第16話「冒険者ギルドをぶっ潰せッ!!」
戦車の後方では派手に戦闘が繰り広げられているらしい。
『軍曹』の威勢の良い号令と共に、阿鼻叫喚の地獄絵図が生み出されているのだ。
その結果には毛ほども興味はない。
こんな国など消えてしまえばいいのだ。
そして、まずは──────。
「てめぇだ!!」
啖呵を切って最後通牒。
──無茶苦茶にされたのだ。
人生を……。
誇りを……。
家族を……。
俺の大事な人々を……。
未来も、将来も、先行きもなくなり――──。
大事な、大事な、ナセルのドラゴンさえ奪われた。
だからさ──────……。
思い知らせて何が悪い。
全てに復讐をして何が悪い。
「──何が悪い!!!!」
空に吼えるナセルに対し、それを全否定する無粋な一発が……。
バキィン!
──と、盛大な音をたてる。
見れば、砲塔に巨大なボルト弾が当たって火花を散らしつつ跳ね返っていた。
何事かと思えば、ギルドマスターの奴が大型ボウガンを構えてナセルを狙っているじゃないか。
ほぉぉぉぉ――……。
じょー、
「──等じゃねぇか!」
「ッッ!! くそ、外した……! ナセル! てめぇぇやり過ぎなんだよ!!」
ハッ???
はぁぁぁぁぁぁぁ!?
ああああん、ごらぁ!?
おいおいおいおいおいおいおいおい、お~~ぃ!
なぁにが……。
──何がやり過ぎだ、このボケェェェェ!!
「テメェが言うな!!!」
ガシャキ!
砲塔に潜り込むと、すぐさまクランクハンドルを回し、砲塔を操作し仰角をとる。
クゥィィィィン……と、MG13をギルドマスターに指向した。
──正確には奴がいる部屋だ。
照準の先にて、奴が慌ててボルト弾を再装填しているのが見えたが……。間に合うかっての!
つーーーか、効くか、ボケ!!
はっはっはぁぁ!!
「簡単に死ねると思うなよ!!」
「ひぃぃぃぃ!」
散々、機関銃の威力を見せつけてやっただけに次に何が起こるのかを理解しているのだろう。
すぐに頭をひっこめるギルドマスター。
だが関係ない。
その薄っぺらいギルドの壁で──────……機関銃が防げるかッ!
「死ねッ、クソギルドマスターが!」
ナセルは大雑把に狙いを付けると引き金に指を掛ける。
一拍の後──その指が、ククン…と、引き金を引くと、
ガァン──……。
ガンガガッガガガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガ!!
ナセルの怒りを代弁するが如く、MG13の銃口からは7.92mm弾をこれでもかと吐き出される。
一発一発が全ての恨みだ、怒りだ。
兵も戦車もナセルの召喚により生まれたもの──。
これはまさしく怒りなのだ。
そうだ!
これはまさしく、
恨みで怒りなのだ!!
「しぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ガガガガッガガガガッガガガガッガガガガ!!
銃弾が当たる度に木と石組で作られた冒険者ギルドが穴だらけになっていく。
パラパラと舞い散る土に木材。
そのうち……。
ズゥゥゥゥン……! と、
何発も撃ち込んでいけば、破壊に耐えきれなかった正面の壁がすっからかんになった。
まだだ!
まだまだぁぁ!!
次ぃ!!
ガガガガッガガガガッガガガガッガガガガ!!
弾倉を交換して撃ちまくれば今度は屋根が抜けた。
ガラ、ガラガラッ……ドゥゥン────……。
エンジン音と銃撃の合間に、確かに中から悲鳴が聞こえた。
「(ひゃああああああ!!)」
いいぞ、いいそ。
はっはっはぁぁぁ!
まぁぁだ、生きてるよなぁぁ。
弾倉交換っと、
「まだまだぁぁぁっぁぁ!!」
ガンガガッガガガガガガガガッガガガガッガガガガッガガガガッガガガガ!!!
撃ちまくりに、撃ちまくる。
ズズズ……ドッスゥゥゥン!!!
そのうちに二階が抜け落ちた。
ボファァァ……! と盛大な音とともに砂埃が立ち昇る。
あれでは建物の下にいたものは全員まとめて潰れているだろう。
もっとも、この状態で建物に残っているのは──アホのギルドマスターくらいだろう。
利に聡い冒険者ならとっくに逃げているだろうし、
ギルド職員にも、ギルドとともに殉教する意思などあるはずがない。
あの瓦礫の下にギルドマスターが一人で埋もれていると思うと……。
あーーーーーーいい気味じゃぁぁぁ!!!
昔の職場……。
俺をはめて殺そうとした職場……。
汚物を投げて殴り蹴られた職場……。
そして、アリシアと知り合った思い出の場所────。
セイセイするわッ!
消えてなくなれぇ!
「おらぁぁぁ!」
最後に、ガガガガガガガガガガガガン、と弾倉に残っ弾を全部叩き込んでやると、四隅の柱も砕け散ったのか──おもちゃ箱の箍が外れた様に四方の壁が外側にバターン! と倒れて冒険者ギルドは吹きっ晒しになった。
ははは!
見ろ、まるでゴミ箱のようだ!!
だけどよぉぉぉぉ……。
これで死ぬタマじゃねぇだろッ。あぁぁん!? クソマスターめが。
剣聖の末裔の根性見せてみろや!!
ナセルはギルドマスターがこれしきで死ぬような男には思えなかった。
そして、その確信があったからこそギルドをぶっ壊してやった。
さぁ、あとは仕上げだ!!
「軍曹、戦車を前へ」
『了解』
操縦手たる軍曹に命じる。
バリバリ! とギルドの成れの果てを踏みつぶしながらナセルは戦車にて乗り込む。
木材やら石組みが崩れて無茶苦茶になっているが、ギルドマスターを仕留めた手ごたえはない。
だから、炙りだす様に丹念に戦車の履帯で轢き潰していく。
5.4tの戦車だ。
木片や人の手で組んだ石組などボロボロに踏みつぶす。
時々、瓦礫を噛んで履帯が詰まりそうになるが、エンジンの轟音はそれを乗り越えていく。
ついには全ての瓦礫をぺしゃんこにして冒険者ギルドを更地にしてしまった。
残すは──────。
ポツネンと瓦礫の山に残った金属の箱……ギルドの売上金を納める金庫だ。
これは基部に固定されているため持ち出すこともできない不動の要塞。
人が優に2、3人入れるほどで、中にはお金以外にも貴重品や重要書類がギッシリ詰まっているのだろう。
そして、今まさに──中からは人の気配が色濃く漂い出ていた。
「はッ。ギルドマスター様の最後の家か?」
ガコンとハッチを押し開けると、ナセルはケリを付けに向かう。
手にはMP40を持っているが……。
流石に鋼鉄製の金庫には効かないだろう。
だが、
「よう? 居心地はどうだい?」
ゴンゴンと外から叩けば、中からくぐもった悲鳴が聞こえる。
「(な、ナセルか?! うううう……お、俺が悪かった! だからもう許してくれ!)」
「悪いな……良く聞こえない」
ジャキリ。
「ノックしてみるか?」
パパパパパッパパパパパパパパパパッパパパパパパパン!!
MP40の9mm弾は快調に連射を叩きだす。
その全ては耳障りな反跳音を立てて跳ね返されるも、中にいる人間からすれば恐ろしい振動だろう。
鍋を被ったところをハンマーで連続で叩かれるようなものだ。
想像しただけでも頭痛がする。
「(ひぃぃぃ!! や、やめてくれ!!!)」
「はぁ? はああぁぁ!? やめてくれダァ? ……お前よぉぉ──……俺の身に起こった事で何か一つでもやめてくれたことあったのか?」
「(おおおおお、俺は反対したんだ! 本当だ! だけど、国や教会の圧力もあって──)」
「──────……ふ。…………嘘をつくんじゃねーーーー!!!」
ガキィン!!
MP40を棍棒代わりにして思いっきりブッ叩く。
それくらいでは小動もしないが、中の人間には派手な音がしてさぞ驚くだろう。
「──テメェのせいで、コージがうちにきた!」
「(そ、それは──お前の将来を考えてだな)」
ガキン、ガキィン!!
「──アリシアとコージがヨロシクやってたのも知ってたんだろうが!」
「(よ、よせよ! それはお前の女房の扱いが──)」
ガッッッキィィィィン!!!
「──やかましいわ!!!」
「(や、八つ当たりだろうがそれは!!)」
ガンッ──────。
「だったら何だってんんだ!! 俺を殺そうとしたのは事実だろうがッ!」
「(ぐぐぐぐ……大人しく聞いていればいい気になりやがって!)」
手元のMP40は既にボロボロ。
もはや鈍器にもなり得ない。
これも召喚獣の一種らしい、ポイッと捨てれば光の粒子になって消えていく。
「オマケにギルド中でグルになって俺の悪評をばら撒いた挙句──! 散々コケにしてくれたよなぁぁぁ!!」
「(…………あ、当たり前だ! 当たりまえだろうが!! お、お前はクズだ! 異端者だ!! ………………だ、誰がテメェの話なんて聞くかーーーー!)」
中で叫べば自分だって苦しいだろうに、それでも逆ギレしたギルドマスターはナセルを罵倒する。
「(手も足も出ないくせに、わけの分からん召喚獣を連れてきたくらいでいい気になるな! 国が本気になればなぁぁ)」
「──教会や騎士団……そして、勇者が出てくるってか!? 上等だ!!」
むしろそれを望んでんだよ!!
ゴカァァァン!!
苛立ち紛れに思いっきり蹴り飛ばしてやる。
はッ──教会に騎士団に勇者がどうした?
上等上等ぉぉ、望むところだ!!
「(……おらぁぁ! どうした! 俺を殺してみろよ~)」
内部でギャハハハハハと笑う声まで聞こえてくる。
金庫が破壊できないと思って余裕でいやがるらしい。
だが、甘いんだよ……。
「あ~おーあー、殺してやるよ。そろそろテメの、くそダミ声も聞き飽きたぜ」
「(ほざけッ)」
今のうちに吼えてろ。
手も足もでないってか?
……甘いんだよッ。
目に物見せてやる────。
「こい!! 『工兵一個班!』」
ナセルの叫びに応じるように召喚魔法陣が現れる。
歩兵一個分隊を呼んだ時より遥かに小さく──……。
少数の規模の者が召喚されたらしいが、
『集合終わり!』
バシリと敬礼する軍曹の階級を付けた兵の他5名。
大量の荷物を担いだ、完全武装のドイツ兵が現れた。
背嚢の他に、胸の前に雑嚢まで持っている。
特殊なところでは小銃をもっているものの、それよりも目立つのは大型のスコップだろうか。
兵隊というよりも、現場の土工と言った雰囲気がする。
「軍曹、コイツをこじ開けてくれ」
『了解』
バシリと敬礼をしたあとキビキビと動き出し、あれこれと金庫を触り始める。
「(お、おい! 何をするつもりだ! いい加減諦めろ、このクズ野郎!)」
せいぜい言ってろ……。
『報告します! 3kg梱包爆薬による爆破、……または成形炸薬による爆破が可能です』
律義に敬礼する彼の言葉を吟味する。
「成形炸薬というのは?」
『はッ。これであります』
工兵隊軍曹が取り出したのは、背嚢に仕舞われていた金属製の漏斗のお化けみたいなやつだ。
『これは指向性爆破薬であります。固定した方向に向かって高熱のジェットを吹き出し、分厚い装甲を溶かして穴をあけることが可能です』
ドイツ軍工兵器材。
成形炸薬筒。
爆薬にすり鉢状に溝を付けたことにより、高熱のジェット噴流を生み出し指向性を与えて焼き溶かす爆薬である。
ドイツ軍では、ベルギー侵攻の際に、エバン・エマール要塞攻略時に空挺部隊が使用して大きな成果をあげている。
ツラツラと工兵が器材の説明をするが、
ナセルには半分も言葉の意味は理解できなかった───。
できなかったが……。
「ほぅ……溶かすのか」
それは良いことを聞いたと言わんばかり。
ニィィと凶悪に顔を歪める……。多分子供が見たら泣く顔で──。
「ならばそれで行こう」
『了解!』