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予兆

Side 悠馬


 アイテム探しをしている最中にあずさと出会った。


「お」

「あ」


 まさかこんなところで会うとは思わなかったのでお互い間抜けな声が出た。近くで同じく探索していた柚希が何事かと歩いてくる。


「あ、その方が例の無銭治療された柚希さんですか」

「……だれ?」

「あ、すみません。申し遅れました。あずさは、星浦高校一年三組椎名あずさと言います」

「あ、あの漫才姉妹の……」

「ちょっとぉ!? 今聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたんですけどぉ!」


 最近あずさは実は大人しいのではないかと思っていたが、どうやら姉の方がうるさすぎるだけらしい。というか、ひよりの姿が見えないのだが……。


「あずさ、お姉ちゃんはどうした?」

「悠馬さんのお姉ちゃんじゃありませ」

「ああもう、そういうのいいから」

「……お姉ちゃんは将人さんの方に行ってます。お姉ちゃん、結構あの人のこと気にしてるみたいで……」

「ホの字なのか?」

「先輩その表現オヤジ臭い……」


 柚希に割と真顔で言われてショックを受けた。

 でも、確かに最近は聞かない。


「まあ、それであずさは一人寂しくアイテム探しってわけか」

「はい。将人さんがどうやらこの辺りに潜伏してるらしいので、それから移動しようとしてたところです。それより悠馬さん」


 あずさが小さく手招きするので、一歩近づくと、そのままヘッドロックされかけた。


「うわ、あぶね!」

「わお、すごい反応ですね。何か武道でもやっていらしたのですか?」

「いや、やってないけど。それより、なんだよいきなり」

「いえ、ちょっと内緒話したかったので」

「内緒話はヘッドロックしないと出来ないのか……」


 すると柚希が意外そうな顔で訊いてきた。


「え、先輩って武道やってないの?」

「やってないけど」

「柔道やってると思ってた」

「なんでだよ」


 見た目そんなに柔道家っぽいのか。


「いやだって、初めて会った時、あいつを投げ飛ばしてたじゃん」

「あいつ?」

「チンピラ男」

「ああー」


 そんな奴もいたっけな。ていうか、チンピラは共通認識だったのか、あの先輩。


「いやぁ、なんか、あのときは無我夢中だったから」

「ふーん」


 適当に誤魔化したが、確かに、あのときはなんであんなに綺麗に投げ飛ばせたのだろう。僕の記憶にある限り、斎藤悠馬は柔道をやっていた経験はないはずだが……。


「……で、悠馬さん。ちょっとお話いいですか?」

「なんだよ。柚希に聞かれちゃまずい話なのか?」

「ああもうっ、どうしてあなたはそんなにデリカシーがないんですかねっ! もういいですよ! 柚希さんの話です! 彼女はどうして傷だらけで悠馬さんの前に現れたんですか?」

「あー、それはまだ聞けてねえや」

「なんでですかっ!?」

「本人がまだ心の整理中なんだ。人が話したくないことを無理に訊きだすのも気が引けるだろう?」

「悠馬さんが言うと、急にきな臭い言葉に聞こえてきます」

「ていうかそれ、本人を前にして言う事じゃ無くない?」


 後輩女子二人から生ぬるい批判を受ける僕。間違ったことは言っていないはずなのだが……。


「はぁ……まあいいです。そのかわり、明日までにはちゃんと聞いておいてくださいよ」

「そこまで言うならあずさが今ここで直接柚希に聞けばいいだろ」

「そんなデリカシーのないことできません!」

「えーここまできてそれ言うー?」


 あずさはデリカシーの言葉を今一度調べ直した方がいいかもしれない。ついでに「自分を棚に上げる」も調べるとなお良いだろう。

 そんな感じであずさと別れたあと、柚希が独り言のように言った。


「良い人だね」

「そりゃ、漫才姉妹の妹だからな」

「先輩そのあだ名知ってたの?」

「さっき初めて聞いたけど、なんかしっくりくるわ、それ」

「そうなんだ」


 姉妹揃って見てみたかったな。


 柚希のその言葉に、何故か僕は言葉を返すことが出来なかった。

 それは、これから起こることを、直感的に予期していたからかもしれない。






Side 優真


「今日は久しぶりに腹が膨れそうだな」


 帰り際の友樹の言葉通り、今日の収穫は大きかった。

 これだけの量があれば、六人でも丸二日は保つだろう。優真の予想通り、フィールドギリギリのラインは未だ他のプレイヤーが訪れた様子はなく、手付かずの食糧が沢山あったのだ。

 アイテムキーもいくつか回収でき、既に村人一人分のクリア条件は満たす量になった。

 これで最悪、七日目にこれを委員長に渡せば、彼女だけでもクリアできる。そんなことを考えていると、あっという間に小屋まで戻って来た。アイテム探しに少し夢中になりすぎたか、既に日は沈みかけ、辺りは薄暗くなり始めていた。


「二人とも、戻ったよ――」


 中に入った優真たち。しかし、その中が無人だということを知り愕然とした。


「いない――?」

「みて! メイちゃんの弓が!」


 静花の指摘通り、アイテムボックスから手に入れていた弓は弓道部である芽衣子に護身用として渡していたのだが、それは今忽然と消えていた。

 芽衣子、未来の行方不明、そして弓矢の消失、考えられる事態はどれも楽観できるものではなかった。


「くそっ!」

「友樹っ!」


 真っ先に小屋から飛び出したのは友樹。戦士である彼の脚力は、一歩で数メートルの距離を縮める。


「みんなは小屋にいてくれっ! 俺が連れ戻してくる!」


 そう言い残した友樹だったが、そんなことが出来るわけない。


「ていうか、あいつ委員長たちがどこに行ったかも分からないでしょ……!」


 遥香は占い師の杖を握り、一緒に捜しに行く意志を見せる。

 静花の方を見ると、彼女は何も言わずにただ頷いた。


「よし、いこう……!」


 優真たちは、かろうじて背中が見える友樹を追い、小屋を飛び出した。


続きは今日中に更新します。

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