3、恋多き女
「ねえ。直〜顔にやけてるんだけど…。」
大学の講義中、祥子が私に小声で話しかける。
「えっ!…にやけてないよお。やめてよーーー。」
私は、いや〜な表情を浮かべて言葉を返す。
祥子は、恋多き女。恋愛経験豊富な子。
ミニスカでセクシーな服も多いんだよ。
祥子は。
そして、唯一エッチな話もできる友達。
私がにやけていた理由は、お気に入りの本田くんからメールがきたから。
『今日は、学校終わったあと予定ないから藤崎さんの家行っていい?』
『いいよ!ゲームもってきてね。』
今日の本田くんと私のメールのやりとり。
授業の後、祥子と私は大学のラウンジでお菓子を食べながら話す。
ラウンジは、大学生のたまり場。窓際のソファが学生の一番人気。
私たちは、窓際のソファーに座れてさらに深い話モードになる。
「社員の大朝さんはどうした?」
「…別れるつもりだよ。」
そう、私はバイト先の社員の大朝さんと付き合ってるつもりだった。
でも、彼には他のお店にも彼女がいた。
わかっていながら早、一ヶ月。
告白されたのは、二ヶ月前。
私は大朝さんの事をすぐ好きになってしまった。
大朝さんは、元大学ラグビー部。
筋肉質で色黒目鼻立ちがしっかりしていて…
いかにもモテてる男。
私に好意を持ってくれているのを知っていた。
それをいいことに、私は大朝さんに甘えてしまったのがきっかけ。
具合が悪くてバイトを早退した日。
「具合悪くてどうしようもなかったらメールしてこいよ。」
その言葉に甘えてメールしてしまった。
大朝さんは、私の大好きないちごを持って家に来てくれた。
初めて見る私服の大朝さん。
首に巻きついてるシルバーのネックレスが、大人の男性に感じてドキドキした。
部屋のあかりは、柔らかなオレンジ色。
大朝さんは、私の首に手をあてる。
「熱はもうひいたみたいだな。」
「はい…。」
いちごのパジャマ姿の自分がかなり恥ずかしい。
「こんなにちゃんとお前の顔見たのは初めてだな。」
大朝さんの目が真剣で私は目をそらすことが出来なかった。
その日から、もう大朝さんの事好きになってた。
そこからは、もうあっという間に関係は進んでいった。
私も、大学2年の終わりまで本当に恋多き女だった。
恋愛しないと満たされない。
誰かを、好きでいないと生きている価値がない。
今思うと寂しさやストレスのはけ口だったのかもしれない。
…今日も、夢の中では拓が私に笑顔を向けてくれた。
私は、拓の背中に手をまわす。
拓、お願い…もうどこにも行かないで。
一緒にいて。
もっともっと楽しい日々を二人で作って行きたかった。
本当は、大好きだったの。
ただ、自分の寂しさに負けてしまっただけ。
拓…拓。好きだよ。
目が覚めた私は、せめて夢の中だけでも拓に会いたくて目を閉じる。
いつまでも、色あせることのない思いがあるのなら
私は、その人を思う心を大切にしていきたい。
決して、もう交わることのない運命だとしても。
彼に、出会えたことが奇跡だというなら。
彼は、もう私の事を忘れてしまったとしても…。
ねえ、彼のことを思うだけで私は昔にタイムスリップできるのだよ。
そして、もう二度と戻らない時なら今を大切にしようね。
今、愛してくれている人を精一杯愛そうね。
拓、会いたいよ。