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何度目かのソロ 2

間隔開いてしまいました。

 なんだかひどく久しぶりに出会った気がする。たかだが二日程度会わなかっただけで、実際はそんなことがないのだが、僕の心、考え方があれから変わったせいだろうか。


「銃を下ろしてくれ、て言ってももちろん聞かないよね」

「悠馬さん、本当に村人プレイヤーを襲って回っているんですね……あなたは喰人だったんですか?」


 最初から自分たちを騙していたのか。彼女が訊きたいのはざっとこんなとこだろうか。

 さて、ここで自分はどういう態度を取ればいいのだろうか。あずさと完全に離反するのは容易い。僕のクリア条件的にも競合するし、あずさ自身は非力なうえ、それほど強い役職やスキルを持っているわけではない。お話に興じるまでもなくあずさをここで始末するのが手っ取り早い気もするが……。

 いや、この考えはよくない。僕は短絡的になっている自分の思考を戒めた。このゲームが終われば、僕は元の日常生活に戻るだろう。そのとき、このゲームについて警察などが調査をするかもしれないし、そのときにもしもこのゲーム内で僕が無差別に人を殺して回っていたと知られれば、重刑とまではいかないものの、全くの無罪放免で元の生活に戻れるとは考えにくい。どういう原理かは分からないが、運営が僕達プレイヤーの様子を見ていることは間違いない。ならばここは少しでも葛藤している素振りを見せる方が良いか? いや、でも考えてみれば、そもそもさっきまでは悪意の塊のような金木と協力関係にあったのだ。今更多少良い顔をしても手遅れじゃないか? ……うーん、よく分からないな。


「…………僕は元々は村人だ。でも、知っているだろう? 僕は四日目に一度死んでるんだ。それで目覚めたときには体は元通りになって役職とクリア条件が変わっていた。復讐者――今はそれが僕の役職だよ」


 あずさはまるで毒でも飲んだかのような表情を浮かべていた。その真意は分からない。僕は話を進める。


「復讐者の名前からも分かるだろうけど、この役職のクリア条件は他人を害するものだ。それに、あまり言いたくないけど、今の僕はお前達村人プレイヤーには恨みがある。僕が一度殺されたときには相当理不尽な形で殺されたからな」


 嘘はついていない。初めて口に出したが、その言葉が自分の心に嘘偽りないことに気づいた。

 つまり僕は憎んでいるのだ。初日の襲撃を僕だと決めつけた小鳥遊未来を、その誤解を解かなかった橘静花たちを、そして四日目に僕を凄惨極まる方法で殺した須藤友樹を、それを傍観するだけだった天道優真を――


「……そういう意味では、二人には恨みはないかもしれない。うん、そうだな。むしろ四日目まで僕を表面上だけでも信頼して協力してくれたのはあずさたちだった。だから、ここは協力してくれないか? あずさと荒木のクリア条件は知っている。あずさのクリア条件は僕のと少し競合するけど、どうにかなるさ。だから、二人は協力してくれないか? 別に手を下す必要はない。ただ、他の村人プレイヤーをおびき出してくれるだけで――」

「できません」

「無理だな」

「…………だよな」


 情に迫ればどうにかなるかとも思ったが、まあ断られるよな。分かっていたが、改めてこの役職で協力できる村人プレイヤーなどいないことを思い知り、少しだけ寂しい気持ちになった。

 ゲーム開始時に長くいたプレイヤーたちだからだろうか、寂しさ、などといった忘れていた感情を少しだけ思い出した。

 気づかれないように小さく息を吐くと、僕は意識を切り替えた。生き残るためには感情は邪魔になる。極めて合理的に、自分が生き残るための方法を実践するのだ。


「…………分かった。けど、二人とは出来れば戦いたくない。今回だけはお互い見逃すことにしないか?」

「…………分かりました」

「ばっ……!」


 あずさが沈黙の後、銃を下ろした。

 その瞬間、僕はあずさに鎖を放ち、彼女の持っていた拳銃を弾き飛ばす。

 信じられないとばかりにこちらを見るあずさと、間に合わなかった制止の声に悔恨の念を込める荒木。用心深い荒木と違い、あずさはまだ僕のことを完全に敵とは判断していなかったようだ。

 武器を無くしたあずさから視界を外し、僕は先に手負いの荒木に向かって走り出す。

 荒木までの距離はおよそ十メートル程度だったが、今の僕からすれば一歩で詰めてしまえる距離だ。一気に荒木の元まで到達した僕は、彼に向かって鉈を振り下ろした。


「くっ!?」


 しかし、鉈が荒木に届く直前で形成された半透明の壁によって鉈の刃は阻まれる。これには以前も見覚えがあった。聖職者の『結界』だ。

 そして、僕の攻撃を防いだのと同時に荒木も握っていた杖をこちらに向けた。反射的に脇に転がった僕の肩に鋭い痛みが走る。『結界』は術者からの攻撃はすり抜ける、という僕の咄嗟に立てた仮説は間違いなかったようだ。


「ッ……このっ!」


 立ち上がった僕は、もう一度荒木に向かって鉈を振り上げた。しかし、依然として荒木の間には結界が存在する。それでも攻撃を仕掛けたのは、ひとえに自分の持っている武器の名前が『破壊の鉈』だったからだ。


「こんな壁……!」


 鉈と結界がぶつかりあった瞬間、破壊の鉈の確立効果が発動。

 凄まじい衝撃が周囲を襲うが、結果的に勝ったのは、鉈の方だった。


「なっ!?」


 派手にガラスの破砕音が聞こえたかと思うと、半透明の壁は粉々に砕け散り、次の瞬間には鉈が荒木の首元に吸い込まれた。


「――将人くんッ!」

「ぐっ!?」


 鉈の起こした破砕音のせいで耳がいかれてしまっていたのか。

 突然音も無く腹に激痛が走り、見ると痛む場所から血が滲んでいた。

 撃たれた――そう気づいたときには既に僕は森の中に飛び込んでいた。

 手近な木の影に隠れてそっと様子を伺うと、荒木の元へ駆け寄るひよりの姿が見えた。その手に拳銃が握られているところを見ると、今僕を撃ったのはひよりか。どこに隠れていたのかと考えたが、そういえば彼女もあずさと同じく気配遮断を持っているのだった。流石にプレイヤー三人が固まっている地点を見逃すとは思えないし、どうやら気配遮断はスキル『嗅覚』の位置情報特定能力をも阻害する力があったらしい。マップ上の全プレイヤー人数を逐一確認していればこんな奇襲は受けなくて済んだだろうが過ぎたことを悔やんでも仕方がなかった。

 腹の傷の具合は分からないが、痛すぎて動けないほど、というわけでは今のところない。しかし、医学などこれっぽっちも分からない僕では全くあてには出来ないだろう。荒木に深手を負わせた今、残るあずさとひよりの相手を出来るかと考えるが、銃を拾い、こちらを警戒しているあずさを見るにこの状態では難しい。最低限の目的はクリアしたし、ここは一度撤退すべきだろう。

 僕は木の影から飛び出すと、ジグザグに走りながら脱兎のごとくその場から走り去った。


読んでいただきありがとうございます。

次からはもう少し更新早くします。

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