第26話「ドラゴン召喚士来襲」
『任務完了──帰投します!』
バシン! と敬礼した少尉に、ナセルは軽く頷く。
「ありがとう……」
その言葉を受けて、ニと口の端を浮かべて笑ったように見える『ドイツ軍』。召喚獣だというのに人間臭い。
いや、人間を召喚しているのだから当然か。
魔力のつながりを解くと、キラキラとした光の粒子を纏って砂人形と化していくようにサァァァァ……と風に流れていく。
あとには、僅かに戻った魔力と、彼らの頼もしさだけが残る。
それは一種、寂し気でもあり──。
いや。
さて、次に行く……。
ナセルがそう決心した時、それは来た。
移動のための召喚獣を呼びだそうとしていたナセルの視界を黒い影が覆った。
それは一瞬であったが、間違いなく何かが上空を航過していったのだ。
そしてその影が地上を滑っていく────。
ナセルにとって、それは馴染み深いものだった。
「な! なに!」
ガバリと顔をあげたナセルの視線の先には──……。
「『ドラゴン』…………!?」
赤い鱗肌に凶悪な顔つきの巨大のドラゴン────そして、その背に跨るのはッ!!
「『ドラゴン召喚士』Lv6……レッドドラゴン(大)を操る男……──!」
ヴァッサ、ヴァッサ……!
ナセルを視認したのか、そいつはドラゴンをゆっくり旋回させて低空飛行に移る。
そのままナセルの目前まで降りてくると、着地せずにホバリング。
ドラゴンの翼が立てる風の対流が埃を舞い上げた。
「ほっほっほ。久しぶりじゃなー、ナセル・バージニア」
「お久しぶりです……校長先生」
小汚い冒険者の格好をしたナセルと、豪奢なローブに身を包んだ翁。
「おー……久しぶりの呼ばれ方じゃなー……もう、何年になる?」
「…………昔話をしに来たわけではないですよね?」
殺気を纏った状態でいわれているのだ。いくらナセルが鈍くとも気付く。
「せっかちな奴じゃ────」
ナセルの覚悟と敵対意思を確認した翁は口の端を歪めて笑う。
「ま、だからこそ壊しがいがある!」
「──ッ! やはり追手か!」
上品に笑っていたかと思えば、年齢を感じさせない猛々しい笑みを浮かべて翁。
むしろ、この凶悪かつ凶暴な雰囲気こそが彼足らしめている気がするほどだ!
「やれぇぇ! 反撃の暇など与えるなッ」
──コォァアアアアアア!!!
「チィ!」
ナセルの目の前で、レッドドラゴンの口腔に赤い光が溜まっていくのが見える。
別名、炎竜────奴の……レッドドラゴンの得意技、高熱のドラゴンブレスだ!!
「すぐに死んでくれるなよ? 小僧ぉ!」
嗜虐心に満ちた顔で笑う翁。
ドラゴン召喚士Lv6──この国でもっとを強い召喚士。
そして、由緒正しき、謎の部隊────魔法兵団の元帥にあたるその人物──!!
「龍使い」のバンメル!
「やれぃ! レッドドラゴン!」
「こなくそぉ!」
ナセルは召喚獣のステータスを呼びだし、戦車を召喚しようとする。
あの鉄の中なら大丈夫かもしれないと──。
ブゥン!
ドイツ軍Lv3:
※ ※ ※:
ドイツ軍Lv0→ドイツ軍歩兵1940年国防軍型
Lv1→ドイツ軍歩兵分隊1940年国防軍型、
ドイツ軍工兵班1940年国防軍型、
Ⅰ号戦車B型、
Lv2→ドイツ軍歩兵小隊1940年国防軍型、
ドイツ軍工兵分隊
Ⅱ号戦車C型、
R12サイドカーMG34装備
Lv3→ドイツ軍歩兵小隊1942年自動車化
※(ハーフトラック装備)
ドイツ軍工兵分隊1942年自動車化
※(3tトラック装備)
Ⅲ号戦車M型
メッサーシュミットBf109G
(次)Lv4→ドイツ軍装甲擲弾兵小隊1943年型
※(ハーフトラック装備)
ドイツ軍工兵分隊1943年型
※(工兵戦闘車装備)
ドイツ軍砲兵小隊
※(軽榴弾砲装備)
Ⅳ号戦車H型、
ユンカースJu87D
Lv5→????
Lv6→????
Lv7→????
Lv8→????
Lv完→????
Lvが上昇!?
その瞬間に、ナセルは間髪入れずにⅢ号戦車を召喚する。
「こい────Ⅲ号戦車ぁぁぁぁぁ!」
────ブワァァァァァァ!!!
一回り大きな召喚魔法陣が生み出されると、そこに──!
ズゥゥゥゥゥウウウンン!!!
シュゥゥゥ……。
「で、でかい──────……」
「な、なっじゃそれは!?」
『準備よし!』
操縦手席、無線手席、砲塔のハッチが開き、4名の乗員が現れた。
「早く乗せろ! ブレスが来る!」
キョボォォォォオオオオ!!
ナセルが乗員とともにⅢ号戦車に乗り込んだ瞬間を見計らったかのように、ドラゴンブレスが戦車を嘗め尽くす。
ブゴゥゥゥゥウウウウウ!!!!
ッ──……。
ッ!!!
鋼鉄の戦車の中にムワッとした熱気が押し寄せるが──。
『危なかったですな。M型は特に密閉率が高いので無事でしたが……』
渡河することも前提に入れているⅢ号戦車M型は要部の水密構造がしっかりと取られている。
それが故に、ドラゴンの熱も防ぐことができたようだ。
とは言え、ドラゴンブレス──取り分け熱量に特化した、炎竜ことレッドドラゴンの炎はフルプレートアーマーを着こんだ騎士をドロドロに溶かすくらいには高熱の炎を吐く。
「くそ! 死ぬかと思った……バンメル──龍使いと言われるも、別の二つ名は殺戮翁」
かつて魔王軍との戦争では大活躍をしたバンメルだが、あまりにも苛烈な戦いをすることで敵味方双方に恐れられていた。
捕虜ごと焼き殺すのは日常茶飯事で、
下手をすると乱戦中の味方部隊がいてもお構いなしにドラゴンに攻撃させる。
もっとも──それはバンメル曰く、その戦場が押し負けるのがわかっているから……だそうだ。
実際、全ての乱戦にドラゴンを投入するわけではない。
勝ち目が薄いと判断した戦場にドラゴンを投入し、敵ごと焼き払っているのだという。
確かに、中途半端に数を残して撤退されたほうが、策源地を逆に辿られることにより、追撃戦による大損害を被ることもある。
時には全滅どころか後方すら巻き込みかねない危険なこともあるのだとか……。
とは言え……だ。やられる側はたまったものではない。
それにあの翁ときたら、
味方ごと焼く尽くす時ですら、ゲラゲラと高笑いしながらドラゴンを操っているのだ。
──その見た目のインパクトは強い……嗜虐心があって殺戮を好んでいると思われても仕方がないだろう。
で、だ。
そんなこんなで、一度は閑職である──兵を育てるための学校長に収まっていたようだが……いつの間にか元帥になっていたとは。
ナセルがドラゴン召喚士になるために学んでいた時代に、たまたま閑職に追いやられていた時のバンメルが学校の校長であったのだ。
懐かしいなんてものじゃない。
もっとも、当時のバンメルは人のいい好々爺にしか見えなかったが……。
ま、思い出なんて今更どうでもいい。
多少は、同じドラゴン召喚士として目をかけてもらっていた気もするが、今となっては『異端者ナセル・バージニア』と『王国の隠し刀たる魔法兵団元帥』だ。
もと恩師とはいえ……。
いまは、敵も敵────怨敵だ。
……やるしかない。
それにバンメルはやる気十分だ。
だったらよぉ……。
──やってやんぜ!!!!
熱気に包まれる車内の温度が僅かに下がる気配。
外で空気が焦げる嫌な音も不意に止んだ気がした。
…………。
「ブレスが収まった? 『軍曹』──ドラゴンを落とす。攻撃開始!!」
『了解!!』