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何度目かのソロ 1

 金木と別れてからしばらくは、次の獲物を求めて森の中を彷徨っていた。

 持っていた携帯を開き、マップから他プレイヤーの位置を確認する。そこで僕は自分の方に近づいてくるプレイヤーがいることに気づいた。

 進路はあくまで僕のいる方向へと向かっているだけで、このまま進んでいけばばったり会う可能性は低い。ただ、このプレイヤーが果たして僕に気づいてこちらに向かっているのか、偶然僕のいる方向へ向かってくるのかを判断するには難しい。待ち伏せをするか、そのままやり過ごすか、しばしの間僕は考えを巡らせる。

 そして、あらゆる場面を想定した結果、僕はとりあえず身を潜めてここで様子見をすることにした。仮にここに来たのが静花や遥香だったら迷わず倒すし、手負いだという天道や荒木だったとしても状況次第ではここで潰しておきたい。僕のクリア条件を満たすためにはまだまだプレイヤー数が多すぎる。せめて日没前にもう少し数を減らしておきたい。

 僕は近くの茂みに身を潜め、携帯を交互に見比べながらプレイヤーが通るのを待つ。やはりというべきか、マップ上のプレイヤーは多少進路はずれるものの、概ね僕がいるエリアを通る気でいるようだ。ここで最悪なのはこちらへ来るのが金木で、潜伏している僕に気づいてそのまま戦闘へ、というパターンだが、幸いマップ上には彼がいると予想しているエリアにプレイヤー反応が二つ残っている。おそらくまだお愉しみ中ということだろう。お願いだから今日一日はずっとそうしていてほしいものだ。

 超聴力を失ってから聴覚は人並み程度まで戻っていたが、その僕の耳にも、やがて草木を踏み入って進んでくる足音が聞こえてきた。僕は呼吸を浅くして、ぐっと身を屈ませる。そして見えて来たプレイヤーの姿に、僕は内心舌打ちをした。


「…………」


 現れたのは僕が最も探していたプレイヤーである須藤友樹だった。しかし、その様子は明らかに豹変していた。体は見違えるようにたくましくなり、見るからに凶悪そうな剣を手にしているが、その顔からは理性というものが欠け落ちたように思えてならない。僕の背中に冷や汗が流れる。

それに加えてタイミングも最悪だ。よもや金木と共闘関係のときに捜していたこの男が、まさか共闘関係を解消した途端すぐに見つかってしまうとは……これで奴が通常の『戦士』だったらともかく、様子からして明らかに普通ではない。特別な条件を満たすことで役職が変更された僕と同じく、須藤も同じように何らかの変化が生じたのかもしれない。ともかく、そのせいで今の僕では全く太刀打ちできないことが確信できるほどに、今の奴は危険だと直感が囁いていた。

これはこのままやり過ごすしかないな。そう判断した僕だったがすぐにポケットに入っているアレの存在を思い出した。

 手に入れたのはついさっきで、起動するのかは分からなかったが、試す価値はあると思った。

 僕がそれを使うと、須藤にも反応があった。そして、自分の携帯を眺めていた須藤は、やがて方向を変えて歩き出した。どうやら餌に喰いついたようだ。僕は小さな達成感を抱きながら、異形の存在となった彼の背中を見送った。






 そうして再び他のプレイヤーの追跡を開始する。とはいえ、先ほど須藤を待ち伏せている間、僕が追っていたプレイヤーに動きはなかった。怪我をして動けないでいるのか、はたまた山小屋から距離を稼いだことで安心して休んでいるのか。

 そうして辿り着いた先で追っていたプレイヤーが彼だったことを知り、僕の前者の推測が当たっていたことが分かった。


「……出て来いよ」


 彼も僕が近づいてきたことには気づいていたらしい。木の影に隠れる僕に向かってそう声を掛けてきた。やはり注意していても腰に提げている鎖が僅かにでも音を発してしまうらしい。今日は雨音で幾らか隠せると思っていたが、潜むことは出来ても、近づくのは難しいらしい。これの扱い方について、あとで考え直す必要があるかもしれない。

 そんなことを考えながら堂々と姿を現わした僕を見て、彼――荒木もそれほど驚かなかった。


「どうやら俺が思っていた通り、お前には俺たちの居場所が分かる何かを持ってるようだな……」

「そう思うなら逃げればよかったじゃないか」

「分かってんのに言わせるんじゃねえよ。あのクソ教師に蹴られたここが痛んで仕方ねえんだよ」


 両腕を持ち上げた荒木の二の腕は赤く腫れ上がっている。あれが彼を手負いと言わせる原因であるらしい。片腕ならともかく、両腕がああなってしまえば、まともに物を持つことさえ難儀するだろう。早く楽にしてあげるのがせめてもの情けというものだろう。

 僕は腰から鎖を取り出すと、荒木の心臓に狙いを定めた。


「フン、いいのか? この前みたく、他に誰かが隠れてるかもしれねえぞ?」

「忠告ありがとう。でも、流石に同じヘマを二回もしないよ。君が今一人きりであるということは既に確認済みさ」

「……ククッ、なるほどなあ。役職次第のクソゲーだと思っていたが、存外バランス調整はされてるみてぇだな?」

「……なに?」


 僕は荒木を視界に入れつつも、咄嗟に周囲を見渡した。しかし、もちろん誰もいるはずがない。

 つまらないハッタリ、時間稼ぎ。僕はそんなものに騙されて多少なりとも時間を使ってしまったことに溜息を吐くと、今度こそ鎖を振りかぶった。そこまで力を入れずとも、この鎖ならば問題なかったが、せめて、荒木を一撃で楽にさせてやろうという慈悲の心で――




「――本当に、悠馬さんなんですか」




「…………」


 心臓をわしづかみされたような驚きが僕を襲った。

 横合いから向けられているのは拳銃。距離は精々十メートルも離れていないのに、声を掛けられるまでまるで気配を感じなかった。いや、気配……。そこで僕は思わず手で顔を覆いたくなった。


「そうだった……気配遮断……お前にはそんなスキルがあったんだったな――あずさ」

「…………」


 再会した少女は目を細めて僕のことを睨んでいた。


読んでいただきありがとうございます。

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