ!」


     「突撃ぃぃい!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 狂暴な笑みを浮かべるナセルの前に、ついに騎馬の突撃が始まる。


 国王がなにやら偉そうに能力向上スキルを発動していたが、知った事ではない。


 冒険者ギルドのマスターも偉そうなことをほざいていたが、金庫の中でクソまみれになっている。


 国王も同様だともさ!


 ドイツ軍の前に、チャチなスキルで敵うものかよ!

 ぐっちゃぐちゃにしてやる!


 ナセルの思惑など知るよしもなく、勝利を確信した騎馬隊が前にでる。


 馬蹄も激しく突撃に移った騎馬隊はただ圧力をもって敵を粉砕せんとする。

 歩兵隊はあとに続けないものの、騎馬隊の勇気に押されて彼らも吶喊する!


 さすがに騎馬隊は速度が速すぎるため結界の援護下に入るのは困難だが、圧力は本物だ。

 その後方に続く歩兵は防御結界に護られて、騎兵隊を楔に戦果を得るのだろう。


 ……なるほど、魔術師の庇護下にいれば、結界も移動しながら発動することが可能らしい。さすがに騎乗できる魔術師はいなかったらしいが……歩兵は完全にカバーしているようだ。


 城壁上で王を護っていた『障壁』程ではないにしても防御結界も十分に厄介かもしれない。


 だが、

「そう来なくっちゃな!」


 そうとも、冒険者ギルドも教会もクソ雑魚過ぎてつまらなかったぜ!


「王国終了────その最後を飾れやッ」


 ズドドドドドド! と、王城側から地響きの如く盛大な足音を立てて騎馬が突っ込んでくる。

 国王は隊列最後の騎馬戦車を直率するつもりらしい。


 よく通る声で兵を鼓舞している。


 だが、ドイツ軍の火力の前にそんなもの意味があるものか!


 ナセルが一斉射撃を命じようとしたその時──。





(あなど)ったな異端者────投石器(カタパルト)……てぇ!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読みいただき、ありがとうございます!


⇧ の『☆☆☆☆☆』評価欄 ⇧にて


『★×5個』で、応援いただけると嬉しいです!



新作だよ!
⬇️ 新作 ⬇️

異世界サルーン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ