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6-4+2 ①

「昇格でクリア条件が変更してしまっては村人のクリア条件の意味がないのではないか」という意見を頂き、村人は昇格してもクリア条件は原則変わらないことにいたしました。それにより、前話のチンピラ先輩のクリア条件も変わっていますが、近々クリア条件の一覧などの回を設けますので、そのときにでも確認してください。

Side 優真


 朝日が窓から差し込み、やがて外で小鳥たちが慌ただしく鳴き始めてからも、優真はどうすればいいのか分からなかった。

 昨日は六人もいて狭く感じていた山小屋も、今となっては逆に感じるから皮肉なものだ。もっとも、それは部屋の隅でうずくまっている優真の位置的な問題もあるだろうが。

 昨晩、優真達が友樹に追いついたときには全てが手遅れになっていた。既に無残な姿となっていた芽衣子、頭と体が分かたれてしまった悠馬、そしてその悠馬の……悠馬の、頭を踏みつける見たこともない顔をした友樹――

 止める間もなかったし、仮に止めていても手遅れだっただろう。友樹が悠馬の“ソレ”を踏み潰したとき、沈鬱な空気を引き裂くかのように電子的な音が鳴り、無機質な音声が聞えてきた。


『役職が変更されました』


 それは、二つの場所から同時に聞こえてきた。一つは友樹の携帯、そしてもう一つは悠馬の胴体の方からだった。


「ぐ、ぅ……オオオオオオッ!」

「友樹!」


 変化はすぐに訪れた。

 膝を着き、獣の咆哮の如き声を上げた友樹。その友樹が持っていた剣がみるみるうちに変色していき、やがて鍔から刀身までが赤と黒の禍々しいデザインとなったのだ。


「これって……」

「優真、友樹くんが……!」


 遥香は状況についていけず呆然としていたが、いち早く事態の深刻さに気付いた静花が優真の腕を揺すってくれたおかげで、優真も我に返ることができた。

 友樹のもとまで走り、腕を掴んだ優真は、未だ咆哮をあげる彼の肩を思い切り揺さぶる。


「友樹っ、しっかりしろ!」

「うぅ……俺に、触るなぁあああ!」

「うぐっ!?」


 しかし、友樹が片手を振るうと、優真はいとも簡単に吹き飛んだ。なんという膂力だ。


「ッ……ふぅう、ふぅう……」


 しかし、それで我に返ったのか、友樹は咆哮を止め、荒く肩で息をした。


「友樹、やっと意識がもとに……」


 しかし、優真は次の言葉が紡げなかった。

 この数秒で両頬は痩ける頬骨が突き出て、僅かな光も感知できないかのように瞳孔は開き切り、魚類のような瞳が優真を無機質に捉えている。だらりと開いた唇の隙間からは不透明の涎が流れ落ち、人懐っこそうだった顔は今や理性が欠け落ちたかのように感情が読み取れず、図らずも優真は目の前の人物が急に化け物であるかのように感じてしまった。


「と、もき……?」

「……アァ」


 その返事に、最早人間としての理性は残っていなかった。

 友樹が――友樹だった“ナニカ”が、ゆっくりと剣を上に掲げた。手足に力は籠っておらず、攻撃する素振りなど全然ないのに、優真は次の瞬間、自分がアレに斬られることを確信した。


「にげ――」


 せめて静花と遥香だけでも逃がさなくては――

 しかし、それを言う機会は与えられなかった。


「イィ!」

「――なにっ!?」


 それまでのゆったりとした動作が嘘のような速度で、友樹は虚空に剣を振るった。何かが折れて地面に落ちる。それはどこかで見たことがあるような作りの矢だった。

 友樹の視線の先を追って優真も森の中に目を凝らす。すると、木々の先に一つの影があるのがかろうじて見えた。


「シャァア!」

「ッ……くそがっ!」


 悪態を吐いて逃げ出した人影を背を向け、友樹がそれを追おうとする。

 不運だったのは、人影と友樹の間にちょうど立っていた遥香だった。


「う、嘘でしょう!?」

「は、遥香ちゃん、早くこっちに!」


 初めて聞くぐらい狼狽えた声を出した遥香は、静花の忠告を無視して森の中へ走りだしてしまった。それを追おうとした静花は、しかしちょうど進行方向に現れた友樹を前にして足を止めてしまう。


「ともき……くん……」

「アァ?」


 まるで周囲を飛ぶ羽虫でも払うかのようだった。

 片手で薙ぎ払われただけだが、それでも静花は数メートルほど吹き飛び、一本の木に背中から激突した。


「静花っ!」


 慌てて彼女のもとへ駆け込むが、静花は既に意識を失ってしまっていた。

 そのうちに友樹、そして遥香も見えなくなり、気づいたときには優真と静花以外、そこには“何も”残っていなかった。

 その後、ひとまず静花を元の山小屋へと運んだ優真は、静花が特に出血などをしていないことを確認すると、今までずっと部屋の隅でうずくまっていた。


「んん……」

「…………静花?」


 昨日のことばかりを考え、ふさぎ込んでいたからだろうか。静花が小さく息を吐き、ゆっくりと目を開いたとき、優真はそれだけで救われたような気持ちになった。

 瞼を持ち上げ、ゆっくりと焦点を優真へと向けた静花は、一拍して勢いよく起き上がった。


「優真!? あれから一体どうなッ!?」

「無理するな! 特に出血とかはないが、かなり強く背中をぶつけたんだ!」


 体を起こした途端走っただろう激痛に、静花は薄い毛布の上に再び横たわる。優真も、また友達を喪うかと気が気でなかった。


「つぅ……優真が、私をここまで運んでくれたの?」

「ああ」

「今は何時?」

「……午前八時過ぎ。あれから一晩明けた後だ」

「他のみんなは、どうなったの」

「………………」


 その質問に優真は答えることが出来なかった。

 静花は優真の無言と、部屋の中に二人しかいないことを確認し、小さく息を吐いた。


「そう、なんだ……。それじゃあ、早く行かないと……!」

「静花ッ!? おい、何しようとしてるんだ!」

「なにって……みんなを捜しに行かなくちゃ……!」


 苦痛に顔を歪めながらも、体を起こそうとした静花のその言葉に優真は言葉を失った。

 静花は小さい頃、会った時からそうだった。彼女は友達のためならば迷わない、なんだってする。この小さな体のどこに、そんな強さがあるのだろうか。


「優真くんだって……そうでしょ?」

「え?」

「何があっても、変わらない。私たちは協力しあってゲームに生き残って、みんなで学校に戻る。そう言ったのは優真くんだよ」

「…………ッ」

「優真くんは、昔から人より沢山のものが見える分、色々と考えすぎなんだよ」


 静花は困った顔で笑う。自分は、この笑顔と優しさに、一体今までどれだけ甘えてきたのだろうか。

 今だって静花は体が痛むはずだ。それなのに、彼女に無理に笑顔を作らせて、これで腑抜けたままでは、俺は男じゃないだろ……!


「――ああ、分かったよ。けど、静花はここで安静にしていてくれ。しばらくは、怪我を治すことを優先するんだ」

「そんな、私は大丈夫だよ!」

「静花にはいざというときに動いてもらわなきゃならない。それに、友達をこれ以上失いたくないんだ……」

「優真くん……」


 俯いた優真の頬に暖かいものが触れた。

 顔を上げると、静花が優真の頬をそっと撫でていた。


「静花……」


 びっくりするほど間近にある幼馴染の顔に、優真は小さく息を呑んだ。


「私は、いなくなったりしないから……」


 潤んだ静花の瞳に吸い込まれる。

 そして、徐々にその瞳が大きくなっていったとき――


「二人っきりのところ失礼しまっす! なんか昨日の夜色々あったっぽかったのでそのお話を聞かせていただきたいなぁなんて思い、手土産片手にやってきたわたくし、椎名ひよりと言う者なんです……けど……」


「「~~~~ッッ!」」


 慌てた拍子にお互いの額をぶつけ、のたうち回る。

 その光景をポカンと見つめるひよりに向けて、後ろに立っていたあずさは小さく呟いた。


「…………ほんと、姉さんが失礼でごめんさない……」


読んでいただきありがとうございます。

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