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ゲーム開始(真)

感想で頂いた意見に、「悠馬のドロップスキル『超聴力』が強すぎるのではないか」という御指摘があったため、効果に「このスキルは取得してから三日後に失われる」を追加しました。

これからもこのような御指摘頂けると幸いです。

『役職が変更されました』


 聞こえてきた言葉と共に意識が覚醒した。

 体を起こし、早速携帯から『プレイヤー情報』を確認すると、確かに役職が変わっていた。


『復讐者

 身体能力A 装備 呪いの鎖、破壊の鉈

 村人が戦士に殺害されることによって発現する特殊役職。クリア条件は厳しめだが、襲撃能力に優れたスキル、武器を持つ。

「嗅覚」…「マップ」に他プレイヤーの現在地が表示される

「呪いの鎖」…対象めがけて、自律的に追尾する

「破壊の鉈」…打ち合わせると、対象を破壊することがある』


「へぇ」


 少しだけ驚いた。村人の時から比べるととんでもないスキル、武器ばかりだ。ただ、クリア条件が厳しいという言葉が引っ掛かる。

 次に、肝心のクリア条件について確認する。


「…………」


 驚きはなかった。復讐者の能力、スキル構成を見れば、ある程度予想もつくだろう。それでも、実際にこうしてクリア条件を目にすると、それなりに衝撃はあった。

 深呼吸し、気持ちを引き締める。

やるしかない。斎藤悠馬のような甘い考えではこのゲームには生き残れないと身を以て体感したではないか。自分が勝つためには手段を選ばずにクリアを目指すしかない。

 決意を新たにした僕は、次に腰に付いていた鎖、鉈をその場で確認する。最早このゲームに常識が通用しないことは理解した。この二つの武器も説明にこう書いてあるということは実際にそういう能力を持っているのだろう。鉈の方は見たところ特に変わった所は見当たらない。強いてあげるとすれば、やけに古い、というか使い込まれている感じがすることぐらいか。

 違いが極端に分かったのは鎖の方だ。鎖は長さが五メートルほどで、モンブランケーキのように綺麗にグルグル巻かれて収納されていたせいかほとんど邪魔には感じなかった。先端には鋭利な太い釘のようなものがくっついており、人に刺さればそれなりの殺傷力がありそうだ。試しに適当な木に向かって鎖を投げれば、見事に先端は幹の深くまで突き刺さった。


「そんなに強く投げたわけじゃないんだけど……」


 これも呪いの鎖の能力のおかげだろうか……いや、そういえば復讐者の身体能力のところはAと書かれていたから、それが原因だろうか。

 どちらにせよ、これならクリア条件を満たすことも不可能ではなさそうだ、と考えながら、僕は早速マップを開き、復讐者の「嗅覚」を使って他プレイヤーの位置情報を確認することにした。

 生憎、プレイヤーの名前までは表示されなかったが、マップには確かに十四名のプレイヤーの位置情報が表示されていた。これは他のプレイヤーにはない絶大なアドバンテージだといっていいいだろう。僕は復讐者の凄まじい性能にほくそ笑んだが、しかしこれでは復讐者が簡単に勝利してしまうのではないか、とも考えた。

 これまでを見る限り、このゲームの運営は性根が腐っているのは確かだが、そこにはゲームを盛り上げたいという意思が明確に示されているように思う。ならば、彼らにとってゲームが特定プレイヤーの独壇場になるような状況は避けるはずだし、ならば僕――復讐者に対抗する役職がいたとしてもおかしくない……いや、むしろいることを前提にして行動した方が良いだろう。

 しかし、だからといって他のプレイヤーが脱落するのを待っているというわけにはいかないし、やはり基本は僕自身が動き、クリア条件を満たす必要があるだろう。そこで僕は早速一番近くにいる、というかここから数十メートル範囲内にいるプレイヤーの元に向かうことにした。






「…………あいつかよ」


 木の幹に隠れた僕の視線の先には、懐かしい男が立っていた。


「ひゃははははぁ! やったぞぉ!」


 一人で高笑いしているその男こそ、僕がゲームで初めて出会った相手、チンピラ先輩である。

 既に腰には剣を提げている彼だったが、今ちょうどアイテムボックスを見つけたところらしく、中から出てきた拳銃を見て小躍りしているところだ。ていうか、喜んで本当に小躍りする人間を僕は初めて見た。


「ま、いいや」


 最初に会った時の僕でさえ勝てた相手だ。大した役職ではないだろうし、さっさと終わらせるとしよう。

 僕は音も無く鎖を取り出すと、チンピラ先輩へと投擲する。空気を切り裂くようにして伸びた鎖は、狙い誤らず彼の背中に深々と突き刺さった。


「ッ、いってぇえええええええ!!」


 間抜けな悲鳴を上げるチンピラ先輩。僕が鎖を思い切り引っ張ると、彼は飛ぶようにしてこちらへと引き寄せられた。


「ぐぇ!」


 近くにあった木に叩きつけられたチンピラ先輩だが、こちらを睨んだ目にはまだ闘志が残っていた。普通の人間なら既に重傷のはずだが……。


「殺すッ!」

「!」


 剣を抜き、飛びかかってきた彼の速度は常人とは一線を画していた。数歩分の距離を一秒とかからずに縮めた彼は、剣道の達人もかくやという速さの袈裟斬りを放つ。

 だが、僕はもう村人ではなく復讐者、身体能力は最早人間のソレを軽く超えている。チンピラ先輩の攻撃を鉈の腹で受け止めた僕は、そのまま刃の部分を寝かせて剣をいなし、返す刀でチンピラ先輩の右腕を切り裂く。少し浅かったか、と思ったが、鉈が彼の腕を捉えた瞬間、その右腕が風船のように破裂したのだから僕も驚いた。


「は? ――がぁあああああああッ!!」


 今度こそ、正真正銘の悲鳴を上げ、チンピラ先輩は地面に倒れた。左手で右肩の付け根を塞ごうとするが、半熟卵を割ったかのごとく、血は一向に流れ続ける。


「ああ、今のが破壊の鉈の効果なのね」


 一拍遅れて、目の前の惨状の原因を理解した僕は満足げに頷いた。チンピラ先輩の背中から鎖を引き抜くと、彼は恐慌状態にありながらも、なんとか逃げようと走り出す。


「逃がすわけないじゃないですか」

「はがぁ!?」


 その足に再び鎖を投げると、鎖はまるで生き物のように蠢き、チンピラ先輩の膝を貫通した。

 走った勢いを殺せずに転がったチンピラ先輩を、そのままこちらへ引き寄せ、鉈で軽く足を小突く。


「あれ、爆発しない」


 そのまま三回、四回と鉈で足を小突き、五回目でようやく足が破裂した。チンピラ先輩の絶叫と飛んできた血飛沫に僕は僅かに眉を顰める。


「あとで水浴びしないとな……」

「も、やめて……ゆるひて……」


 顔に飛んだ血を制服の袖で拭い、今度は左手を鉈で小突いてみる。今度は三回目で能力が働き、チンピラ先輩が遂に泣き始めた。


「お、おれの、うで……あしぃ……」

「あともう少しですから我慢してください」


 残った右足を小突くと、一回で能力が発動した。チンピラ先輩が小さく震える。これで五分の二、能力が発動する確率は四十%ということだが、いかんせん試行回数が少ないため、データとしての信憑性は低い。


「あ……」


 気づけばチンピラ先輩が死んでいた。出来ればプレイヤー情報を他者に見られた際のペナルティを確認したかったのだが、おそらくペナルティは死人に対しては有効にならない気がする。

 それでも一応確認はしてみる。すっかり血を吸って重くなったチンピラ先輩の制服のポケットから携帯を取り出すと、僕はプレイヤー情報を確認しようとするが手が血で汚れているせいでなかなか携帯が反応しない。血なまぐさいし小便臭い、更に体中ベトベトするし、誰かが来る前に先にここを離れた方が賢明か。

 そんなことを考えていたら、ちょうど携帯が反応してプレイヤー情報が現れた。


『茂木武夫

役職 村人→戦士

(クリア条件) 未使用のアイテムキーを五個所持した状態で七日目を迎える』


 プレイヤー情報を見た後も、やはりチンピラ先輩こと茂木武夫の死体に変化はなかった。まあこれに関してはおまけみたいなものだったしそこまで落胆はない。

 それよりもプレイヤー情報を見て僕は重要なことを思い出した。それは、今日がゲームが開始されてから五日目、つまり村人の『昇格』が可能になる日だったということだ。

 茂木が剣を持っていたこと、そしてあの身体能力の高さはこれが原因だろう。勝てたから良かったものの、次からは村人だと分かっているプレイヤーに対しても役職が変わっていることを考慮しておかねばならない。

 しかし、茂木の役職が予想通り村人だったということは、これでクリアに一歩近づいたことになる。これをあと何回続けなければならないかを考えると溜息が出るが、くよくよ悩んでいてもしょうがない。

 まずは水浴びだ。それが終わればまたプレイヤーを狩る。残りはまだまだいるのだ。サクサクやっていくとしよう。


読んでいただきありがとうございます。

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