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最後の夜 3

ここで優真が須藤にトドメを刺していれば昇格する役職もあったのですが、展開上どうしても使うことが出来ませんでした……。

「静花……なんで……」


 自分の合図で魔法を撃ってくれと頼んでいたはずだ。

 そもそも、優真の中で静花がトドメを刺すという選択肢は元から眼中になかった。誰か他のプレイヤーが作り上げたというワイヤートラップの要塞、その存在を委員長たちから聞かされていた静花がここに須藤を誘導することまでは決まっていたが、それからはほぼノープランといって過言ではなかったのだ。だからこそ、静花が心の傷を負わないように、最初に魔法は自分のタイミングで指示するように取り付けたのに……。

 すると、静花は困ったように、何かを押し殺すように苦い笑みを見せた。


「だって、優真くんのことだから、最後の最後で優しさをみせちゃうんじゃないかと思って……」


 確かにあのとき静花が魔法を撃っていなければ優真は死んでいただろう。しかし、それでも優真は言わずにはいられなかった。


「ッ……でも! そのせいで静花にこんな真似を……ッ!」

「それでも! 優真君に死んでほしくなかった!」


 静花が怒声を上げるなど初めてだ。

 優真は予想外の事に二の句を継げられなかった。


「あのままだったら……優真くんはきっと……私だって、須藤君をこんな目に遭わせたくなかった……けど、それ以上に優真君を失ったら、私……」

「静花……」


 そこで、ようやく静花の気持ちを優真は察した。

 歩み寄ると、両手で顔を覆い、すすり泣き始めた静花を優しく抱きしめる。


「…………ごめん」

「ひっく……ううっ……」


 背中をさすれば、静花はしゃくりを上げる。

 今の優真には黙ってそれを見ることしか出来なかった。


「どうして……こんなことに……」

「…………」


 今更のように感じる理不尽、不条理。友を、親友を殺した優真たちの胸裏に改めて強い感情が去来する。

 それからどれくらいそうしていただろうか。

 やがて優真の胸から顔を離した静花の顔は、涙で目元を腫らしていたが、瞳には力強い意志が宿り、その表情も凛々しく、見惚れるような美しさを持っていた。


「ごめんね、もう大丈夫。それより、須藤君にせめてお別れを言わせて」

「ああ……」


 須藤の元まで行くと、彼の凄惨な傷と、それを自分たちが作ったという罪悪感で胸がいっぱいになった。どうしてこんなことになった、と叫び出してしまいそうになる。


「……許されるなんて思ってない。でも、須藤君の分まで私達、生きるからね」


 静花は目を閉じて合掌する。

 須藤……優真とはもう何年も一緒につるんだ悪友だったが、まさかこんな形で別れることになるとは……。


「…………あ」

「どうしたの?」


 そこで、優真は須藤が死んでも離すことのなかったソレに気が付く。

 持ち手から刀身まで真っ黒の、凄まじい切れ味を発揮していた須藤の魔剣だ。

 優真の剣は先ほどの戦闘で最早なまくらも同然だ。少し迷った末、優真はその魔剣を手に取った。


「うっ……!?」

「優真君ッ!?」


 その剣を取った瞬間、手から伝わって脳へと流れてきたのは強力な負の感情。


 ――この世の全てが憎い。


 狂ってしまいそうな激情の中、須藤が何故こんな姿になってしまったのかを理解した。


 ――それでも、俺たちが生き残るためにこれは必要な力だ。


「……大丈夫だ」


 油断すればすぐに理性を奪われそうになるが、なんとかそれを抑え込む。

 須藤が腰に挿していた鞘も拝借し、魔剣を納める。

 それから少し迷った挙句、須藤のポケットをまさぐり彼の携帯を取り出す。これから使う武器だ。最低限性能は知っておきたい。

 プレイヤー情報から役職とその能力について確認すると、優真の手にした魔剣についても記述があった。やはりこれは須藤の役職――狂戦士の専用武器らしい。


『「血吸いの魔剣」…殺害したプレイヤーの人数ごとに身体能力が向上し、理性を失う。(現在一人)』


 最後の一人、というのは実際に須藤が魔剣を使って殺害した人数だろうか。正直、もっと多くの人間を手に掛けているのかと思ったが、彼が理性を失っていたのはもう一つのスキル「狂化」の影響が強かったのかもしれない。

 ともかく、殺害人数が少なかったのは不幸中の幸いだろう。もしもっと多くの人間を手に掛けていたら、優真も理性を失い狂人と成り果てていたかもしれない。


「ねえ、優真……」

「ああ、ごめん。行こうか……」


 ここは須藤の迎撃には適していたが、正気を保っている相手には逆効果になりかねない。

 それに、あとは六時間隠れていれば自動的に優真たちはクリア条件を満たすことが出来るのだ。

 優真たちは隠れる場所を探してその場を後にした。






 Side 悠馬


 時刻が六時(須藤が倒された直後の時間)を回った頃、僕は木陰で休み、最後の晩餐となり得るかもしれない食事をとっていた。


「それも乾パンとは味気ないね……」


 パサパサした固形物を水と共に流し込みながら、僕は地面に置いた携帯に目を走らせていた。

 見ているのはマップ、更に言えば、プレイヤーの残り人数とその位置だった。

 つい先ほどまで賞金稼ぎが棲み処としていた山小屋で点滅していた三つの動点のうち一つが消えた。これはどこかのペアが協力して一人を倒したとみていいだろう。そしてこの期に及んでペア組んでいるプレイヤーなど、天道優真率いる村人サイドか、共鳴者であるひよりとあずさくらいだが……。


「…………」


 あずさのことを思い出すと少しだけ憂鬱な気持ちになった。

 一度死んだとき、このゲームをクリアするためならどんな手段も厭わないと決めたはずなのに、あずさに負の感情を向けられたとき、少しだけショックを受けた自分がいるのを自覚した。

 たしかに、ゲーム序盤では彼女と行動を共にしていることが多かった。しかし、精々三日程度一緒にいた人物にここまで情が移ることは意外だった。彼女については何となく庇護欲に駆られてしまうというか、そういう意味では小鳥遊未来に似た魅力、脅威を持っていると考えた方がいいかもしれない。


 ――まあそれは置いといて、だ。


 自分のクリア条件を今一度確認すると、『クリア条件を満たしたプレイヤーを三人以下(自身を含む)にし、且つ自身を一度殺害したプレイヤーが死亡すること』だ。そのうち、一番厄介なのは、やはり自身を一度殺害したプレイヤー、つまり『狂戦士』須藤友樹の死亡だろう。

 須藤をけしかけた先の金木が処理してくれていると大変助かるのだが、おそらく金木でも“アレ”の相手は厳しいだろう。直接やりあってはいないが、とんでもない化け物だろう、あれは。間近を通っただけで死の恐怖を感じたのは初めてだった。

 そして、もう一つの条件であるクリア条件を満たすプレイヤーを絞ること。これについては、残りプレイヤー自体を三人以下にすれば話が早いのだが、残り時間と残ったプレイヤーを考慮するとなかなかに厳しい。

 山小屋で戦闘していたと思われる三つの動点のうち一つが消え、マップ上に浮かぶ残りプレイヤーは自身を含めて八、そのうちほぼ確定で生き残っているのがあずさ、ひより、優真、静花、遥香、柚希、そして僕だ。あとは金木と須藤、どちらかが生き残っているという可能性が一番高いと思われるが……。


「ん……」


 気づけば、いつの間にか自分の付近まで移動しているプレイヤーが一人いた。考え事をしていて注意して見ていなかったな。今度から気を付けるとしよう。

 僕は立ちあがると、マップに浮かぶ位置を頼りに静かに移動を始めた。一分もしないうちに対象は肉眼で補足できた。しかし、そのサイドテールの小柄な後ろ姿を見たとき、僕は思わず舌打ちしたくなった。


 ――よりによってどうしてあずさが……。


 そのまま向こうが気付く前に呪いの鎖を使って殺せば早かっただろう。しかし、僅かな時間ではあったが、僕は迷ってしまった。そしてその間が、あずさがこちらを見つける決定的な時間を与えてしまった。


「あ……ッ」


 あずさは僕の姿を認めると、明らかに迷う素振りを見せた。両手に武器は持っていないのに、だ。

 一体何を迷っているのか……僕が疑問に思ったとき、意を決したようにあずさが口を開いた。


「悠馬さん……一度だけ、もう一度だけあずさを、あずさたちを助けてくれませんか!?」

「はぁ?」


 思わず声が出た。それに構わず、あずさは切迫した様子でこう続けた。


「助けてください! ひよりが……お姉ちゃんが今、金木に捕まっているんです!」


読んでいただきありがとうございます。

ゲームとかだったらここであずさを助けるか助けないかで分岐ルート発生しそうですね。

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