私はホンダモンキー(本田速人所有)
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係ありません。
私はホンダモンキー。ホンダのミニバイクです。
最初の持ち主はお爺さんだったかな。田んぼの見回りに使ってくれた。
普段は納屋の中でお昼寝。田んぼシーズンの朝夕だけ御仕事。
ある日、お爺さんが亡くなった。私は納屋でずっと待っていたけど
誰も乗ろうとしなかった。
気が付けば全身に埃が積もって所々に錆が浮いていた。
お爺さんの息子はバイクに興味が無かった。
納屋の整理をする事になり、私はリサイクルショップに売りに出された。
ある日、私は買われた。
「キャブレターと燃料タンクを掃除すればエンジンはかかるよ!」
私の声が聞こえなかったのだろうか。
新しいご主人はガソリンを入れ替えてキックを続ける。
何とかエンジンはかかったけど調子はよくない。
「おい!このポンコツを商品にして売れ!」ポンコツなんて酷い!
ご主人は部下を怒鳴りつけていた。
「へぇ~い。」やる気が無い返事をして整備の兄ちゃんが
キャブレターを弄って回転を上げ、無理矢理アイドリングさせる。
「キャブレターを掃除してよ・・・プラグを交換してよ・・・」
必死に訴えたけど整備の兄ちゃんは聞く耳を持たない。
そんな私を買おうとする男の子が現われた。
ダメ・・・ここで買っちゃダメ・・・他所に行きなさい
私は叫んだけど彼には届かないのか、強引に買わされたようだ。
ごめんね。こんな店で買う派目になって・・・。
私は買った直後からも不調。何度も直そうと店に来ているうちに
私の形は変わり、ご主人様のバイトは増えていった。
相変わらず私の調子は良くない。
とうとうご主人様はクレーマー認定されて出入り禁止になってしまった。
黒煙が止まらない・・・真っ直ぐ走れない。変な音もする。
走るのが辛い。上手く走れない。ごめんなさい・・・
駐輪場で横に並んだゴリラさんは調子が良さそうだ。
いいな・・・どこで診てもらっているのかな?
私は相変わらず調子が悪い。
「あなた、調子が悪いの?」
「はい。何だか息苦しいです。心臓の具合も良くないし」
「私の御主人様にお願いしてみよっか?」
「バイクの気持ちが伝わるわけないでしょう?」
「念じてみなければ解らないよ。願いよ届け!ご主人さまっ助けて!」
放課後、ゴリラさんの御主人が私の御主人と並んで歩いてきた。
「騙されてるんじゃない?おっちゃんに診てもらいなよ。」
「余所で買ったバイクだけど大丈夫かな。」
「正直に嘘を言わずに話せば力になってくれるよ。」
願いって届くものなんだ。ゴリラさんが言うには、
※効果は個人により違いが在ります だそうな。
息も絶え絶えでゴリラさんに付いて行くと小さな店に着いた。
「余所で買ったバイクは触りたくないんやけどな・・・」
渋る店主らしきおじさんをゴリラさんの御主人が説得してくれた。
代車のバイクは「おじさんに任せれば大丈夫よ♡」と
ご主人様を乗せて行ってしまった。
おじさんは鋭い目で私を見ている。
鋭い眼・・・その奥に見えるのは何だろう。
その夜、おじさんは私をバラバラに分解した。
険しい表情だ。やはり私は弄り壊されていたらしい。
|フレーム(骨格)以外は怪しくて使いたくない部品のオンパレード。
おじさんは部品を調べては「何だこりゃ?」を繰り返している。
おじさん、助けて・・・まだスクラップになりたくない・・・
祈りが通じたのだろうか。数日後、私は徹底的に直されることになった。
私の状態を言いたご主人様はちょっと引いてた。
予算の都合で中古部品や在庫部品を集めて組まれるみたいだけど
メーカー不明な訳のわからない部品より良い。
おじさんの師事の下でご主人様が作業を進める。
徐々にだけど私は往年の姿を取り戻していく。
殆どノーマル部品だけど社外部品も使ってあるみたい。
エンジンを分解して組み立てたのはご主人様だ。
ご主人様にエンジンを組み立ててもらうのは私達にとっては
愛情の証し。ちょっとしたステータスなのだエッヘン。
ただし、きちんと組み立てられていればの話だけど。
「わ・・・私の御主人様は女の子だもんっ!逆に壊されるもん!」
ゴリラさんはちょっぴり悔しそうだった。
タンクとサイドカバーの塗装は高級外車の並ぶお店でやってもらった。
「年寄りのハイブリッド車を塗るついで」に塗ってもらったシルバー。
地味だけどさりげなくて良い色だと思う。
エンジンもパッキンやゴム部品が交換されて新鮮な気分がする。
マフラーとキャブレターは社外品だけど息苦しさは無い。
思いきり深呼吸してもむせる事もない。ああ・・・気持ち良い。
畦道を走っていた私は通学で使われることになった。
ご主人様がリヤボックス・ウインカーブザーを付けてくれた。
無駄に弄るのではなくて、自分の欲しい機能を補う為の改良だ。
ご主人様を乗せてツーリングに出かける。デートにも走る。
今日も琵琶湖を見ながら走る。ゴリラさんも一緒だ。
ゴリラさんは以前スクラップ寸前になった事が有るんだって。
思い出すと油圧が低下してアイドリングがラフになるらしい。
だから詳しい事は話してくれない。
その後、私とゴリラさんは同じガレージに収まることになるのだけど
それはまた別のお話。
私はホンダモンキー。ホンダのロングセラーの中の1台。
『大島サイクル営業中』で本田速人がモンキーを買った辺りと
大島サイクルを訪れたあたりのお話です。
本編もよろしくお願いします。