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説明会 1

 そんな僕の危惧とは裏腹に、集会所に着くまでは何のアクシデントも起こることがなかった。

 時間的にはギリギリだったため、中に入るとロの字型に並べられた椅子とテーブルに、既に他のプレイヤーが結構な数揃っていて、扉を開けた途端にいくつもの視線が突き刺さった。


「君は……斎藤くん、だよね?」

「ああ、天道くんじゃないか」


 その中に見知った顔があり、僕は僅かに顔を綻ばせるが、天道の隣にいた女生徒を見て、思わず顔を顰めそうになった。


「優真、こいつ知り合い?」

「なに言ってるんだよ遥香、同じクラスの斎藤くんじゃないか」


 いきなり僕を指さし、こいつ呼ばわりしてきたのは、優真の言葉通り、同じクラスの我妻遥香(がさいはるか)。とにかく気が強い女で、吊り目が特徴的な美人ではあるが、その毒舌ぶりから僕はあまり近づきたくない女子だ。しかし、意外なことに交友関係自体は広く、男女揃って評価も高い。休み時間や放課後など、彼女が一人でいるところを見たことがないくらいだ。決して僕の感性がおかしいせいではないと思うのだが、他の生徒達にとっては彼女が違うように見えていることは事実だった。


「どうでもいいよぉ……そんなことより、これって一体何なのぉ……? お家帰りたいよぉ……」

「み、未来ちゃん……そろそろ説明会が始まる頃だから……ね?」


 一際小さい体で泣きじゃくっているのが、小鳥遊未来(たかなしみく)。普段の学校では小鳥のような愛らしさでクラスのマスコット的存在だが、今はあの明るさが見る影もない。しかも容姿通りの子どもっぽい性格で、グループ行動などの際も、ほとんどまともに仕事をしていなかったはずだ。しかし、その全てが彼女の愛らしい容姿のおかげで許されるという、色々な意味で規格外の生徒であり、遥香と同じく、どちらかというと関わりたくない部類のクラスメイトだ。

 そして、その未来を必死に宥めているのがこれまた同じクラスの橘静花。一部の男子の間では通称「しずかちゃん」と呼ばれている正統派ヒロインみたいな少女で、スクールカーストも最上位の生徒だ。

 そして、最初に僕に話しかけてきたのが天道優真(てんどうゆうま)。クラスの中心人物であり、勉強は苦手ながらも、スポーツ万能で人当たりも良く、おまけにイケメンときたもんで男女問わず絶大な人気を誇っている。

 スクールカーストがどん底に近い僕は勿論彼と接点どころか、喋ったことすら数えるほどしかないが、それでも彼は気さくに声を掛けてくれた。どうやら評判通りの優男らしい。

 集会所の中には、その優真たち四人、そしてそこから少し離れたところに、一人だけ浦星学園の制服ではなくスーツに身を通した若い男性が一名いた。若い男性には見覚えがあるような気もしたが、さて誰だったか。


「あの人は三年生の担任をしている金木先生だよ。僕と静花は一年生のときに古文の担任をしてもらってたから知ってるんだけど……斎藤くんは一年生のとき、何組だっけ?」

「C組だよ。古文は古賀先生だったな」

「ああ、古賀じいさんか」


 優真は爽やかに笑った。こんな状況でも彼はいつも通りの爽やかイケメンっぷりは健在らしく、僕は少し眩しいものをみるような気持ちになる。優真と僕では、人間としての何かが根本的に違うのだろう。


「それで、斎藤くんの後ろにいる子は誰だい? 見たところ一年生みたいだけど……」


 優真の視線が僕の隣で小動物のように辺りを見渡す柚希に向けられた。


「ああ、こいつは信濃柚希。来る途中でたまたま一緒になっただけで、特にこれまで知り合いとかだったわけではないかな」

「へぇ、そうなんだ」


 そうして優真は柚希に向き直ると、


「はじめまして、僕は二年の天道優真。よろしくね、信濃さん」

「よ、よろしくお願いします……!」


 丁寧かつ爽やかな笑みで挨拶された柚希は少し慌てたようだった。小さく一礼したあと、顔を上げると僕の方を見た。


「天道先輩は先輩と違って丁寧だし爽やかです」

「悪かったね、生憎と乱暴なうえに陰気なもんでね」

『――時間になりました、これより説明会を始めたいと思います』


 柚希に反論しようとしたところで、突如として無機質な声でそんな言葉が聞こえた。

 集会所の中にいる人の視線が声の発信源に集中する。声が聞こえてきたのは、集会所の天井に一つだけ取り付けられていたスピーカーからだった。


『説明会では、既にプレイヤーに伝えてあるゲームの基本情報については割愛し、最初にこちらから支給した携帯の操作についての説明をしたあと、皆さまからの質問を受け付ける時間を取ります。途中で疑問がありましたら発言して頂いて構いませんが、ゲームとは関係のない内容については答えることはできません』

「早くおうちに帰らせて!」


 運営の語尾に被せるかのように、食って掛かって質問したのは未来だ。まあ、その内容は質問というよりは要求で、当然ながらスピーカーからは無機質な声が返ってくる。


『その内容はゲームに関係がないため、答えることは出来ません』

「そんなの知らないっ! あなたたちは一体何なの!?」

『私達の存在についてはゲームに関係がないためお答えできませんが、ルールに抵触しない限り、ゲームに介入することはありませんので、その点はご安心ください』

「そんなこと聞いてない!」

「落ち着け未来、これじゃあ話が進まない」


 ヒステリックになる未来を宥める優真。すると未来は息を荒げながらも、どうにか落ち着いたようだ。未来や遥香が優真を好いていることはクラスメイトにさして興味のない僕でさえ知っている事実だったので、今後も彼女の手綱を握るのは優真に任せるのが良いだろう。


『質問は他にないでしょうか? なければ最初の説明に移らせていただきますが』

「その前に私から質問。このゲームに勝てば私達はここから出してもらえるの?」

 質問したのは遥香。ようやく出たまともな質問に、運営は肯定の答えを示した。

「ふぅん。それじゃあゲームに負けたときは? ルールにはペナルティとしか書かれていなかったけど」

『ペナルティはルール上でもいくつか存在しますが、共通してペナルティを課されると、そのプレイヤーは失格となり、ゲームに敗北した扱いになります』

「だから、そのゲームに負けるとどうなるのって聞いてるの」

『死亡します』

「……は?」

「それって……?」

『はい、橘様のご想像の通り、ゲームに敗北したプレイヤーは死亡します』


 淡々と、当たり前のように無機質な声はそう告げた。

 その言葉に対して、誰も、未来でさえ反応しない。あまりにリアリティがなさすぎるからだ。それでも、あらかじめ予想していた通りだった運営の返答に、僕は唇を小さく舐めた。


『質問は以上でしょうか。他に質問がありましたら、説明の最後に改めてご質問してください。それでは、次に支給した携帯についての説明に入ります。皆さま携帯を出してください』


 僕達の沈黙を、これ以上の質問はないと取ったのか、運営は話を次の段階に進めた。

 誰もが先ほどの話をまだ上手く呑み込めていないようだったが、これから説明されることが、自分の命の趨勢を決めるかもしれない大事な話であることは薄々理解したようだった。全員が一様に携帯を取り出し、運営の次の言葉を待っていた。


『よろしいでしょうか。それでは説明に入らせていただきます。ルールにも書かれていたと思いますが、携帯を使って出来ることは大きく分けて四つあります。一つは「マップ」アプリから、ゲームフィールドと現在地を確認すること。また、このマップはそれぞれ縦軸、横軸の線で81のエリアに分割されており、大まかではありますが、距離も測れるようになっています。ゲームを進める際にお役立てください』


 運営の言葉を聞きながらマップを開く。こうしてみると、ゲームに使用されるフィールドは、大体一辺五キロ程度の正方形。今僕達がいる中央部には、集会所をはじめ、小さな廃村があり、その四方は森に覆われていた。また、全体的に北側の傾斜が高く、そちらの方は森というよりは丘に近いようだった。


『二つ目に、「スキャン」アプリです。これはアプリを開き、スキャンボタンをタップすることで半径十メートル内に隠されたアイテムキーなどを見つけることが出来ます。このアイテムキーは同様に隠されているアイテムボックスを開く際に必要なものであり、またアイテムキーは全て同じ形状をしています』


 アイテムキーというと、僕のクリア条件にも関係しているものだ。しかし、今の話でいくなら、七日目を迎える前にアイテムキーを五つ集めなければいけない僕はともかく、アイテムキーがクリア条件に関係のないプレイヤーについては、アイテムキーを一つ見つけた後は、あとはアイテムボックスを探すだけで済むということになるが……。


『アイテムボックスは、アイテムキーが隠された場所の数メートル以内に必ず埋まっています。しかし注意点としまして、アイテムキーを使って開錠できるのは一度きりです。開錠に使用したアイテムキーについてはその後使用できず、また所持することも出来なくなります』

「なるほどね……」


 しかし続けられた説明で、このゲームがそれほど単純な話ではないことを思い知る。

 そこで僕は思い切って質問をぶつけてみることにした。


「質問したい。アイテムボックスとやらには何が入っている?」

『アイテムボックスの中身は、プレイヤーがゲームを優位に進めるためのアイテムが入っています。例えば、このゲームではプレイヤーの皆さま自身に食糧を調達していただく必要がありますが、アイテムボックスの中には、その食糧が入っている場合もあります』

「総数はどれくらいある? まさかこのゲームは僕達に食糧の奪い合いでもさせるのが狙いか?」


 カニバリズムゲームという名前といい、我ながらなかなか良い線いっていると思ったが、その仮説は運営に否定されることになる。


『いいえ。あくまでアイテムボックスはゲームを優位に進めるためのものであり、ゲーム自体の勝敗を完全に分かつ要素ではありません。また、皆さまには出来るだけゲーム自体をクリアすることに専念していただきたいので、食糧につきましては十分な数を用意させていただいております』


 思った以上に踏み込んだ解答が返ってきて、僕だけでなく他の面々も驚いたようだ。つまり、今の質問は、ゲームを円滑に進めるうえで、それほど必要だったということ。つまり、運営側は僕達に正面からのゲームクリアを求めている――


中途半端ですがここで切らせていただきます。

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