第25話「王国の要」
「謎の軍隊じゃと?」
「はッ! 神殿騎士団の者はそう申しております」
城内の豪華な執務室で報告を受けていた国王は首を傾げる。
「いずこの国か? 所属の旗くらい持っておろうが──」
「分かりません。目撃証言は多くありますが、どれも要領を得ないものでして……」
執事のような恰好をした国王付きの連絡官は困り顔だ。
「ふむ。ま、よい。で──」
「は。教会本部は壊滅……聖女像は損壊、神官長は現在交戦中らしいですが、長くはもたないだろうと……」
あの神官長どのが、……なんと痛ましい──と、
顔を歪める連絡官に比して、王は逆の表情。
「ほほう!? 神官長もか。うむうむ、それはよい──」
「は? 今何と……」
「ん? それは良いと言ったのだよ。教会本部のここ数年における発言力の増加は、少々目に余るものがあったからのー」
王国での宗教を司る教会と、政治を司る国王。
民からすれば、心の拠り所となる教会のほうが信じるに値すると思われているので、王としては面白くない。
税を獲る王国に対して、教会は寄進を募るのみ。
渋々出すお金と違って、教会には人々が自ら喜んで金を差し出すのだ。
まったく理解の範疇からスポーンと抜けるものだ。
「よいか、軍に連絡しておけ。──神殿騎士団は今日をもって解体するであろう。──希望する兵は王都警備隊にでも編入してやれ」
「よろしいので?」
「ロクに戦争にもいかん騎士団など目障りなだけだ。まずは教会の軍事力を奪う」
くっくっく、と──意地悪く笑う王は、この事態さえ利用しようという。
王都における教会は、確かに教会における最大勢力ではあるが、総本山は別にある。
あくまで、聖女教会という巨大組織の一部でしかない。
とはいえ。世界一の国家たる王国での権威失墜と武力の消滅は容易に回復できる損失ではない。
教会にとっても、かなりの痛手であることは間違いない。
「畏まりました──手配いたします。それと、」
「まだあるのか?」
「──は。例の軍隊ですが……ナセル・バージニアが指揮していたと報告があります」
…………。
「……誰じゃ?」
ううん?
と怪訝そうな顔をした国王に、
「え~っと……ほら、勇者の──セ……女の……元旦那です」
…………。
「……! あ、あーあーあーーー! あのドラゴン召喚士か!」
「そうです。もっとも異端者の焼き印のせいで『ドラゴン』は二度と呼べないでしょうが……」
天井を見上げて思案しているらしき王は、
「ふむ……そ奴が軍隊を指揮しておるとな……。賊の類と思ってよいのじゃな?」
「はッ。恐らくは……少なくとも、冒険者ギルド、教会本部は奴が指揮した軍隊が破壊したと思って間違いありません」
「なるほどのー……全てを奪われた復讐か。どこぞで賊を募ったか──」
「えぇ……。しかし、賊にしては強すぎます。恐らくですが、どこかの国の支援を受けている可能性も考えるべきかと……。聞けば奇妙な鉄の馬車すら持っていたと」
ふむ…………。
「魔王軍ではないのだな?」
「はい。奴の軍隊は、間違いなく人間であったそうです。それと、……魔法の使用が確認されました」
「ふむ? 魔法兵の軍隊か……そんな軍を運用できるのは我が国か、──帝国くらいなものじゃな」
王国と隣接する帝国という巨大軍事国家がある。
王国以上に精強な軍隊を誇り、領土も拡大し続けている新進気鋭の大国だ。
現在は魔王軍との戦いがあるため、王国と帝国は同盟を結んでいる。
いるが……、魔王を退けたならば、今度は帝国と雌雄を決する時が来るだろう。
「帝国の威力偵察の類であろうな。……よし、近衛兵団を招集する。あと──」
「はッ」
「王立魔法兵団から、奴を呼べ」
ギョっとした顔の連絡官。
「龍使い──で、ありますか!?」
「そうだ。『ドラゴン召喚士』は何も奴だけではない。ふむ──ナセル・バージニアか……。ドラゴンに殺されるなら、奴も本望じゃろうて」
しみじみと語る国王の言葉を受けて、
カツン! と、踵を合わせた連絡官は腰を丁寧に折り曲げて一礼。
「畏まりました──」
そのまま、定規の様にキリリとした所作で執務室をあとにする。
あとには国王が残された。
──立ち上がった王は窓枠に近づく。
「ほう……燃えておるな──」
彼の視線の先には教会本部があったらしい。
今は見るも無残に崩れ去り、巨大な聖女像がボロボロの姿になっていた。
それだけではすまないらしく、
攻撃は継続しているのか、徐々に砕け、潰れ、小さくなっていく聖女像。
彼方からは雷の様な激しい音が響き渡っていた。
奴とは何者か?
いよいよ反撃が来るらしい、
新章始動!
王国反撃編!!
さすがに一国の王──。
一筋縄では行かない……?
だが、こっちはドイツ軍だ!!!




