表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

9、体温

拓の匂いがする。

甘いフルーティな香り。

使っているシャンプーの匂い。


私は、拓のサラサラの髪に指を通す。

心臓が、ギュウってなって全身が心臓になったみたいにドキドキしてる。

黒眼がちの拓の目を真っ直ぐに見つめる。


なんて幸せなんだろう。

言葉で、しあわせと表現してしまうと簡単だけど…。


これまで生きていてよかった。


今まで、自分の歩んできた人生を許せるぐらい。


拓の細い背中に手をまわして、彼の存在を確かめ続ける。

拓はこんなに近くにいるんだと。


初めて拓とお互いの存在を確認しあった日をいまも覚えている。


私が、大学が休みの平日拓は制服姿で来た。

突然、ドアをコンコンとノックする音。

布団の中にいた私は急いでロフトから降りる。

のぞき穴から見ると、拓が立っていた。

白いシャツにネクタイ、制服のズボンを緩くはいてる。


急いでチェーンを外す。


「おはよう。どうしたの?」


「眠い。」


拓は、そういうと鞄を置いてロフトに上がっていく。

私も拓と、一緒に布団の中に入る。


私たちは、学校を休んでこんな事をよくしていた。

部屋も明るいから、拓の綺麗な肌がよくわかる。

何度、拓の体温を感じても足りないぐらい私は拓を求めていた。

あんなに、数えきれない程拓の体を見てきたのに5年経った今はどんどん記憶が

奪われて私の中の拓の笑顔の記憶しかない。

どんなに拓を好きでいても、こうやって人間の記憶はどんどん奪われていく。

日々新しい記憶へと、塗り替えられていく。

それでいいのだろう。


どうやって、拓を忘れたらいいのだろう?


別れて一年ぐらいはそんなことばかり考えてた。

一年の苦しみの後には、この思いを抱えて生きていこう。

そう覚悟した。

そうやって、私はここまで生きてきた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ