13、この夜から
「今日飲みに行かない?」
バイトが終わって事務所にいる涼子ちゃんと、佐治くんに声を掛けた。
佐治くんは、まだバイトに入って間もないけど一つ学年が下の大学生。
大人しくて癒し系。
涼子ちゃんとは、拓の事があってからなかなか話すことができなかったから
これがいい機会だと思った。
二人よりも誰かが居てくれた方がやんわりと話せる気がした。
外は、少し雨が降っているようだった。
さて、みんなで飲みに行こうかとした時に事務所のドアが開く。
永井くんが入ってきた。
永井くんは、高校生の時からずっとバイトしている大先輩。
年齢は一つ下だけど。
この子も大学生。
「永井、今日バイト入ってないじゃん。」
涼子ちゃんが言う。
「シフト見に来た。」
永井くんは、大人しい性格。
半年以上は一緒に仕事してるけど、まともに口を聞いたことがない。
「これから飲みに行くけど一緒に行く?」
涼子ちゃんが声をかける。
「行く。」
永井くんが、即答すると私たちはすぐお店を出た。
こんな雨の日は、風に乗って塩のにおいがする。
東京湾が近くにあるから。
私の故郷も、海がある。
小学校も中学校も窓から海が見えた。
だから、海を見るのも好き。
潮風にあたるのも好き。
佐治くんも、一人暮らしでバイト仲間のたまり場に使われていた。
「今日はどうする?」
私がみんなに声掛ける。
「なおちゃんの家にしようよ!」
涼子ちゃんがそう言う。
「いいよーじゃ色々買って行こう!」
コンビニに行ってお酒やお菓子などを大量に買い込む。
「永井はなおちゃんの家初めてだよね?!」
涼子ちゃんがそう声をかける。
永井くんも、佐治くんも大人しいタイプの大学生。
おしつけがましくなく、私は友達として付き合いやすい。
いま思うと、この夜が
人生を変えるきっかけだったのかもしれない。
人との出会いはいつだって不思議なもの。
生かすも殺すも自分次第。
人との関わりは大切にしなければ。
壊れてしまう。
大切な人はいなくなってしまう。
それに気がつくのはもっと先のことだった。