6-4+2 ⓶
時系列的には悠馬が目覚める前です。
Side 優真
昨日起きた出来事を全て話し終えたとき、ひよりはコホンと咳払いした。
「……なるほど、そんなことがあったんだね……それじゃあ」
「その前にお姉ちゃん、さっきの空気読まない乱入を引きずってるなら早く謝った方がいいよ」
「か、勝手に心読むなし!」
まだ顔が若干赤いところを見ると、一応さっきのことは反省しているらしい。優真としては、来てくれて助かったような惜しいような複雑な感じだ。
「その話はいいんだよ! それより今後の話だ。まず優真さんと静花さんは、ひよりたちに質問とかある?」
「ううん、さっき自己紹介してくれたし、それで十分だよ。強いて言うなら、あずさちゃんの方は小鳥が大変なことをしちゃったみたいで、本当にごめんなさい」
「い、いえ、それは静花さんの謝ることではありませんし、あずさよりも悠馬さん、あ、ここにはいない方の悠馬さんに言ってあげてください」
「あ……でも、それは……」
そこで静花は言い淀み、口をつぐむ。優真も出来るだけ平静を保とうとしたが、顔は引き攣っていたと思う。なにせ、昨日の夜だけで、芽衣子と悠馬、二人もクラスメイトを失ったのだ。しかも、その一人は同じクラスメイトの手によって……。
「それなんだけど、悠馬さんともう一人……えーと、委員長さんだっけ? その二人、どちらか生きている可能性があるよ」
「えっ!?」
静花と優真の声が重なる。
言葉を続けようとした優真に先んじて、あずさが自分の携帯を見せてきた。
「残りのプレイヤー人数のところです。最初に十四人いて、昨日その二人が死んでいるなら残り十二人になっているはずですが」
「今は……十三人いる!」
静花は喜色を滲ませた歓声を上げ優真を見る。何も言わずとも気持ちは通じる。優真だって同じ気持ちだ。
「あー二人とも熱いねー」
「お姉ちゃん、そういうところだっていつも言ってるじゃん!」
外野からそんなヤジが聞こえ、優真たちは我に返り、気まずそうに目を逸らす。
顔を正面に戻せば、ニタニタという表現がしっくりくるような顔でこちらを見るひよりと目が合った。
「…………ごめん」
「いいよいいよ、お構いなく。やっぱり、こういう状況だからこそ燃え上がるものってあると思うしねぇ」
「もう、ひよりちゃん!」
静花が顔を真っ赤にして抗議の声を上げるとひよりはカラカラと笑い、その横腹をあずさが小突く。昨日あんなことがあったせいか、その光景はなんだかとても微笑ましく見えて、なんだかほっとしてしまう。
「コホン……話を戻しますね。静花さんとゆ……天道さんにお聞きしたいんですけど、昨日見たとき、悠馬さんと委員長さんは確かに死んでいたんですか?」
このままでは話が進まないと判断してだろうが、あずさの質問は急に現実に引き戻されたようで陰鬱な気分になるのは避けられない。
だが、これが生き残るうえで大事なことであるのも事実。僕は昨日の光景を出来るだけ鮮明に思い出す。
「…………委員長は、もしかしたら生きているかもしれない。沢山血が出ているのは見えたけど、ちゃんと近くまでいって確認したわけじゃないし。でも、斎藤くんの方は……」
「…………」
あずさの顔に僅かな痛みが走る。それだけで、彼女が悠馬と多少なりとも親交があったというのがうかがえる。もっと言葉を選んだほうがよかったな。
しかし、意外にもここで待ったをかける者がいた。姉のひよりだ。
「うーん、でも、決めつけるのは早計じゃないかなぁ。だって、ゲームって明らかに普通じゃないでしょ? 人間離れした力を持っている人だっているし、ひよりたちだって超能力まがいのことが出来ちゃっているわけだし。それなら、首をつなげて生き返らせるくらいこのゲームは出来ても不思議じゃないんじゃない?」
「ひよりちゃん、流石にそれは……」
静花の制するような声音は、ひよりの話が流石にありえないということか、それとも妹であるあずさに気を遣ったほうがいいという意味か。おそらく両方だろう。
だが、あずさは気にしていないという素振りでひよりの言葉に頷く。
「あずさも、お姉ちゃんの話を信じきれないところはありますが、可能性としては考えておいたほうがいいと思います。それより、あずさは人が変わってしまったという須藤友樹さんの話が気になります。話によると、その須藤さんが変わってしまう直前、役職が変更したって聞こえたんですよね?」
「ああ、考えられるとしたら、戦士の役職にも村人の『昇格』みたいな何かがあったってことだろうけど……」
友樹の名前を聞くと、今でも心に鈍い痛みが走る。
「んー、どうだろう。ひよりも、それに関しては何も知らないからなー。でも、これだけ隠されている条件が多いゲームなんだ。隠し役職とかがあってもおかしくはないかもね」
「本当にその通りです。あずさたちも、もうこのゲームのほとんどのルールは把握したつもりでしたが、今回のことでまた分からなくなりました……」
それは優真も同じ気持ちだ。最初からすべてのルールが分かっていれば、こんなことにはおそらくならなかっただろう。もしそれが運営の思惑通りなのだとしたら、彼らは正真正銘の外道だろう。
「あ、そういえば優真くん。今日って五日目じゃない?」
「うん? ……あっ!」
静花の突然の問いに首をかしげたが、すぐにその真意に気づく。
ゲーム五日目ということは、遂に『昇格』が使えるということだ。
「あー昇格かぁ。将人くんも昨日そんなこと言ってたっけ」
「あとで何にしたか聞きにいかないとね」
将人、という人物の名前は初めて聞いたが、おそらく彼女たちと同じ村人サイドのプレイヤーだろう。
そちらも気になったが、今は自分の方が先だった。
優真は携帯からスキルのアプリを開き、いつの間にか使用可能になっていた『昇格』の文字をタップする。
『昇格を発動しますか?』
その下にはイエス、ノーがあり、優真は意を決してイエスを押す。
『昇格先を選んでください。(ただし、クリア条件は変わりません)
・戦士
・占い師
・聖職者』
「選べるのは三つか……」
「え、なになに!」
「ちょ、お姉ちゃん!」
あずさの危惧通り、ひよりが携帯の中を覗こうとしてくるので慌てて隠した。こんな間抜けな形でペナルティを受けるのだけはごめんだ。
三人に昇格できる選択肢を教えると、最初にひよりが口を開いた。
「せいしょくしゃってなんだっけ? えろい系?」
「全然違う! 聖職者は一日に一回、三時間だけどんな攻撃も無効に出来る結界を張ることが出来る役職なのっ」
「ていうかそれ、二日目に悠馬さんが話してたけど?」
あずさが半眼を向けるが、どこ吹く風とばかりに流したひよりは、次に驚くべきことを口にした。
「で、静花さんがその聖職者なの?」
「え」
これには静花だけでなく優真も驚いた。
しかし、次のあずさの言葉で拍子抜けした。
「いやいや、これは別に残りのプレイヤーとそれぞれの役職当てはめていったら、役職が分からない他のプレイヤーってニ、三人しかいないから、あとは勘で言っただけですからね」
「ちょ、妹ばらすの早すぎだし!」
つまり、ただ当てずっぽうで言っただけということか。それでも当ててくるところは凄いと思うが。
別に隠す必要もない。静花が「言ってもいいよね?」と確認を取ってきたので、頷くと、彼女は聖職者のクリア条件と合わせて二人に教えた。
『聖職者(一人)…身体能力C 初期装備 杖(ランダムな攻撃魔法一つ)
身体能力は低いが、一日に一度、プレイヤーの一人にあらゆる攻撃を弾
き返す結界を張ることが出来る。
「結界」…一日に一度、プレイヤー一人に結界を張ることが出来る。効力は三時間。その間はどんな攻撃でも傷を負うことはない。
(クリア条件) パートナーを一名選択し、そのプレイヤーと130時間行動を共にする(ただし、一度決めると変更は出来ない。)』
「……ちなみに、このパートナーって」
「うん、優真くんだよ」
「デスヨネー」
ひよりが何故か溜息を吐く。「お姉ちゃん、これがリア充というやつです……」とひよりの肩に手を置いたあずさの行動も謎だ。
「まあでも、それなら? 優真さんが村人の条件をクリアする頃には静花さんもクリアしてるし? 優真さんが戦士になって静花さんを護ればいいんじゃない?」
「急に投げやりになったな……」
「いいから! さっさと決めちゃいなよー」
拗ねてしまったひよりに疑問を抱くが、あずさが「ただの僻みですから気にしないでください」と言うので、気にしないことにした。
優真は携帯に視線を戻すと、もう一度だけ確認する。俺は戦士になる。うん、これが最良のはずだ。これで静花を、みんなを護るんだ。
決意を新たにした優真は、戦士の文字をタップした。
読んでいただきありがとうございます。
視点がコロコロ変わりますが、次からしばらく悠馬視点(の予定)です




