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再会

お待たせしました。

 背負っていた未来を下ろすなり、荒木は乱暴に床に腰を下ろした。

 壁に背をもたれながら大きく息を吐くと、ひよりからもらった飲料水を一息に飲み干す。


「将人くんだいじょーぶ?」

「ああ……なんとか、な」


 荒木の声は掠れていて、目元に出来た隈が彼の疲労を色濃く示唆していた。

 同じように歩いてきた遥香も着いた途端、糸が切れたように座り込み、それから水を少しずつ入れるだけで一向に口を開く気配がない。

 彼らが疲れていることは明らかだったが、優真には訊きたいことが山ほどあった。最悪、荒木たちが尾行されていた場合、いつここが襲撃されるかもわかったものではない。煙たがれるのを承知で、優真は荒木に問いかけた。


「はじめまして、だよな。俺は天道優真。疲れているとは思うんだけど、ここまで何があったかを聞かせてくれないか?」

「…………まあ、そりゃそうだよな。いいぜ。その代わり、疲れているから手早く話すぞ」


 罵声の一つでももらうかと思ったが、意外にも荒木はすんなりと要望を聞いてくれた。

 荒木の話はひよりたちと最後に会った五日目、つまり昨日の昼から始まる。

 五日目の午前中にひよりと会い、この山小屋で落ち合うことを決めた後すぐに、荒木は道中で一人蹲っていた遥香に出会った。

 事情を聞き、彼女が明日落ち合う山小屋を拠点にしている優真たちと合流したいことを知ると、荒木は遥香の役職やクリア条件などの開示を条件に、彼女を山小屋まで送り届けることを約束する。

 その後、遥香を連れて荒木の拠点に戻り、彼女の役職やクリア条件を聞き、ひよりや齋藤悠馬から聞いていた情報と偽りがないことを照合し、彼女が嘘を吐いていないことを確認すると、次に襲撃者に備えた行動を説明した。それは、遥香が一人テントの中で待機し、荒木はその付近の木の上で潜伏し、他のプレイヤーが来た際に先手を取れるようにするという作戦だったのだが、それからしばらくもしないうちにその餌に引っ掛かった人物がいた。

 そして、その襲撃者が斎藤悠馬だったことがわかったとき、一同に驚きと困惑が同時に起こった。


「う、嘘です! 悠馬さんがそんなことをするはずがありません!」


 その中でも特に顕著な動揺を見せたのは双子の妹であるあずさだった。

 聞けば、彼女はゲーム開始当初、斎藤悠馬と長い時間行動を共にしていたらしく、自分を助けてくれた彼がそんなことをするはずがないという主張だった。

 しかし、静花たちにとって困惑したのは別の部分にあった。


「いや、そもそも……斎藤くんはあのとき死んだんじゃないの?」

「ああ……あのとき、友樹に斬られて……」


 あの場面は今思い返すだけでも背筋が凍る光景だが、それゆえに優真たちの記憶には鮮明に残っている。ただ斬られた、とかならまだ生きていた可能性もあるが、あのとき友樹は斎藤の首を完全に落としていた。あんなことをされれば仮に斎藤が喰人だったとしても生きているとは考えづらいのだが、荒木の証言では、あれは斎藤悠馬で間違いがないということだった。


「それにな、あいつが持っていた武器、どれも全然見たことがねえうえに、とんだイカれた性能を持った物ばかりだったんだよ。ありゃあドロップアイテムなんてレベルじゃねえ。遥香の持ってる占い師の杖とかと同じ超常のモンだ」

「……それに、斎藤はずっとあたし達のいる場所が分かっているみたいだった。だって、昨日の夜は一日中後ろから追い回されたんだよ? 昨日は月も隠れてて暗かったし、一度は完全に撒いた。なのに、あいつは一度もあたし達を見失ったようには見えなかった」


 ここに来て初めて口を開いた遥香の声音には、昨日の出来事への明らかな恐怖が残っていた。学校ではいつもマイペースで、何事にも物怖じしない彼女がこんな風になるなんて……。


「一度死んだら喰人として生き返る……そんなルールがあったりして」


 何の気なく言ったのだろう。しかし、そのひよりの言葉にその場にいた全員が凍り付いた。


「ば、バカ言わないでよ! そんなことになったら、村人に勝ち目なんて絶対ないじゃない!」

「た、例えばの話だよー。でも、そういう理屈じゃないと、一度死んだっていう悠馬くんが生き返って将人くんたちを襲った理由が分からないじゃない?」

「それは……」


 確かに、ひよりの言ったような『増え鬼』の原理は流石にないだろうが、一度敗北したプレイヤーが必ずしも脱落するという考え方は見直した方がいいのかもしれない。

 斎藤が復活した件についてはそれ以上何も言えることはなく、荒木は彼から逃れた翌朝、森で倒れていた未来を拾い、ここまで来たのだとして話を打ち切った。

 優真は、未だ眠っている未来の顔を伺いながら静花に問うた。


「未来の容態はどうなんだ?」

「うん……あちこちに擦り傷とかは沢山あるけど、見た感じ大きな怪我はしてないみたい」


 素人目だからなんとも言えないけど、と付け足したが、それでも優真は少しだけ安堵した。それにしても、用心深そうに見える荒木が、よく初対面の未来をここまで担いできてくれたものだ。

 優真がそのことについて礼を言うと、彼はフンと鼻を鳴らした。


「別に、我妻が連れていけって五月蠅いから運んできただけだよ。それに、小鳥遊が村人だっていうなら、ひよりたちのクリア条件にも影響するだろうしな」

「えっ、もしかして将人くん、ひよりのことを心配してくれてたの!? いやぁ、君ってば素直じゃないなぁ!」

「お姉ちゃん、サラッとあずさのこと抜くのやめてもらえる?」

「何言ってるのさ。これを見ただけでも、将人くんがひよりにメロメロだってことは一目瞭然なんだからしょうがないよ。ね、将人く――あいたぁ!」

「お前には一度、体に教えてやらねえと分からねえみたいだな……」

「なんかその言い方、いやらしいねって痛い痛い痛い!?」


 荒木はひよりの頭を片手で掴むと、ギチギチと力を込め、ひよりが絶叫する。いつもなら止めに入るであろうあずさも、自業自得ですと言わんばかりに半眼で見つめるのみだ。


「ゆ、優真くん。あれ、止めなくていいの?」

「荒木だってちゃんと手加減しているさ。あれくらいはスキンシップの一つに入るんだろう」

「こんなハードなスキンシップいらないよー!」


 バタバタと暴れるひよりだが、声音はどこか楽しそうでもあった。彼女からしてみれば、お兄ちゃんが出来たみたいで嬉しいのかもしれない。ともかく、あれを見る限り荒木も噂ほど悪者、というわけでもなさそうだ。


「んん……」


 そうやって騒がしくしていたせいだろうか。

 振り返ると、未来がぼんやりと天井を見つめていた。


「あれ……ここは……?」

「未来ッ!」

「未来ちゃん!」


 目を覚ました未来に静花が抱き着く。

 状況を理解していない未来は、最初は目を白黒させたが、徐々に意識がはっきりしたのか、その目尻にはみるみる涙が溜まり、


「そっかぁ……未来、やっと帰ってこられたんだぁ……!」


 そう言って、静花の背中に手を回した。


読んでいただきありがとうございます。

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