7、試練の始まり
「やっと終わったあー。」
私はそういうと、バイトを一緒にあがった涼子ちゃんと事務所の椅子に腰を下ろす。
「これから、ちょっと直ちゃんの家に行っていい?」
涼子ちゃんがちょっと深刻そうな顔で言う。
「どうしたの?」
私は、心配そうな顔で言う。
「ちょっと、女同士の話がしたくて…。」
「オッケー、じゃ早く着替えて帰ろう!」
「ただいまー。」
私は、そういいながら部屋のドアを開ける。
「一人暮らしなのにただいまっていうの?」
涼子ちゃんが笑いながら言う。
「そう、最近言うようにしてるの。そうするといいらしいよ!」
私は、そういいながら部屋の電気をつける。
部屋の丸いテーブルに置かれたキャラクターが付いた灰皿。
その灰皿を見て涼子ちゃんの顔つきが変わる。
「大朝さんよく来るの?」
涼子ちゃんが言う。
私は、大朝さんという単語に同様してしまう。
けれども、平静を装い飲みものを用意しながら涼子ちゃんに言う。
「ちょっとまって…その辺ゆっくり話すわあ…。」
私は、オレンジジュースを涼子ちゃんに渡す。
「ありがと。」
涼子ちゃんは、そう言って受け取るとすぐに言葉を続けた。
「今日は、直ちゃんに相談があって…。」
しっかりものの涼子ちゃんが相談なんて珍しい。
「どうしたの?珍しいね!」
「実は好きな人ができたの。」
涼子ちゃんが真剣な顔で言う。
「うんうん。」
私の思わず真剣な顔付きになる。
「同じバイトの子なんだ。」
「まじ!?だれっ?」
「本田君。」
一瞬時が止まったように感じた。
私は、真剣な表情のまま動けなくなってしまった。
涼子ちゃんとは、同じ大学生という事もあり仲良くしていたから
まさかこんな展開になるとは…思わなかった。
今思うと、拓との恋愛は神様が私に与えた試練だったのかもしれない。
でも、私は目を背けて逃げてばかりだった。
だからなのかな…未だに、彼が通っていた高校がある水道橋に行くと彼を探してしまう。
もう一生直らない癖になるのだろう。
私の中の、拓の時間はあの時のまま止まっている。
ありふれた恋愛の一かけらかもしれないけれど…
拓の残像は、いつまでも私を縛り続ている。