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草原の孤城

今回のみ別プレイヤー視点となります。ご了承ください。

Side 将人


「……チッ」


 荒木将人は日の沈んだ森の中で今日何度目か分からない舌打ちを漏らした。

 森、というのは傾斜がきついだろうか。深い森の中で目覚めてから数時間、雑木林の中を何時間もあてどなく歩いたせいで、流石に将人の頑丈な体も悲鳴を上げ始めていた。

 目覚めた当初は事態を全く呑み込めず、とにかく森を出ることだけを考えていたが、一時間くらい歩いた後、ポケットに入っていた携帯の存在に気づき、ゲームの内容を知った時は、舌打ちどころでは済まなかった。

 普段携帯を持ち歩く習慣のない将人は、送られてきたメールのおかげで携帯の存在に気づけたが、説明会などはなから興味がなく、それから将人が森の中で探し続けたのは武器と食糧だった。


『荒木将人 

役職 村人

身体能力B、初期装備 なし

村人サイドの一般的な役職。特に突出した能力を持たないが、条件を満たすことで

異なる役職に変化する「昇格」というスキルを持っている。

●昇格

五日間生存することで、いずれかの役職に変わることが出来る。また、プレイヤーを殺害することで昇格の条件を早めることが出来る。昇格先の候補についてはプレイヤーによって異なる。

 (クリア条件) 未使用のアイテムキーを五個所持した状態で七日目を迎える』


 役職は平凡な村人だった将人だが、同時にクリア条件についても、それほど難しいものを課せられているようではなく、比較的簡単なように見えた。しかし、彼には幾度もの喧嘩で培われてきた自分の危機への直感があり、それがゲームが開始されてから絶えることなく警鐘鳴らし続けていた。

 そして、最初に見つけたアイテムは鍵ではなくマイクロチップであり、それを携帯に差し込んで読み込んだ情報を見て、将人はこのゲームの危険性を確信し、急遽武器を調達することを優先したのだ。


『役職説明 賞金稼ぎ』


 タイトルにそう書かれた情報は、前半だけなら、説明会で悠馬たちが見たものと同じだったが、将人が手に入れたその情報には続きがあった。




『(クリア条件) プレイヤーを三名以上殺害する』




「何が同じサイドのプレイヤーは協力できるだよ……!」


 村人サイドと喰人サイド。これだけみれば、このゲームは明らかにその二つのサイドのプレイヤーが争うゲームだと思うだろう。しかし、将人が手にした情報は、その思い込みを瞬時に払拭させるのに十分な威力を持ったものだった。

 この分では、他の村人サイドのクリア条件だって、何があるかは分からない。ルールに書かれている文面通りしかこのゲームを理解していないプレイヤーは、プレイヤー同士で協力することの危険性を理解していない者も多いだろう。しかし、その協力するプレイヤーが多ければ多いほど、そこに喰人サイドのプレイヤーや、危険なクリア条件を課せられたプレイヤーがいる可能性は高くなるのだ。 相手のクリア条件を知ることのできる方法が「プレイヤー情報」の閲覧であり、それをルールで禁じられている以上、相手を百パーセント信用することはできないのだ。

 つまり、このゲームでは他のプレイヤーを“一切”信用することは出来ない――


「……あ」


 そのとき、目の前の木々が急に拓けた。

 将人が出たのは森の中、そこだけポツンと木々が生えていない場所だった。短い草は生えているが、葉の茂った木々が並んでいないために月の光も十分に明るく、その先にあった物を将人はしっかりと確認することが出来た。


「山小屋か……ありゃあ」


 コテージという言葉がしっくりくるようなその家は、それほどの大きさはないながらも、しっかりとした造りになっていて、雨風を凌ぐには十分そうだ。このフィールドには、中央部の廃村以外にもこういった建物が残っているのか。

 携帯のマップからフィールドを確認してみるが、目の前の山小屋の存在はやはり記載されていなかった。ならば、もしかしたらあの山小屋を見つけたのは自分が一番初めかもしれない。もちろん、既に他のプレイヤーが根城にしている可能性もあるが、もしも誰もいなければ、今日はここで休むことにしよう。

 そう決めて将人が周囲を警戒しながらも、山小屋へ歩き出したときだった。


「そこから先はいかない方がいいですよー?」

「ッ!?」


 突如後ろから掛かった声に、将人は慌てて振り向く。


「ここだよここー」

「――チッ!」


 月の光が辺りを照らしているとはいえ、普段生活している街中と比べようもないほどの暗さ。

 その中で声が聞こえる方に必死に目をこらしてみると、やがてそこに一つの人影が像を結んだ。


「あは、やっと目があったね」


 将人に声を掛けてきたのは、黒を基調としたワンピースを着た少女だった。

 歳は小学校高学年から中学生あたりだろうか。肩甲骨あたりまで伸びた髪は夜闇の中でもはっきりと分かるほど、歳不相応に艶やかであり、少女の童顔とアンバランスな魅力を持っている。


「てめえ……」


 しかし、将人にとってそれはどうでもいいことだった。

ゲームが始まってから初めて自分に接触してきたプレイヤー。こんな不気味なゲームにこんな少女まで参加していることには少々驚かされたが、どのみち将人も含め、自分から志願してゲームに参加してる者などほとんどいないだろう。そんなことより、彼女が何故このタイミングで自分に声を掛けてきたのかが問題だった。


「あー、そんな露骨に警戒しないでよー。“ひより”も君と同じ、村人サイドだから安心してっ」

「……ッ」

「んー、なんで分かったのかって顔だけど、そんなバリバリ警戒してるオーラを出してれば誰だってわかっちゃうよ?」


 即座に自分の役職を言い当てた少女に警戒をより一層強くする将人だが、続けられた彼女の言葉に思わず疑問を投げかける。


「……どういうことだ。こんなゲームにいきなり巻き込まれたら、誰だって警戒すンだろうが」

「ちっちっちっ、それがそうでもないんだなぁ。そりゃ、村人サイドのプレイヤーが警戒するのは当たり前だけど、その理由はなんでかなぁ?」


 少女の試すような口調に舌打ちする将人だが、頭の中ではすでに彼女の言葉の意味を考えていた。

 そして、彼女の言葉の意味を理解し……あまりの当たり前の結論に将人は自分を殴りたくなった。


「そりゃあ……“村人が村人だから”――か?」

「ぴんぽんぴんぽんだいせいかーい! ルールに自分の役職以外の説明なんてなかったけど、そりゃ“喰人”なんて物騒な名前が向こうのサイドに付いているんだから当然だよね!」


 羊は狼を恐れ、警戒するが、その逆はありえない。つまり、警戒心を丸出しにしているプレイヤーは、自分が村人サイドの、更に一般職である村人だと宣伝しながら歩いているということだ。そして、それはまさしく先ほどまでの自分であり、目の前の少女が気付くのも無理はないと思った。


「……で? わざわざそれを親切に教えてくれたってことは、お前も村人ってことか?」

「うーん、厳密には村人サイドってとこなんだけど、まあ村人と大して役職は変わらないかな? 改めまして、椎名ひよりです! お兄さんのお名前は?」

「……荒木将人だ」

「うわぁ、見た目通りヤンキーそうなお名前だね!」

「…………」

「うひゃあ」


 木に隠れて怖がったフリをするひより。しかし、やはり彼女はどことなく底が見えない感じがして、彼女を言葉をそのまま信じていいのか計りかねていた。


「……と、まあこうやって遊んでても、将人さんがすぐに信用してくれるとは思えないので、現実的なお話をしましょう。同じ村人サイドのプレイヤーとして忠告だけど、あの山小屋には近づかない方がいいよ」

「それは、あそこに喰人がいるってことか?」

「うーん、正確に喰人なのかっていうのは分からないけど、普通の村人ではないことは確かかな……ほら、みてて」

「…………ぅおっ!?」


 それまで薄い雲に覆われていた月が顔を出し、辺りがまるでスポットライトを当てられたかのように輝きだした。

 くるぶしくらいまでの短い草の上を、何かがキラキラと光り幻想的な風景を醸し出している……だが、その月の光に反射しているものを見て、将人は驚きの声を上げた。


「こりゃあ……全部ワイヤーかよ……?」

「うん、全てあの山小屋を拠点にしているプレイヤーのトラップみたい」


 なまじ辺りが暗いために目立っているワイヤーだが、昼になれば話は変わってくるだろう。張り巡らされたワイヤーは、近くの木や山小屋までつながっていて、おそらく引っ掛かればその先から何かが飛んでくる仕組みなのだろう。

 この全てを、まだゲームが始まって一日も経っていない今までに全て作り上げたというのか。


「……そのプレイヤーっつうのは、今はいないのか?」

「うん。さっきまで、暢気に焚火をしているプレイヤーがいたから、その煙の先を追って移動したみたい」

「……仲間にしてくれって言いに行ったわけじゃあなさそうだな」


 最早将人には城塞にしか見えなくなった山小屋を見て呟くと、ひよりの表情に初めて不安が浮かんだ。


「……一応そっちにはあずさちゃんに行ってもらってるけど、“アイツ”が来る前に逃げられるかどうか……まだここで、村人サイドに犠牲者を出すわけにはいかないからね」

「……その、あずさっつうのは知り合いか?」


 将人の問いに、ひよりは初めて年相応の無邪気な笑顔を見せた。


「うん、あずさは双子――共鳴者なんだ!」


御意見御感想お待ちしております。

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