占い師
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Side 悠馬
太陽が山の端にさしかかり、真っ赤な夕陽に変わり始めたとき、優真はアイテム探しの手を止めた。
「とりあえず食糧も一通り揃ったし、今日はここまでにしようか」
直に陽が落ちれば、拠点に定めた廃村にも帰れなくなるかもしれない。優真のその意見に特に反対も出ず、アイテムキーの回収作業はそこまでとなった。
それから、改めて全員で今日の収穫を確認したが、作業を開始する前の予想を上回る豊作だった。
「私はてっきり乾パンとかしかないと思ってましたけど……」
「僕もそうだったよ」
柚希と共に見つめる先には、お湯で沸かすタイプの即席カレーセットがある。
これが入っていたアイテムボックスの中には、親切なことに四つの飯盒と米、箸までも用意されており、内容としてはどう考えてもキャンプカレーを作れということだろう。
「私たちがカレーを食べればゲームは盛り上がるのかしら?」
廃村にある拠点に帰ってきたあと、本気とも冗談ともつかない遥香の言葉に全員が苦笑しつつ、それぞれ役割分担した僕達は手早く夕食を作り始める。
女子は食糧の下準備、金木が焚火をくべるための木の枝集め、そして僕と優真でかまどづくりといった具合だ。こうしていると、本当にキャンプをしているみたいだ。
「…………」
しかし、と僕は思う。
焚火をすることに反対意見が出なかったということは、今集まっている連中のクリア条件は僕と同じく平和な内容なのだろうか。でなければ、外で焚火をするという、他のプレイヤーに居場所を伝えるも同然の行為をこうも簡単には行えない。
または、あの中には既に喰人がいて、僕達が隙を見せるのを虎視眈々と狙っているとか? いや、そもそも僕は他のプレイヤーのクリア条件を全く把握していない。同じサイド、役職のプレイヤーでも、クリア条件が違っているのか同じなのかも判断がつかないし、下手をすると喰人サイドのプレイヤーのクリア条件でさえ、実は温厚な内容だという可能性もある。まあだとすると、このゲームも一種のドッキリみたいなものになるだろうが、まあ、ここまで凝っているのにそれはないだろう。
「天道くん、着火剤になりそうなものを集めて来たよ」
「ありがとうございます、先生」
燃やすものを集めてきた金木が帰ってくると、早速完成したかまどに葉っぱなどを入れ、それに優真はライターで火を点ける。このライターもアイテムボックスに入っていたものだ。
「今日は風もあるし、上手く点いてくれるといいんだけど……」
優真の杞憂は心配に終わり、やがてかまどには小さな火種が出来た。
そこに、優真は手慣れた様子で木の枝を組んでいき、火はやがて十分な熱量を持つようになった。
「静花、持ってきていいぞ!」
「はぁーい!」
やがて拠点としている家屋の中から女子たちが姿を現し、米が入った飯盒をかまどの上に置いていく。優真や静花のそれは実に手慣れていて、僕はほとんど見ているだけで大丈夫だった。
夕陽が完全に沈む頃には、ちゃんとしたカレーが各人の手元に渡り、僕達はゲーム初日の夜を、かなり満足のいく食事で迎えることができた。
「食糧については、あまり困ることはないかもしれないな」
食後にみんなで焚き火を囲んでいたとき、優真がそうポツリと漏らした。
「うん、二時間くらいしか探す時間はなかったけど、それでもみんなで食べられるくらいには集まったもんね」
「未来はあんな量じゃ足りないよー」
「そう言ってあんた先生と後輩からもカレーもらってたじゃん。あんな食べたら逆に太っちゃうんじゃない?」
遥香の言う後輩とは柚希のことだ。
それに対して未来は堂々と一言、
「未来は育ちざかりなのー!」
優真の対面に座っていた未来を隣に座っていた静花が「よしよし」と宥める。完全に子ども扱いだ。未来も高校生とは思えないくらい子どもっぽいが、静花は静花で高校生とは思えない母性愛を持っている。二人とも違う意味で同級生には思えない。
「それにしても、改めてとんでもないことに巻き込まれたな……」
少しの間出来た沈黙を埋めるよう意識したわけではないだろうが、優真は息を吐くようにそう言った。
「でも、みんなで協力すれば大丈夫だよ!」
「それなんだけどさ、ずっと言おうと思ってたんだけど、そろそろみんなの役職とクリア条件を確認しておかないか?」
まるでなんてことないかのように言う優真。僕の方は「ちょ、おまっ」と慌てた声が喉まで出かかった。
「うーん、流石にそれはどうかな……このゲームの全貌がまだまだ見えていない以上、情報の価値は確定しないから、まだ保留でもいいんじゃないかな?」
僕の言葉を代弁するように、そうやんわり言ったのは最年長の金木だ。
「うーん、それも確かに分かりますけど……未来、このゲームに似てるって言ってた狼ゲームは、話し合いが中心なんだろ? こういうとき、狼ゲームだったらどうするんだ?」
「ふぇ?」
完全に他人事として聞いていたらしい未来は、素っ頓狂な声を上げた後、可愛らしく首を傾げた。
「うーんとね、狼ゲームだと占い師が名乗り出るのがセオリーかな」
お前、セオリーって言葉知ってたんだな、と思ったのは秘密だ。
あ、絶対柚希はそう思ってる顔だな、あれ。
「占い師っていうと、一日に一度、喰人かどうか占えるって役職か」
「狼ゲームでは狼さんだけどね。とにかく、それで名乗り出た占い師が占い結果を公表するの。優真くんは村人でしたーとか、斎藤くんは狼さんでしたーとか」
おい、今の例えには悪意がないか?
「……でもさ、それだと一回目に占い師が占った相手が狼じゃなかったら、そのあとすぐに狼に狙われるんじゃないの? 放置してたら、いずれ自分を占われて狼だってバレるわけだし」
「戦士がいるから大丈夫だよ!」
「戦士……?」
質問した遥香が目を瞬かせる。彼女は僕と同じく狼ゲームを知らないので、未来が当たり前のように言った役職らしい名前の能力も、当然のごとく知らない。
すると、それを察したらしい同じくゲームを知る静花が助け船を出してくれた。
「えーとね、戦士っていうのは村人陣営の役職の一つで、一日に一度、プレイヤーの一人を狼から護ることができるの。けど、戦士は自分自身が襲われたらやられちゃうから、戦士はいかにして狼に自分が戦士だとバレないか、そして狼はいかにして戦士をみつけて、先に倒すかが重要になってくるの」
「ふーん、そういうこと」
静花の丁寧な説明に、遥香はそっけなく返事する。これで友達が多いのだから不思議だ。
しかし、静花の説明で狼ゲームについては大体分かったが、同時にこのゲームとの相違点についてもはっきりした。なにせ、このゲームは狼ゲームとは違い、話し合いがメインではない。そもそも、他のプレイヤーがどこにいるのか分からないし、極端な話、村人が一人で喰人を返り討ちに出来る可能性すらあるのだ。喰人の能力が分からない以上、もちろん過信は禁物だが、今日、アイテムボックスの中に入っていた“アレ”の存在などから、村人でも決して喰人には敵わないというわけでは無いのだろう。昼の説明会での運営の口ぶりからしても、役職ごとの公平性は重視しているように見えた。
とにかく、これは狼ゲームとは違う点も多く、あえてセオリー通りに動く必要もないだろう。
「あの、それじゃあ話しておきたいことがあるんだけど」
「うん? どうしたんだ、遥香」
「私、実は占い師なんだ」
「……え?」
間抜けな声を上げたのは、今回は僕一人だった。
一斉に視線が僕へと集中し、慌てて弁解する。
「いや、だって狼ゲームとは違って、この場に戦士がいるとは限らないんだよ? だから、ここで名乗り出るのは危険じゃないかなって思って」
「どのみち、こんな変なゲームに巻き込まれた以上、危険なのは変わらないでしょ。それなら、情報を最大限公表して、みんなで攻略法を考えた方がいいんじゃない?」
「それは……」
確かに考え方としては間違っていない。しかし、それは集団のメリットだけを見た話であって、デメリットについて――つまり、この中に喰人がいる可能性を全く除外しているように思えた。
「は、遥香……それ、ほんと?」
「うん。それに実はもう占いのスキルも使ってみたんだ」
「ええっ!」
「ちなみに、未来は喰人じゃなかった」
「ふぇえっ、未来、疑われてたのぉ!?」
なんというマイペース。静花と未来は交互に目を丸くした。
「未来を選んだのはなんとなく。強いて言うなら、一番最初に会ったのが未来だったから」
「あはは……遥香はほんとにぶれないな……」
苦笑する優真は、しかしすぐに真顔になると、
「俺も正直に言うよ。俺は村人、クリア条件はアイテムキーを五個持った状態で七日目を迎えることだった……みんなにも役職とクリア条件は正直に話してほしいけど、無理強いはしない。一時間だけ時間を取るから、それまでにみんなもしっかり考えてほしい、俺たちと、協力する道を選ぶか……それとも――」
そういって、唐突な自由行動を宣言した。
その後、一時間は各自自由行動になったわけだが、あの中に喰人がいる可能性は捨てきれないということで、原則は単独行動禁止となった。
それでも、一人になって考えたいということがあれば、十分間だけ自由行動とし、それを越えても帰ってこなければ、その人は「そういうことだ」という扱いにするそうだ。今はみんながいるところに“アレ”もあるし、いくら喰人が強い力を持っていても、あの人数差では襲撃も難しいだろう。
十分間の単独行動は、他から疑惑の念を多少抱かれるが、それ以上のメリットもある。
僕は一時間の思考タイムが始まってから十五分後に単独行動を申し出ると、今は説明会があった廃村の中央、集会所へと再び足を運んでいた。
僕には今日、どうしてもここで確認しておきたいことがあった。
「帰りの時間も考えると、呑気に探している時間はないな……」
僕は、偶然見つかる恐れのないポイントを中心に、携帯の「スキャン」を起動させて、“それ”を探し始めた。
説明会のときに僕が感じた違和感、それは金木が見つけたというマイクロチップだった。
別に、集会所にマイクロチップが隠されていたこと自体に違和感はない。僕がひっかかったのは、マイクロチップの中に入っていた情報に、村人サイドの役職しか書かれていなかったことだ。
説明会のときにあれだけ平等性を強調した運営が、まさか片方のサイドの情報しか提示しないはずはない。おそらく、あそこにはもう一つのマイクロチップ、つまり喰人サイドの情報が記された隠しアイテムがあったはずだ。
無論、金木がそれを見つけられなかった可能性はあるし、既に他のプレイヤーが持ちだしている可能性だってある。しかし、僕の予想が正しければ、そのマイクロチップは――
「あっ……」
スキャンに反応があった。
僕は、反応があったところ、集会場の壁際に埋められていた“ソレ”を発見し、自分の予感が的中したことを悟る。
――そこに埋められていたのは、何者かによって粉々にされたマイクロチップだった。
「間違いないな……」
あの中に。あの六人の中に、喰人が交じっている。それで、僕のこれからの方針は決まった。
未だ他のプレイヤーのクリア条件は分からないが、僕にだけ限った話で言えば、最低限の食糧を確保しながらアイテムキーを探し、コソコソ七日間逃げ回っていれば自動的にクリアになる条件だ。隠されているアイテムキー自体も極端に少ないわけではないことが今日の捜索でも分かったし、最低限僕が喰人じゃないことを強調してから集団を離れ、単独行動に移ろう。喰人が集団から離れた僕を襲ってくる可能性はあるが、幸いあの集団は今、隣人同士で見張っている状態にも等しいので、無暗に動くことは出来ないはずだ。それに何より、僕は昔からかくれんぼが得意だったしね――
そうと決まれば時間もない。急いで優真たちと合流し、お暇を告げるとしよう。
そうして拠点に戻ろうとしたとき、
「見つけたの♪」
不意に、背後から声が聞こえた。
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