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第36話「王国の反撃(前編)」


※ 国王視点 ※



 ──チュバァァァァアアアン!!!


 王城を震わす大音響。

 その音響は大振動をともなっており、ズズズン! と、城を無茶苦茶に揺すぶった。


 ガチャーン!

 パリン!!


 高価な陶器のカップが割れ、中身をぶちまける。


「な! 何が起こった!?」


 ズルッ!

 国王が驚愕のあまり椅子から転がり落ちた。


 そりゃあそうだろう。

 今朝から驚きッぱなしだが、今のは極めつけだ。


 なんたって目と鼻の先。

 広大な王城の一角────。練兵場にて異変が起こったのだ。

 それは、なんというか……まるで火山でも噴火したかの様な──?



 ────ブァリィィィィィィン!!!



「ひぃぃぃぃ!?」


 それは大振動だけでおさまらない。

 かの練兵場の一角で起きた爆発は、多大な暴風となって王城を襲った。


 王城の爆発に面していた一角では、一斉に弾けるガラス窓。

 部分、部分では窓枠ごとぶっ飛ばされたほど。


 それは当然国王の居室とて例外ではなく、豪華仕立ての巨大な窓ガラスが粉々に砕け散って、その破片が国王目掛けて降り注いだ。


「うひゃあぁぁ!」


 ドスッ────パリン、キン…………。


 幾つかの破片は肌を破り……。

 そして、あろうことか、一際巨大な破片が国王の股座(またぐら)数センチのところにブッ刺さる。

 あと一歩前にいたら股間のイチモツとおさらばする羽目になっていただろう。


「ひ、ひ、ひぃ……」


 ホカホカとアンモニア臭が立ち込めているのも致し方なし……。


 王城全体で大騒ぎとなっているのか、あちこちで悲鳴と怒号があがっているのが遠くに聞こえてきた。


 とくに練兵場に面していた区画では顕著であり、負傷者もでているのだろう。

 典医を呼ぶ声があちこちで響いている。

 練兵場側のガラスは全て打ち砕かれて、城の者を傷つけたのかもしれない。


「な、な、な、ななななななに──」


 あまりの衝撃に「何事だ」の一言すら発せられない国王。

 部屋のなかには誰もおらず、パラパラと壁が崩れる音が響くのみ。


 音の所在は余りの振動によって砕けた壁と天井の一部。

 そのうち城の壁にもひび割れが発生し、いくつかの構造材はひどく割れ砕けた。

 さすがにそれだけで崩壊することはないが────。


 バタァン! 


「へ、陛下────!!」「ひぇ!?」

 またしても不躾に扉を開けるのは近衛兵団長。


「ぶ、ぶぶぶ、ぶれ──」


 じょわぁぁ──とかなりの量を漏らしてしまうも、さすがは国王。


「……いや、なんだ!? 早く言え」


 サッと、濡れた股間をクッションで隠しつつも威厳を保つ国王──ぬかりなし、だ。 


 そしてさり気なく執務机に移動。

 股間がびちょびちょで気持ち悪いが顔には出さない。


「陛下! それが────ん? なんか臭う……」

「は、早く申せ!」


 クンクン……と近衛兵団長が鼻をならし始めたので慌てて促す国王。

 その剣幕に驚いて慌てて威儀を正し報告を始める団長だが、その顔はどこか訝し気だった。

 その無礼な様子に一瞬怒鳴りつけようかとも思ったが、国王はそれをグッと思いとどまる。

 追求されて困るのは国王だ。


 いやそれよりも、近衛兵団長が緊急で来たということは、この事態の危急を告げにきたのは、火を見るよりも明らかだ。

 

「報告します!! わ、わ、……我が兵団────壊滅!」


 …………。


 ────は??


 兵団が壊滅?

 へいだんがかいめつ。


 その言葉を理解するのに少々の時間を必要としたのは言うまでもないが……。


「貴様は何を寝ぼけと──」


 そこでガクリと膝をつく近衛兵団長。

 よく見れば背中にブッとい鉄の破片が突き刺さっている。


「な……なにがあった?」

「ぐぐぐ……じょ、上空から怪鳥が舞い降りてきて────その後我が兵団は壊滅しました」


 はぁ?!

 そ、それだけではわからんではないか!


「ちょ……直後、王都を前進する正体不明の集団を確認……! 誰何に向かった兵は全て行方不明です」

「な、ななんなななななんだと!? 何者だ!」


 言ってから自分で気づく国王。

 そんなのは決まっている。────例の異端者だ。あのナセル・バージニアだ。


「ぐむ! やはり彼奴(きゃつ)の仕業か……」


 いや、それよりも────。


「ま、まて? 兵団が壊滅だと? ど、どういう────ええい! はっきりしたことを申せ!!」


 負傷している近衛兵団長にもおかまいなし。胸倉をつかんでガックンガックン。


「うぐ……。で、ですから────招集中の近衛兵団はほぼ壊滅……! 全員ミンチになりましたよ!」


 ヤケクソ気味に堪える近衛兵団長によって突き飛ばされる。

 その瞬間。


 ──べちゃべちゃ!!!

 と、物凄く臭う物体が空から降ってきて王の居室やその外のバルコニーをドロドロにしてしまった。


「────これが、我が兵団の成れの果てです……」

 近衛兵団長がヒョイと拾い上げ、国王に手渡したのはペチャンコになった焼け焦げの兜──、


「なんじ─────ひいいい!?」


 ──中身がぎっしり詰まった兜だった。


 その瞬間、完全に失禁してしまう。もはや隠すどころではない。股間の汚れをバッチリ見られるが、それを隠すことも忘れて怒鳴り散らす国王。


「こ、こ、このアホぉぉ! か、壊滅しましたで済むか! 兵などその辺に居るわぃ! 誰でもいいからかき集めてこぉい!!」


 おらぁ! と短い脚で近衛兵団長を蹴飛ばす国王。その拍子にズデ~ン! 転ぶ。

 そりゃもう威厳もクソもない。


「りょ、了解しました……!」


 一瞬ふらつくも、存外しっかりした様子で立ち上がる近衛兵団長。

 顔面は蒼白で血の気は失せているも闘気はあるようだ。

 自分の兵団が目の前で消滅したのだ。茫然自失もあるだろうが、それ以上に怒りもあるのだろう。


 ギリリリと歯を食いしばる国王。

 あの野郎。異端者の分際でぇえ!

 ナセル・バージニアぁぁあ!!!

 復讐だとは予想がつくが……やり過ぎではないのか?!


 たかだか数人死んで、ちょっと火傷させただけだろうが!


 やり過ぎだ! ボケぇえ!!


「まて、ワシも行く! 貴様らだけに任せておけるか!」


 一度近衛兵団長を部屋から追い出すと、ササっと下穿きを替える国王。

 同じ色のものがなかったので、仕方なく先ほどとは違う色ものを履いているが……まぁ大丈夫だろう。バレない、バレない。


 細身の儀礼用の剣を腰に佩くと冠を頭に乗せて部屋を出る。

 腰の剣はひさしぶりに佩いたが実に重い……。


 ガチャ……。


「陛下! それでは行きま────あれ? 下穿きを履き替えられたので?」

「やかましぃぃぃぃいい!! 無能な団長風情が黙っておれぃぃ!」


 ゲシッ!!


 一番指摘されたくないところを適格に言う、クソ無能の近衛兵団長に怒り心頭の国王。


 短い足の癖に器用に廻し蹴りをブチかます。


「も、申し訳ありません……!」

 若干、声にイラつきを感じさせるように近衛兵団長は謝罪するも、完全に目が白けている。


「ふん! 貴様は城に残った兵をかき集めよ! 騎士見習いだろうが料理番だろうが女中だろうが知るかッ」


 そうとも、


「あとは、王城の臣下は武器を持って集合だ! 大臣連中も呼べぇぇ! たまには仕事しろぉぉお!!」


 ぎゃーぎゃーと滑稽なくらい大声を張り上げるも、見かける連中を片っ端から捕まえて命令を下していく。

 バタバタとしていた王城は国王の姿を見たことで少し平静を保ち始めた。


 逃散寸前だった衛兵もホッとした表情を浮かべている。


 やはり、勇者の国の国王だ。

 その血に流れる末裔たる証は伊達ではない。


 一方で不安も少々。

 盛んに声を張り上げるも、ドタバタと足音も荒くその様は滑稽ですらある。それを逆に不安がるものもいるだろう。

 だが、国王は頓着しない。


「邪魔だ! どけどけー!!」


 途中途中で、典医や近衛兵団の衛生兵が負傷した兵をらを王城の空き部屋に運んでいるが、どう見ても助からないものも多数いる。

 だが、外に放置するわけにもいかず取り合えず内部に運んでいるのだろうが……。


 そのままでは、混乱している城の者も余計に混乱してしまうだろう。

 凄惨な現場というのは慣れないものにはパニックしか引き起こさない。


 だが、それすらもわからないのか、どいつもこいつも右往左往するばかり。

 そもそも、運びこまれる兵の数に比して後送担当の兵の数が異常に少ない。


 近衛兵団長が言うところの壊滅────そして、逃散……脱走が既に始まっているのだろう。


 そのうえ……。

「おい! なにを持っとる!?」


 って、お前らそれは国宝の絵画だぞ!?

 それに、それはワシの自慢の壺じゃないか!


「バカモン! 返せぇぇ!」


 あああ!

 金庫引き摺ってどこいくつもりだ!?


「なぁぁぁにをやっとるかぁ! 誰が略奪を許可した!」


 こ、こ、この──!

 どいつも、こいつも使えんクズどもめ!


 泥棒!

 王国民なら最後まで踏みとどまれぇぇえ!


「ええい! 不甲斐ない! 異端者の元召喚士くらいで右往左往しおって──」 


 一番の権力者である国王が現場に顔を出してようやく混乱が収束し始めた。とはいえ、近衛兵団が壊滅状態なことに変わりはない。


 そもそも、事態に対処するのが遅すぎるのだ。


 冒険者ギルドが壊滅してから随分経つというのに、未だに近衛兵団の招集をしている時点で遅い。


 王都警備隊を陣頭指揮する也、

 貴族らの私兵を掻き集める也、やり方はいくらでもあっただろうに……。

 

 場当たり的な対応をするからこうなるのだ。


 そもそもが、魔王を倒そうと根拠もなく勇者を召喚した時点ですでに悪手だ。


 魔王を倒せる存在を呼びだしたとしたら────その存在に対するカウンターをどう考えていたというのか。


 もし、勇者が大人しく言う事を聞く輩でなければ?


 結局新しい『魔王』を生むだけ。


 そんなこともわからないから、勇者に頭を悩ませて、人の女房を与えたり、財を食いつぶさせるのだ。


 なんだかんだ言って、国王も大馬鹿の部類ということ。


 それに気づかないバカ王は、

 城の玄関口であるホールに足を踏み入れると大声で怒鳴った!


 そこは、負傷兵と避難してきた非戦闘員で溢れかえっており、物凄い悪臭に埋め尽くされていた。

 血、臓物、汗、糞尿、……およそ人体から出る液体のあらゆるものがそこに満ち満ちている……。


(ぬぬぬぬぬぬぬぬ……!)

 我が城をドロドロに汚しおってからに、どいつもこいつも使えんクズどもが!





「聞け!! 不甲斐ない貴様らに代わり、国王自ら督戦に参った────」



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