優真パーティー
Side 優真
「未来っ、大丈夫か!」
突然銃声が聞こえ、みんなで急いで向かったとき、未来は昨日優真たちが焚火をしていたところで立ち尽くしていた。
「うええぇぇ、ゆうまぁ!」
「未来っ!?」
振り向いた未来の顔は涙ですっかりぐしゃぐしゃになっていて、そのまま優真の胸へと飛びついてきた。
「怖かった、怖かったよぉ……!」
「一体、何があったんだ……?」
「喰人が……斎藤くんがいたんだよぉ!」
「なんだって!」
それには、優真だけでなく静花と遥香も驚く。
「斎藤くんはどうして……!」
「分かんない。けど、優真たちを捜してた、きっとまた未来たちを襲うつもりだったんだ!」
「待って未来ちゃん。今朝も言ったけど、昨日のあれが斎藤くんの仕業だっていう証拠はないんだよ?」
「でも、斎藤くんがいなくなってすぐ未来たちは襲われたんだよ! タイミングが良すぎるよ!」
「それは……」
未来の言葉に静花は言葉に詰まる。
昨日の襲撃で、優真たちに誰一人犠牲者が出なかったのは奇跡に近かった。とはいえ、敵の初弾で金木は腕に負傷したし、そのあと散り散りに逃げた結果、金木と柚希とは離れ離れになってしまった。
今日の朝、あの襲撃者についての話になったが、暗がりで姿は見えず、武器にボウガンを使うことぐらいしか分からなかった。そして、そのときから未来はあの襲撃者が斎藤悠馬に違いないと言っている。それについて優真と静花、遥香は懐疑的だったが、確かに彼が姿を消したタイミングと襲撃の瞬間が偶然にしては出来過ぎていると思えるのも事実で、優真たちは結論を出せずにいた。
「――おいおい、なんだよ、優真たちじゃんか」
混乱する優真たちに不釣り合いの、やけに拍子抜けしたような声が掛かる。
弾かれたように全員がそちらを向くと、懐かしい顔がほっと顔で笑っていた。
「友樹……芽衣子……!」
「久しぶりだな、みんな!」
銃声を聞きつけてやってきたという須藤友樹と間島芽衣子は優真たちの仲の良いクラスメイトだ。
友樹は優真にとって気が合う特に仲の良い友達で、学校ではほとんどの時間は彼と一緒にいる。日焼け顔の通り、小学校から野球一筋のスポーツ少年で、運動神経も高い。
間島芽衣子はクラス委員長を務める真面目な女の子で、眼鏡とおさげ頭がトレードマークだ。学校にいるときは、甘えん坊の未来や自由すぎる遥香に対して甲斐甲斐しく世話を焼いている印象が強い。
「――そうか、そんなことがあったのか」
そんな二人と合流した優真たちは、一度場所を変え、小川付近で休憩を取っていた。
泣き続けていた未来も今は落ち着き、体育座りをして膝に顔を埋めている。
「ああ。正直、俺としては斎藤くんを信じたいけど、未来の言い分も捨てきれないと思っているのが現状だ。仲間を信用しきれないなんて、恥ずかしいばかりだけど」
「いや、まあ斎藤に関しては学校で特に親しくもなかったんだししょうがねぇんじゃねえか? てか、俺としてはあの斎藤が人を襲えるようなタマとは思えねえけどな」
「さ、斎藤くんはひどい人だよ! さっきだって未来のこと襲おうとしてっ!」
「未来ちゃん、落ちついて」
静花は先ほどまでのように未来の背中を擦る。それを遥香は冷めた目で見た後に、
「いや、いきなり銃を向けられたら誰だって驚くし、殺されないようにしようとするでしょ。てか、なんで優真が持ってた銃を未来がもってんの?」
と、逆に刺激するような言葉を掛けたために優真は慌てる。
「遥香! もう、未来だって混乱してるのよ、今は気を遣ってあげて!」
「…………ごめん」
しかし、その前に芽衣子が慣れた様子でそう遥香を叱りつける。おかげで、未来もまたパニックになることもなかった。
「ありがとう、委員長」
「いいわよ、慣れてるし。でも、須藤くんの言う通り、私もあの斎藤くんが人を襲うなんて信じられないわ」
「そうかな?」
「ああ。まず第一に、優真に対して斎藤がタメ口で話したってこと自体も信じられねえくらいだ」
「え、そんなに」
友樹の言葉に優真は驚く。確かに、クラスで見る斎藤は物静かなイメージではあったが、同級生に対してタメ口をきくくらい別におかしいとは思わないが。
「友樹くん、でも今はこんなおかしなゲームに巻き込まれてんだよ? そんな中でみんないつも通りにするっていうのも難しいじゃないかな? 特に、私たちはこうやって仲の良い友達が一緒にいたけど、斎藤くんにとっては、自分だけ違うグループの中にいるってことになるわけだし……」
「んー……まあ、確かにそれは静花の言う通りだな」
友樹は顎を擦った後、
「よし! 今はその話は一旦置いといて、今はこれからの話をしようぜ」
「自分で話を振っといたくせに……」
芽衣子の指摘は友樹には聞こえなかったようで、そのまま話を続ける。
「俺と委員長は、ゲームが開始してすぐに会って、その説明会にも行こうとしたんだが、俺たちが最初にいた場所が結構丘の上の方でな。俺一人ならそれでも間に合ったんだけど、委員長の体力が心配で、結局行けなかったんだ」
「悪かったわね。だから須藤くん一人でも行ってって言ったのに……」
「女の子一人を置いていけるわけないだろ! まあそんで、詳しい話は分からなかったが、委員長と俺とでも役職の話はしていて、やっぱり結論として、役職とクリア条件は公表して、出来るだけ協力した方がいいと思ったんだ!」
「けど、もしもクリア条件が競合したら……」
「ルールにも書いてあったけど、同じサイドのプレイヤー同士なら、クリア条件は競合しないんだろ? それに、もしも競合したら、そのとき話し合って、上手いこと解決策を見つければいいだけじゃんか!」
「だけじゃんかって……」
「遥香、気持ちは分かるわ……」
呆れた声音の遥香に、芽衣子が頷く。友樹らしい行き当たりばったりな考え方に、彼女もけっこう頭を痛めたのだろう。
しかし、友樹のいう事はある意味的を得ているかもしれない。クリア条件の競合や喰人ばかりを警戒して、村人サイドでいつまでも疑心暗鬼になっていては、結果的にゲームクリアは遠のいてしまう。幸い、ここには遥香という村人サイドにとって強力な役職である占い師もいるのだ。もしも何か怪しいことがあるプレイヤーは遥香に占ってもらえば良いのだ。昨日のように襲撃してくるプレイヤーがいることを考えれば、協力体制を築くことは早急の課題である。
優真は今自分の考えていた話を、そのままみんなに伝えると、それぞれ承諾の言葉が返ってきた。
言い辛いことだが、元々仲の良いグループの人間だけになったことで、みんなの一体感が増したのも理由だろう。
「それじゃあ、最初に役職とクリア条件を確認しようぜ。俺の役職は『戦士』、クリア条件は遭遇した村人サイドのプレイヤーを脱落させないこと。つまり、お前らがクリアすれば俺もクリアになるってことだな」
言い出しっぺから、とばかりに喋る友樹だが、その内容に優真たちは顔を曇らせる。
「お、おい、それって、ここにいる俺たち全員をクリアが条件ってことか?」
「ああ、そうだけど?」
「そ、それってかなり難しいんじゃない?
「大丈夫だって静花。なんたって俺は『戦士』だからな」
そう言って友樹は笑うと、腰に挿していた剣を叩いた。
それは優真もずっと気になっていたのだが、今まで聞くことが出来なかった。
「それって、戦士のプレイヤーに始めから配られているアイテムか?」
「ああ。目が醒めたときからこれは持ってたな。それに、俺の体も起きてからスゲーんだ。まるで超人にでもなったみたいなんだぜ」
そう言って友樹は目の前で軽く跳んでみせた。いや、正確には飛んでみせた。
「えっ……!?」
既に知っていたらしい芽衣子以外は驚きの声を上げる。
なんと友樹は、軽く跳躍しただけで自身の身長の二倍近くの高さを跳んだのだ。
「これで試合に出れば、一人でも勝てちまうだろうよ」
軽く着地した友樹はニヤリと笑う。
「友樹、今のは……」
「ああ、俺も最初は驚いた。しかも、本気出せば五メートルくらいは飛べるんだぜ?」
優真は開いた口が塞がらなかった。急に現実がゲームのような作り物めいた物に錯覚される。それほどに、目の前で起こった出来事は現実離れしていたのだ。
「……あの、実は私も昨日は言えなかったんだけど……」
更に、遥香がおずおずと口を開いたとき、彼女が何をするのか半ば予想できている自分がいた。
何故なら、『占い師』の初期装備にも『魔法の杖』というアイテムがあったはずだからだ。
「……えい」
遥香が取り出したのはペン程度の長さの短い杖。そして、杖を構えた彼女が小さく声を出したとき、杖の先端から何かが勢いよく飛び出した。
ずずぅうん、という重い音。見れば、遥香の先にあった木が、根本から切り倒されていたからだ。
「ばっ……!」
芽衣子が言葉を発しようとしたとき、既に支えを失った木は倒れ始めるところだった。
「おおっ……!?」
幸い、木は優真たちとは逆方向に倒れたため大事には至らなかったが、一瞬肝が冷えた。
「ばかっ!」
「ご、ごめん!」
珍しく遥香が慌てたように頭を下げた。しかし、優真は目の前で起こった出来事を受け入れるのに必死だった。
つまり、説明会で運営が言っていた身体能力の話についても事実だったということだ。到底信じられないことだったが、目の前で友樹と遥香が実証したことで認めざるを得なくなった。そして、同時に出てきた危険性として、昨日襲ってきたプレイヤーや、喰人などが、今のような超人的な力を持っているかもしれないということだ。
いや、このゲームは平等性を重視している。数が多いであろう村人サイドを考えると、向こうはこれと同等、いや、それ以上の力を有している可能性は高いといえるだろう。そうなると、やはり村人サイドで協力することは必須なのだ。そのためには、やはり悠馬についても、役職をはっきりさせておかねばならない。
優真はそう決心するのと同時に、クラスメイトを疑わなければならないという事態を招いたゲームの運営を深く恨んだ。
読んでいただきありがとうございます。
次回から悠馬視点に戻ります。




