ゲームクリア
途中、長期の休載等がありながらも完結できました。本当に最後まで読んでくださった人への感謝しかありません。
――――終わった。
優真がもう動かないことを確認した僕は天を仰ぎ、ゆっくりと息を吐いた。複雑に絡み合った感情はそれで霧散した。感慨に耽るには色々なことがあったし、何より僕自身人を殺し過ぎていた。
そのとき、聞き覚えのある軽快な電子音が聞こえ、そちらを向くと案の定柚希の端末から出たものだった。彼女も無事クリア条件を満たせたらしい。
「もしかしたら、とは思ったけど、まさか本当に柚希と二人でクリアできるとは思わなかったよ」
「……どうして、私を助けたの」
失った腕を庇いつつ、柚希は僕に問いかけた。
「先輩はやろうと思えばさっきの時点でクリアできたよね? それなのにどうして私を助けるためにわざわざ危険な真似をしたの」
「そういうことを訊くのは野暮ってものだと思うけど」
「いいから答えて!」
真剣な顔で見つめられ、僕は溜息を吐いた。やれやれ、早くゲームをクリアしたいというのに。
「別に、大したことじゃない。ただお前には回復薬をもらった借りがあったから、それを返しただけだよ」
「それ、先輩は私を騙した見返りで寄越せっていったやつじゃん」
「あーそういえばそうだったかもな、すっかり忘れていたよ」
「…………(じー)」
なおも追及するように僕を見る柚希の視線をどこ吹く風とばかりに受け流す。本当のことを言えば、ただ単に優真よりも柚希とゲームをクリアしたかっただけだ。優真と僕がゲームをクリアすれば、確実に彼と僕の間では確執が残る。それは今後生きていくうえで大きな障害になりかねなかったし、その点柚希と一緒にクリアすれば問題は解消されるうえに恩義を感じてくれるかもしれないと思ったからだ。まあそれにしても危険な橋を渡ったことには変わりはないため、いわゆる魔が差した、というやつだろう僕は勝手に解釈した。それ以上は自分の本質的な部分が揺らぐように感じたからだ。
「……ま、いいや。一応礼を言っておくね、ありがと、先輩」
そこでようやく柚希は観念して視線を外し、ぶっきらぼうにそういった。明らかに心のこもっていないような言い方だったが、ちらりと見えた耳元が紅潮していたので、僕のねらいは十分に達成できたということだろう。
「それよりも、早くここから出ようよ。この怪我、治るのかな」
「柚希って案外図太いよね。女の子ならそれ、けっこうショックでしょ」
僕は柚希のなくなった腕の先を見て言った。
「うーん、なんか、今は感覚が麻痺してるっていうか。さっきまで生と死の狭間にいたような感じだから今は実感が湧かないだけで後から来るのかも。あ、そう思ったらまた痛くなってきた」
「それじゃあ早くクリアしようか」
僕と柚希は、端末の『YES』を同時に押した。
その瞬間、視界が急速に遠のき、まるで奈落の底へ落ちていくように意識が深層へと沈んでいく。
目の前の映像が消える直前、困ったように笑う柚希の顔が見えた。
目が覚めると見慣れた白い天井が見えた。
「“ユウマ”、目を覚ましました」
どこからか声がする。それはまるで水の中にいるかのようにやけに遠く、そして不鮮明に感じとれた。
「脈拍、脳波は」
「全て基準値です。これまでの実験結果と変わりません」
「……今回も失敗、か」
気づけば、僕の全身は拘束され動けない状態にあった。瞳を必死に上へ上げれば、自分の頭には自転車のヘルメットのような武骨なデザインの機器が装着されていることが分かった。まるで解剖されている宇宙人のようだ、と僕は思った。
「他にこれまでの実験と変化はあるか?」
「はい……意識覚醒Levelは5と、これまでに比べて二段階ほど高いです。恐らくは最後に残っていたのが自分だけでなく、他のプレイヤーもいたからだと考えられますが、他には自己意識混濁LevelについてもLevel1と非常に抑えられており、今ならゲーム内の“斎藤悠馬”として会話が通じる段階にあると思われます」
「ふむ……今回ばかりは全くお膳立てをせずにゲームを最後までやらせたからな、その影響かもしれん」
初老の彼は嬉しそうに笑った。まるで、初孫が初めて立ち上がったときのように。
「おお……確かに反応はこれまで以上に大きい」
「しかし……ゲーム内の“ユウマ”の思考パターン、加えて身体能力を獲得しているかというとかなり難しく……教授の提示した“課題”達成率一パーセントを切るかと思われます」
「構わん。これまでは全くのゼロだったのだ。ならば、数百の試行の末に成功するかもしれない被検体など願ってもいない成功例だよ」
ぷしゅーと空気の抜ける音がして、急に自分の行動を制限していたものがなくなった。
「教授!」という厳しい声が聞こえる中で、しわがれた声は、まるで長年追い求めたイエス・キリストが目の前にいるかのように震える声で呟いた。
「さあ、お前の力を見せてくれ!」
その途端、目の前に見える風景は突如懐かしいものへと変わり、最後に見た少女の困った笑みが浮かんだ――――
そして、次の瞬間
――――次のニュースです。
先月某日から発生している連続失踪事件。昨日、新たに二人の行方不明者が発見されました。
被害者は〇市に住む会社員××、被害者は昨夜未明、連続失踪事件の容疑者と思われる者の襲撃を受け、死亡したと思われます。
被害者は、これまでの被害者と同じく、心臓を鋭利な刃物で貫かれるか、体の一部を爆発物と思われる物で欠損しており――――――――
①原則として人を殺してはいけません。他人に見られた場合、運営の勢力により拘束、又は排除されます。
②運営は複数もの監視カメラを設置しています。他人に見られた場合以外にも、これらのカメラに犯行を見られた場合は運営の勢力による排除対象となります。
③基本的に、運営による拘束、排除以外にはゲームオーバーにはなりません。ただし、確率で状態異常によるゲームオーバーもあります。
④クリア条件は『自身の死亡』。それ以外は何も制約はありません。自由にゲームを楽しんでください。
――――なんだ、温いルールだ。
私にとって、物語を終わらせるということは同じく多くの物書きの方と同じようにとても困難な壁でした。
特に今回の作品は設定も多く、また多くの感想やpt等などをいただき、プレッシャーもあったために、後半に向かうにしたがって、プライベートが忙しくなったのもあり、かなり書き続けることが困難でした。
それでも完結させられたことにほっとするのと同時に、「もっと良いものを描けたのではないか」というわずかながらの後悔も含ませながらこのあとがきを描いている次第であります。設定の甘さなどは全て作者の未熟にあります。感想はなかなか返せていませんが、全て目は通しています。完結したこの作品ですが、後々細かい部分を校正していく予定ですので、気になったところは(もちろん面白かった!という感想だととてもうれしいのですが)ご指摘いただけると幸いです。
最後に、このような作品に最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。他にも長期連載している作品ありますので、ぜひそちらもこれを機に読んでいただければと思います。




