ゲーム開始
最後まで走りきれるよう頑張ります。
Side 悠馬
『ゲームが開始されました』
聞こえてきた言葉と共に意識が覚醒した。
体を起こして周りを見渡すと、どうやらここは森の中のようで、自分はわざわざ森に来て昼寝をするような不思議ちゃんだったかと頭をひねる。
えーと、どうして僕はここにいるんだっけ。
記憶を探ってみるが、思い当たる節はない。最後の記憶は学校からの帰り道、特に変わったことはなかったと思うが……いや、違う。
そういえばあのとき、僕は家を目前にして突如意識を失ったのだ。とすると、これは拉致でもされたのかということになるが、それならばこんな森の中を一人にされるとは思えない。では一体どういうことなのか。
そこで僕は、先ほど聞こえてきた言葉を思い出した。確か、「ゲームが開始されました」だっただろうか。やけに機械っぽい無機質な声だったが、あれはどこから聞こえたのだろうか。
自分の体を見下ろすと、僕は学校の制服に身を包んでいた。下校時に連れ去られたのだから、それ自体はおかしいことではないのだが、問題は学生鞄などが無くなっているということだ。制服のポケットをまさぐっても、特に持っている物は……いや。
指先に堅い感触があり、ズボンのポケットからそれを取り出すと、それは一台の携帯、いわゆるスマホというやつだった。よもやこれだけ残っているのか、と僕は驚く。これが誘拐だとしたら、犯人たちは相当の間抜けだろう。
しかし、よく見るとその携帯は僕の持っているスマホではなく、全く見覚えのないものだった。ということは、僕を連れ去った人物がポケットに入れたということになるが、だとするといよいよもって向こうの意図が分からない。
とりあえず物は試しに携帯を起動してみる。
「一日目 12:01」
携帯のトップ画面にはそう表示されていた。
一見、特に変わったことはなさそうに見えるが、すぐに時間の上にある「一日目」という単語の存在に違和感を覚える。携帯には指紋認証のロックが掛かっていたが、試しに僕の指を置いてみるとロックが外れてしまった。既に頭の中は疑問符だらけだったが、それらは一旦棚に上げ、今は携帯を使って情報を集めることを優先させる。
携帯にはアプリがいくつか入っており、それ以外の機能はどうやっても使うことが出来なかった。電話は使えないし、ネットもつながらない。メールだけはどうやら使えるようだが、試しに知っているメルアドにメールを送ろうとしたが、案の定送信は失敗だった。受信専用なのかもしれない。
メールは諦め、次にインストールされていたアプリを確認する。アプリの数は全部で五つ。「マップ」、「スキャン」、「スキル」、「プレイヤー情報」、「ルール確認」だ。ここにきて、僕はようやく今の状況を理解し始める。それは到底信じられないような仮説だったが、「ルール確認」というアプリを開き、それは確信へと変わった。
カニバリズムゲーム
①あなたはカニバリズムゲームに参加しました。途中辞退は認められず、ゲームに敗退した場合やルール違反をした場合、ペナルティが発生します。
②あなたたちにはこれから「カニバリズムゲーム」を行ってもらいます。ゲームに勝利するためには各プレイヤーに定められた「クリア条件」を満たす必要があります。また、プレイヤーは村人サイド、喰人サイドに別れています。クリア条件はプレイヤーごとに異なっていますが、原則同じサイド同士のプレイヤーのクリア条件は競合しません。同じサイドのプレイヤーと遭遇した場合、積極的に協力すると良いでしょう。なお、クリア条件については携帯から確認してください。
③プレイヤーには一人一台ずつ、そのプレイヤー用の携帯が支給されています。ゲームを有利に進めるうえで必要な物となりますので、紛失等に気を付けましょう。
④携帯は、以下の機能を使用することが出来ます。
(1)「マップ」からゲームフィールドと現在地を確認する。
(2)「スキャン」から、半径十メートル以内に隠されているアイテムキーを表示する。
(3)「スキル」から、パッシブスキルの確認やアクションスキルを発動する。ただし、他のプレイヤーにこの画面を見られた場合、ペナルティが発生する。
(4)「プレイヤー情報」から自分の役職やクリア条件を確認する。ただし、他のプレイヤーにこの画面を見られた場合ペナルティが発生する。
(5)プレイヤーの残り人数を確認する。
(6)現在の時刻を確認する。
⑤フィールド外にプレイヤーが出ることは出来ず、破るとペナルティが発生します。
⑥プレイヤーは以上のルールに抵触しない限り、あらゆる行動が容認されます。
「カニバリズムゲーム……ね」
その醜悪なゲーム名に僕は苦笑を漏らす。
ここに書かれているペナルティというのがどういうものなのかは分からないが、まあまず生易しいものではないだろう。それはゲームの名前からも想像できたし、何故か負ければ死ぬだろうということがはっきりと分かった。どうやら僕はデスゲームに巻き込まれたらしい。自分のツキの無さに軽く肩を落とす。
とはいえ、巻き込まれたからにはやるしかないだろう。次に、「プレイヤー情報」を確認してみると、そこには「残りプレイヤー 14名」という表示と、その下に自分の名前があった。
『斎藤悠馬
役職 村人
身体能力B、初期装備 なし
村人サイドの一般的な役職。特に突出した能力を持たないが、条件を満たすことで
異なる役職に変化する「昇格」というスキルを持っている。
●昇格
五日間生存することで、いずれかの役職に変わることが出来る。また、プレイヤーを殺害することで昇格の条件を早めることが出来る。昇格先の候補についてはプレイヤーによって異なる。
(クリア条件) 未使用のアイテムキーを五個所持した状態で七日目を迎える』
僕の役職は村人、説明を見る限り特に変わった能力はない。一般役職みたいなものだろう。クリア条件に書かれている内容は比較対象がないながらも、それほどハードルの高い条件とも思えない。
また、スキルという欄に書かれた「昇格」という文字も気になる。そもそも、スキルといえばあれだ、ゲームとかに出てくる必殺技みたいなやつだろう? 見た限り、「昇格」というスキルは、今は使えるわけではないようだが、役職によっては必殺技みたいなやつがあるのだろうか。そして、昇格の条件に当たり前のように書かれている「殺害」という文字。おそらくこれは比喩的な表現……ではないだろうなあ。出来れば人なんぞ殺したくはないが、他のプレイヤーがどう考えているかは分からない。他にどのような役職があるかは分からないが他にプレイヤーに会った際には用心するに越したことはないだろう。
次にマップの確認を……と思ったところで、悲鳴が聞こえた。
携帯を弄る手を止めて顔を上げると、もう一度悲鳴が聞こえた。絹を裂くような女の悲鳴だ。
少し迷った結果、僕はとりあえず声の方へ移動してみることにした。体を沈めて草木に身を隠しながら進んでいくと、やがて少し拓けた場所に一組の男女がいた。
読んでいただきありがとうございます。
これからよろしくお願いいたします。