12、夜の風
今日は、水道橋で拓との待ち合わせをした。
拓の学校が終わり、二人でラク―アをぶらぶら歩く。
もう9月に入り、夜は涼しい風が髪の毛を揺らしていく。
拓のサラサラの黒い髪が綺麗で、私は思わず手を触れたくなるのだが
なんだかためらい手をひっこめる。
もう、付き合って4カ月がたちだんだん二人でいるのも慣れてきた。
ドキドキというよりは、隣にいると安心感がある。
こんな風に穏やかに二人で過ごしていければいい。
そう思ってる。
「拓、そろそろ帰ろうか。門限もあるし。」
「そうだな。じゃあ、またバイトで会おう。」
「やっぱり、ここで別れるのさみしいから家までついて行くよ。」
私は、一人暮らしで門限もないお気楽な大学生。
バイトがないと自堕落な生活だから。
どんどん、拓中心の生活になっていった。
拓の家は、私の近所から引っ越しをしてしまった。
といっても電車で10分だしそんなには遠くない。
JR下総中山駅に着き、手をつないで歩く。
ひんやりとした風が気持ちいいのに、同時にせつなくなって
ついついいつものように、
ああ寂しいなあ。
もっと一緒にいたい。
キスしたい。
抱きしめられたい。
そう思ってしまう。
私は、いつの間にか愛されたい症候群になっていた。
愛したいって強く思い続ける事ができたらもっと拓と長く居続ける事ができた。
結果が出てから気がついても遅い。
なのに、私は愚かだった。
自分の気持ちばかりで…。
拓の家の前まで着いた。
「じゃあ。」
そういって、軽くキスをする。
マンションの自動ドアを拓がくぐるともう私は追いかける事はできない。
彼の後ろ姿をみると、なんだか世界にたった一人になってしまったような
感覚になった。
帰りの電車は、上りなのですごく空いている。
私は、もっと拓と一緒に居られたら満たされるのかなあ。
そんな事をぼんやりと考えていた。
電車の窓から見える、川沿いのショッピングモールの明かりがやたら綺麗に見えた。
あー一人の部屋に帰りたくない。
そう思いながら家に着いて、私は何もせずにテレビを見て寝てしまう。
いつもと同じ、心にも進歩のない日々を過ごしていた。