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狂人対決 2

 Side 悠馬


「つぅう……」


 ひよりに撃たれた傷は幸い弾が貫通していたが、医学の心得のない僕は精々包帯を巻いて出血を防ぐことくらいしか処置できなかった。

 時刻を確認すると今は13時。それほど急ぐ時間帯でもないが悠長にしていられる時間もないところだ。傷口はじっとしていれば比較的痛みは弱いが、少しでも動こうとすれば動きに支障が出るくらいには激痛が走ってしまう。強硬策で、このままこれまで通りに他のプレイヤーを襲うというのは難しそうだ。

 となれば、どこかで回復薬を入手するしか道はなさそうだが、それだって面倒だ。なにより、ゲームが開始されてから6日も経った今、未開封のアイテムボックスを見つけるのでさえ苦労しそうだ。こんなことなら、四日目のときに柚希に薬を使わずに温存しておけば良かったとも思うが既に後の祭りだ。

 こういうときに限って、金木とも敵対したばかりだしな。

 僕は背嚢から携帯を取り出し起動させた。

 プレイヤー情報の欄を開くと、『小鳥遊未来』と名前が表示される。

 これは金木と最後に会った時、奴が油断している隙に未来から盗んで置いたものだ。それまでの金木だったら、気づかれていた確率は高かったが、あのときの金木はどうにも注意力が散漫になっているようだった。

 考えられる可能性としては、やはり空腹による集中力の低下だろうか。しかも、あのときは目の前に未来という食事が用意されている状態だった。あの化け物も、流石に飢餓感には勝てなかったということかもしれない。

 ただ、それにしても携帯を盗んだときは、特にこれといって使い方は考えていなかった。しかし、後になって未来のドロップスキルを確認したときは驚いた。メールの送信能力など、情報が重要になるこのゲームにおいてかなりのアドバンテージを保てるではないか。

 残念なことに、既にゲームは終盤であり、仲間でもいない限りこのスキルを使う機会はめっきり減ってしまうわけだが、それでも入手してすぐ使うタイミングがあった。そう、須藤友樹とエンカウントしかけたときだ。


 あのとき、僕は自分の携帯を確認して金木がいると思わしき地点を確認し、未来の携帯を使って須藤にメールを送ったのだ。未来が須藤とこの場所で合流したい、という旨の文面にしたわけだが、正直理性を失った須藤にどこまで通ずるかは分からなかった。しかし、メールを受信し、送ったポイントの方向へと移動を開始したところを見ると、どうやら狙いは成功したらしい。先ほど須藤は目的地に到着したみたいなので(そのときにはもう未来のものと思わしきマークは消えていた)、今頃は金木と戦闘でもしてくれていたらラッキーだが、当面は僕のこの身体の方が優先か。

 僕は考えた挙句、ある人物に僕のいる地点の座標を送った。そして文面には「怪我をしたので薬をもっているのなら分けて欲しい。君には借りがあるはずだ」と書いた。須藤のときに引き続き二回目の賭けだが、さて、向こうはどう動くだろうか。






 Side 金木


「シャァアアアア!」

「くっ!」


 神速の剣閃が金木の前髪を掠める。

 間一髪で避けた金木が反撃する前に、須藤のキックが腹に突き刺さる。

 威力は大したことないが距離が離れてしまった。未来が持っていた拳銃は運悪く地面に置かれたリュックの中。あれを取りに行こうとすれば、その瞬間首が吹き飛ぶことを金木の勘が告げていた。


「ゴァアアア!」


 須藤が剣を前面に突き立てて突進してくる。スピード、威力共に金木の遥か上を行くが、その攻撃を予想していたならば防ぐことは容易だ。更に、金木は避けたときに須藤の腕を取ると、突進してきた勢いも利用して須藤を投げ飛ばした。

 これは狂戦士も驚いたようで、ロクに受け身も取れずに地面に叩きつけられた須藤はすぐには起き上がってこなかった。今ので後頭部を強打していればしばらく起き上がってはこれまい。

 それでも下手には近づかず、自分のリュックへと走り拳銃を取り出した金木の行動は、結果的には失敗だった。


「ぐぁ!?」


 金木が銃を向けようとしたとき、瞬時に上体を起こした須藤が、持っていた大剣をこちらに投擲したのだ。そしてそれは投擲とはいっても、最早砲弾に近い。

 幸い即死するような場所には当たらなかった。が、右肩の付け根から先が吹き飛んだ。宙を舞う自分の右腕が見え、後方で木の崩れる音が聞こえた。振り向くと、剣は大木一つを貫通し、奥の木に突き刺さっていた。


「…………ッ!」


 遅れて肩からやってくる熱い感覚と喪失感。

 あまりにも身体能力が違いすぎる。金木は戦闘スキルはもちろん、素の身体能力にも自信があったし、喰人になってからは最早誰にも負ける気がしなかったのだが、ここにきて別次元の強さを持っているプレイヤーがいることを知り、何の対策もせず真正面からこの男を迎え撃った自分の慢心を恥じた。相手は怪物とはいえ知能はそれほど高いようには見えない。やりようはいくらでもあったのだ。だから今、己の失敗をこうして利き腕を失うという形で責任を取らされている。

 片腕を失い、これまで経験したことのない痛みを感じながらも、金木がそこで錯乱せず、比較的冷静に状況を分析できたのは、潜ってきた場数の多さ故か。とにかく、腕を斬られた直後にロクに狙いもつけずに撃ちまくった金木の銃弾は、うち二発が須藤の太ももと腹に命中した。


「ぎぃいいい!?」


 悶絶する須藤。金木も金木で弾を撃ち切った直後に銃を捨て、患部を左腕で圧迫して出血を抑えなければならなかった。

 両者ともに重傷、そう思われたが、すぐに立ち上がった須藤を見て金木は今度こそ絶望から呆れ笑いを浮かべた。


「どんだけ人間離れしてんだよ……」

「UUUUUUUUHOOOOOOOOOO!!」


猿のような雄たけびを上げた須藤は金木に向かって突進する。金木も回避を試みるが、血を流し過ぎたせいか、足に力が入らなかった。

 そしてラリアットの要領で目前に迫った須藤の腕を見たが最後、金木の視界では曇天の空が勢いよく後方に流れていった。


読んでいただきありがとうございます。

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