この小説を読んでも、貴方は何も得られません。
題名の通り、この小説を読んでも
貴方の人生に何かもたらす訳でもなく、
生き方のヒントやら、面白いどんでん返しやら、
臨場感溢れるようなハラハラさせる展開やら、
文学的な視点から見た考えやら、
甘いラブストーリーやら、
空想の世界に想いを馳せるなんてこともありません。
小説とも呼べません。
まあでも、せっかくこのお話を開いてくれたんで
よかったら読んで下さいな。
僕(語り手)=社会人
彼女=大学生
まあどこにでもいるカップルです。
大学生の彼女が「夜の道を散歩してみたいから付き合ってくれ。」と言い出した。
元々彼女が夜好きなのは知っていた。
勉強をするにも、遊ぶにも、何をするにも夜だった。
僕が寝ようとする時間帯から活発に行動し始め、私が寝ていると頻繁に起こしてくる。
しかし当の僕は完全な朝型人間で、夜が好きという考えすら理解できないし、
もし彼女が夜無意味に出歩くような真似をしようものなら
夜道の危険性についてこれでもかと言うくらい説明してやろうと心の決めていた。
そんな僕に「夜道を散歩したい」等と言い出すなんて、、、と呆れてしまったが、
よく考えてみれば
本来なら1人で黙ってこっそりとできるはずの散歩にわざわざ誘うというのは
誠意の表れでは?と捉えてしまった。
今考えてみればただひとりで歩くことに危惧しただけだったのかもしれないが。
しかし、夜道の危険性に配慮するようなタイプではなかったため、きっと前者の方だろう…と信じたい。
少し考えて、僕はこう返答した。
「1回だけだぞ。それ以降はもう無いからな。」と。
意外にも彼女はすんなり受け入れて、
日時やら場所やらを決め始めた。
普段のデートよりも積極的に取り組んでいたのが少し残念だった。(自分から言い出したデートなので当たり前といえば当たり前だが)
彼女は本当に楽しそうな顔をしていた。
そして共に夜道を散歩する日が来た。
僕は眠くて眠くて仕方なかったが、
やはり彼女はいつものデート以上に楽しそうにしている。
「自分の彼女の作り笑顔というのはとても上手で、なかなか本物と見分けがつかない」という今までの自分の考えを根底から覆してしまうほど、無邪気で可愛らしい笑顔だった。
散歩の内容自体は大したことのないものだ。
場所も彼女の家から少し歩いた都心から外れた街で、彼女自身もあまり詳しい場所ではないという。
しかし歩いてみれば、意外と暇を持て余すこともなかった。
静かな夜道の中には溶け込めない、道端に不自然な人工の光を散らかす自動販売機を見て
「レッドブルとモンスターってどっちが美味しいと思う?」と問われ、ついその議題についての論争を交わしてみたり。
と思えば大学の先輩の惚気がうざいのよね、と珍しく愚痴を零してみたり。
はたまた、昼間では入らないであろう人気のない裏路地に入り、
珍しい店を見つけては「この店が空いてる時間にまた来ようね!」と契を結んだり。
そして、少しの安心感と大きめの気まずさを混ぜ合わせたような沈黙が流れたり。
そんなことを繰り返しながら一時間ほど経ち、
流石に疲れた表情をした僕を見て、
彼女はここぞとばかりに「近くに公園があるからそこで休もう!」と提案してきた。
言われるがままついていったのは、住宅街の中に忘れられたように眠っている公園だった。
申し訳程度に遊具とベンチ、自動販売機が設置してある他は、廃れた緑しかない公園だ。
真っ先にベンチに座ろうとすると、
「ねえ、ブランコで二人乗りしようよ!」と誘ってくる彼女。
休むために来たんじゃないのか、、、と突っ込みそうになったが、
「ねえ見て、今日はそのためにスカートじゃなくてズボンできたんだ!」と子供のように笑いながらくるっと一回転してみせる彼女を見たら、
ただ頷くことしか出来なかった。
「そんな顔もするんだな。」なんてドラマじみた台詞を喉元でやっと飲み込みながら。
しかし、僕がブランコでも酔ってしまうほど三半規管が弱いのだと知ってか知らずしてか、
二人乗りを始めてからすぐ、
彼女は降りて隣のブランコに移動し、
少しふてくされた様子で地面をけるように、ひとり漕ぎはじめる。
そして、先程のような奇妙な沈黙を破り、
「ドラマだと、こういう場面では〝星が綺麗だね〟とか言うんだろうけど、、」と、夜空を見上げた。
星はひとつも見当たらない、真っ黒な夜空。
きっとお月様が星をみんな食べてしまったんだよ、とでも言えば少しは笑ってくれたのかもしれない。
でも、言うか言うまいかと迷っている間に彼女はまた口を開いた。
「でも、私こういう空も好きなんだよなあ。星も月もない、真っ黒な空もさあ。」
思わず彼女の横顔を見た。
きっとこれは、嘘偽りない本心なんだな、と思う。
せっかく来た、たった1度の夜の散歩の雰囲気を壊さないように配慮したわけでもなく、本当に好きな夜空なんだろう。
好みでない料理を食べても、彼女の興味をそそるような内容で無いはずの映画を見ても、同じような笑顔で「美味しい。楽しい。」と言ってくれた彼女。
しかし、今まで浮かべていたそれらの綺麗な笑顔を全て否定するかのようなその表情は、完璧な笑顔でなくとも僕がいちばん求めていたものだった。
少し傷心した私が俯き、言葉にならない声で笑い返すと、またあの奇妙な沈黙が流れる。
その余りの奇妙さに、
「どうやら、心地良さと心地悪さというものは
一見対義するものの様だが、実は共存できるものではないのか?」と頭の中で持論を組み立てつつ彼女を見上げた。
しかし、どうやらそんな事を考えてしまう程の気まずさを感じているのは僕だけのようだ。
ブランコを微かに体で揺らしながら、空を見上げる彼女は、
まるでこの時間が永遠に続くと信じ込んでいるように見えた。
夜が明けることを知らない小鳥のように夜を楽しんでいた。
見ているうちに、先程の沈黙の中の少しの安心感が
だんだんと消え失せていくのがわかる。
「これ、今日だけだからね?1回きりだからね?」
心の中で確認してみても、応えは返ってこない。
そこから、自分が泣いているのに気づくまで
さほど時間はかからなかった。
「ねえちょっと、どうして泣いてるの?」
小さな嗚咽に気づき振り返った彼女が驚いたように聞いてくる頃には、
誰もが拭いきることを放棄してしまうのでは無いかと思ってしまうほど涙が溢れていた。
寂しがり屋でひとりが嫌いな僕が、
あの時ほど「人が居なくて良かった」と感じるのは
多分あれが最初で最後だろう。
理由もわからないまま流れてくる涙ほど、
恥ずかしいものは無いから。
でも、世界一大事な人にそれを見られてしまうことに比べたら、
彼女以外の地球人全員に晒された方がマシだったかもな、なんて思って笑った。
「大丈夫だよ。」
宥めるように、そして自分に確かめるようにそう呟く彼女。
「きっと星がないのは、お月様が星をみんな食べちゃったせいだよ。きっと、ね。」
その声が彼女のものか、自分のものかわからなかった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
本当に感謝です。
別に何も得られなかったでしょう?
ごめんなさい。
「空がずっと青ければ、人々は皆機嫌がいいのに、
どうして神様はお空をたまに黒く染めたり雨を降らせたりするの?」
と少女が妖精に聞くと、
「空がずっと青いんじゃ、この世に絵描きも詩人も存在しないだろう?」
と、言ったそうです。
この小説の意味は、つまりそういう事。




